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第147話:ごめんなさい。本当にネタがないときどんなタイトルにすればいいのかわからないの。

 歩き続けて四日目の夕暮れ間近、俺たちはようやくドレフォン大迷宮に近いバルリードという町に辿り着いた。かつてドレフォン大迷宮の攻略に集まった冒険者たちで賑わったとされるこの町は流行病の猛威にさらされ、今では町全体が酷く寂れてしまっている。


 通りに面した建物にひと気はなく、住民の姿も疎らだ。王都はもちろん、プノシス領から王都への道のりで立ち寄った田舎町でも、もう少しひと気はあった。


「ここがドレフォン領……」


 隣を歩くルーグが町の様子を見てぽつりと呟く。寂れてしまった母親の生まれ故郷を見て思うところがあったんだろう。


 町の規模や通りに並ぶ店の数を見れば、流行病が発生する前には町全体がとても賑わっていたことがわかる。だからこそ、建ち並ぶ店のほとんどが閉店してしまっている現状が物悲しい。


 町の人々は俺たちを……と言うより、ルーカス王子が乗った豪奢な馬車に視線を奪われていた。何人かは中に乗っている人物を察したのかその場で膝をついて頭を下げている。


「事前に連絡せず乗り込んだみたいね」


「だな……」


 リリィの推察に同意する。王国ではどの地域にも町と周辺地域を治める貴族が居る。王族が自身の町を訪れるとなれば、出迎えて歓待するのが貴族の務めだ。実際、船を降りた港町では領主がルーカス王子のために歓待の場を設けてくれていた。


 そう言った出迎えが無いということは、この町の領主にはルーカス王子の来訪が知らされていなかったのだろう。もしかしたら今頃、ルーカス王子が来たことを知って慌てているかもしれない。


「でも、どうして知らせなかったんだ……?」


「……この町を含む周辺地域を治めているのはドレフォン家。……ドレフォン子爵よ。没収されなかった数少ない領地がこの町とドレフォン大迷宮を含む一帯の地域なのだけど……」


「何か、事情があるのか……?」


 周りの耳を気にしつつ、小声で尋ねる。リリィはチラリとルーグに視線を向け、ルーグが頷いたのを確認してから教えてくれた。


「ドレフォン家の今の当主は、ルーカス殿下の母君の姉の夫。つまり、ルーカス殿下と血の繋がりがない人物なの。ドレフォン家には男児が居なかったから、婿養子を招いたわけね」


「もしかして、それで仲が悪い?」


「さあ。……ただ、ドレフォン家の正当な血を継いでいるのはもうルーカス殿下と妹のルクレティア王女の二人だけなのよ。ドレフォン家の婿養子となった人物と、ドレフォン家の血を持つ妻の間には子供が生まれなかった。そして妻は流行り病で死んでしまったから……」


「かなりややこしいことになってるんだな……」


 名前はドレフォン家だけど、中身はそうじゃないか……。貴族は血の繋がりが最も重要視される。貴族としてのドレフォン家は、俺が想像していた以上に風前の灯火のようだ。


 今の当主がドレフォン家を存続させようとしたら、ドレフォン家の血を持つ子供を養子にするか、それとも妻に迎えて子を作るかしかない。


 ちらりとルーグに視線を向けると、彼女はどこか考え込むように視線を下に向けていた。……そう言う話が、実際にあったんだろうか。


 何にせよ、ルーカス王子はただ母親の墓参りをするためだけにここに来たわけじゃなさそうだ。


 それからも町中を歩き続け、俺たちはようやく宿に辿り着いた。レンガ造りの大きな宿は真新しい外観で、手入れもしっかり行き届いている様子だ。周辺の店も営業していて、他に比べれば活気がある。


 流行病の影響で訪れる冒険者が減少して町の規模が縮小した結果、この宿の周辺だけがかつての町の姿を維持し続けているんだろう。


 宿には大人数の冒険者パーティの宿泊にも対応するためか、一部屋に二段ベッドを四台設置した八人部屋が用意されていた。今回の校外演習では生徒用にそれを四部屋借りたらしい。


 野営のテントと同じように男女それぞれ二部屋に分かれる。荷物を置いてすぐ宿に隣接する食堂で名物だという鶏料理を食べ、入浴の時間になった。


 幸いなことに宿には個室のシャワールームがあり、脱衣場もシャワールームに併設される形だった。これならルーグも周囲の目を気にする必要がない。


 とは言え、いちおう警戒はするべきだろう。


 シャワールームへの出入りが見える位置にあったベンチに腰掛けて、ルーグが出て来るのを待つ。


 そんな折に、ふと宿のエントランスを見るとアリッサさんの姿があった。誰かと話しているようだけど、今回の演習に同行している面々や宿の従業員ではなさそうだ。もしかして、ドレフォン家からの使いだろうか。


 この宿にルーカス王子が宿泊していることはさすがに把握しているだろうから、挨拶に来たのか、もしくは明日あたり屋敷に招待するつもりかもしれない。


 ……まあ、俺には関係ないか。


「お待たせ、ヒュー。なに見てたの?」


 シャワールームから出て来たルーグに問われ、俺は何でもないよと首を横に振ってベンチから立ち上がった。


「久しぶりに熱いお湯が気持ちよかったぁ。体の芯までぽかぽかだよぉ」


 二人並んで部屋に戻りつつ、ルーグは首から下げたタオルで髪を拭きながら嬉しそうに語る。


「移動中は湖や川で水浴びだったもんなぁ」


 それはそれで気持ちよかったけど、やっぱり熱いシャワーの気持ち良さにはかなわない。何より衛生的だしな。


 それにしても、


「ん? どうしたの?」


「いや……」


 学園指定のシャツとハーフパンツというラフな格好から見えるルーグの白磁色の肌は、お湯を浴びてほんのりと赤く上気している。その姿はいつにも増して色っぽく、男の子と言い張るにはやや無理を感じるような……。


「ヒュー?」


「な、なんでもない!」


 思わず見惚れてしまっていた俺は、不思議そうに首を傾げるルーグから慌てて視線を逸らす。彼女の誕生日は五日後。告白するぞと決心を固めるごとに気持ちがはやって仕方がない。ルーグが色っぽく見えてしまうのも、意識しすぎているからだ。落ち着け、落ち着け俺。


 ルーグに不審がられながら深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせ、宿の部屋の中に入る。すると部屋の中では、先にシャワーを終えた同室の面々が車座になって集まっていた。


「戻ったか、ヒュー、ルーグ。二人も入るといい」


 ブラウンに促され、俺たちはとりあえず輪の中に入る。何をしているのかと思えば、どうやら干し肉や夕食の残りを肴にして雑談に興じているようだ。酒は置いてなさそうだな……。


 昨日までもテントが同じだったけど、火の番や翌日の移動を考えてみんなさっさと眠っていた。でも明日は休息日で一日オフだから、これからどれだけ夜更かししても問題ない。


 こうして男だけで集まって取り留めなく話すのは、前世の修学旅行を思い出す。


 今夜は長くなりそうだ。

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