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第141話:来ちゃった♡

「おはよう、諸君!」


 俺たちの元へイディオットが歩み寄って来る。その後ろには肩身が狭そうなリューグも一緒だった。リリィたちのやり取りは見ていただろうから、何となく心中は察せられる。


「おはよう、イディオット。それからリューグも」


「おはようございます、ヒューさん。皆さんも。重ね重ね妹が申し訳ありません……」


 ぺこりと頭を下げるリューグに、ルーグとリリィは「誰だろう?」と首を傾げる。俺が今回の校外演習に同行する冒険者でティーナの兄だと紹介すると、リリィは「なるほどね」と頷いた。


「リリィ・ピュリディよ。妹には色々と手を焼かされているようね」


「ええ、まあ。あはは……」


 乾いた笑みを浮かべるリューグにはどことなく緊張の色を感じる。それはティーナの事で申し訳なさを感じているというよりは、リリィに対して特別に緊張しているような……。いや、さすがに気のせいか……?


「妹にはよく言いつけておきます」


「ぜひそうしてちょうだい」


 リリィも必要以上にリューグを責める事はなく、溜息を吐いて引き下がる。視線の先にはまだレクティに密着しているティーナが居た。俺が感じていた以上に、リリィの中でレクティの存在って大きいのかもしれない。


「ところで、やけに物々しいが君たちは何か聞いているか?」


「物々しい?」


 何の話だろうか。イディオットに尋ねられ思わずオウム返しをしてしまう。イディオットは無言で視線を周囲に巡らせる。その後を追ってみると、俺たちを遠巻きに見守る腰に剣を携えた旅装束の大人たちの姿が見えた。


 目立たないように立っているから今の今まで気づかなかった。よくよく周囲を観察すれば、その数はかなり多い。イディオットが物々しいと言うだけある。


「冒険者かしら……?」


「いえ、ここに来ている冒険者は僕とティーナを含め五人だけのはずです」


「どう見ても五人以上居るよな……」


 ざっと数えて十数名。もしかしたら俺たちから見えない位置にも潜んでいるかもしれない。スキルを〈忍者〉にしておけばよかったか……? けど、襲って来る様子は無いから敵ってわけじゃなさそうだが……。


「もしかして、王国騎士団?」


 ルーグがポツリと呟く。


 ああ、確かに! 見覚えのある顔が幾つかある気がする。レチェリーの件やマリシャスの件の時に見かけた顔だ。


 俺たちが見ている事に気づいたんだろう。何人かはフレンドリーにこっちへ手を振ってくれている。どうやら隠れていたわけじゃなく、ただただ端っこに待機していただけらしい。


「うむ、間違いないだろう。訓練場でも見かけた顔ばかりだ」


「そう言えばイディオットは王国騎士団の訓練に参加してるんだったな。どうして騎士団がここに居るのか聞いているか?」


「いいや……。だから君たちに話を聞きに来たのだ。アリッサ女史やルーカス殿下から何か聞いているかと思ったのでな」


「いや、俺は特に……」


 昨日アリッサさんと一緒に居たルーグとリリィにも視線を向けるが、彼女たちも首を横に振る。どうやら何も聞かされていないらしい。


「そうか……。数は少ないが、あそこに居るのは騎士団でもトップレベルの実力を持つ精鋭たちだ。そんな方々が、王立学園に何の用かと気になる。まさか僕らを護衛するために来たわけでもあるまい」


「そうだな……」


 もしかしたら、とルーグに視線を向けてしまうが、彼女は小さく首を横に振る。アリッサさんや前から学園に潜入して警護してくれている騎士団員たちならともかく、新たに十名以上の精鋭を護衛に付けるって言うのはあまりに不自然だ。


 いったい何のために……?


 ふと、昨日の事が頭に過る。マリシャスとの面会のために訪れた病院に現れた王国騎士団副団長のロアンさんはこう言っていた。




『そうそう、殿下から伝言を預かってたんだった。すっかり忘れてたぜ。()()()()()()()()()、だとよ』




 ……なんかめちゃくちゃ嫌な予感がして来たんだが。


「全員集合ッス、ひよっこどもーっ!」


 アリッサさんの大声が響き渡る。俺たちは会話を切り上げアリッサさんの元へ集まった。ティーナから解放されたレクティと、遅刻ギリギリで慌ててやって来たロザリィもここで合流する。


「全員揃ってるッスね。そんじゃ、今日からの校外演習に同行する冒険者の方々を紹介していくッスよー」


 アリッサさんは俺たちの前に並び立った五人の冒険者をそれぞれ紹介していく。リューグとティーナ以外の三人は全員Cランクの中堅冒険者だった。毎年校外演習の依頼を受けているらしく、挨拶も慣れた様子だ。


 そしてリューグの紹介の際にはクラスの女子から、ティーナの時には男子からそれぞれ歓声が上がった。年齢が近い上にリューグはかなりの美形で、ティーナもレクティに負けず劣らず顔が良い。人気を集めるのはわかる気がする。


 同行する冒険者の紹介を終えたアリッサさんは、一度咳払いをした。


「えーっと、それからもう一人。どうしても君たちに同行したいってワガママを言い出した困ったお友達を紹介するッスよ~」


 苦虫を嚙み潰したような顔って言うのは、きっと今のアリッサさんの表情のような事を言うんだろう。額に手を当ててこれ見よがしに溜息を吐くアリッサさんの視線の先、アリッサさんの背後にあった馬車の扉が開き、一人の男が現れる。


 彼はシルクのようになめらかで美しい長い金髪を靡かせ、颯爽とアリッサさんの隣に並び立った。黒色の目隠しをしたその人物に、クラスメイト達は息を呑み一斉に片膝をついて首を垂れる。


 突然の出来事に思考が停止してしまい、立ち尽くしていた俺とルーグの手をリリィが慌てて引っ張り他のクラスメイトたちと同様の姿勢にさせた。


 まさかとは思っていた。けど本当に来るのかよっ!


「やあ、初めまして。リース王国第三王子のルーカス・フォン・リースだ。いろいろ事情があって君たちの校外演習に同行させてもらうよ。何かと気を遣わせてしまうだろうけど、どうぞよろしくね?」


 ルーカス王子は口元に微笑をたたえ、まるで友人にするかのような軽い口調で挨拶をする。「はーい、はくしゅー」とめちゃくちゃおざなりなアリッサさんの拍手に釣られてクラスメイトたちからまばらな拍手が起こった。


 もしかしてアリッサさんもルーカス王子が来る事を知らなかったんだろうか。


 何にせよ、校外演習は出発前から波乱の展開を迎える事になった。


 先行きに不安しかないんだが……。


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― 新着の感想 ―
首を垂れるだと反省したり考え込んだり恥ずかしさで俯くといったマイナスイメージ 頭を垂れるだと敬意や謙虚さを表すイメージがあるなぁ 明確な区分は無いという話もありますが
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