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第139話:ルーグ「ぎるてぃ!」

 それから俺たちはテラス席でランチを済ませ、学園に帰り着くまでの間にアクセサリー類を取り扱う露店を幾つか見て回った。


 王都の外から来た行商人が開く露店だけあって、出所の怪しいアクセサリーが幾つも並んでいる。〈鑑定〉スキルに切り替えていなければとんでもない代物を掴まされてしまっていただろうな……。


 ただ、そんな地雷原の中にお宝は眠っているもので、三店舗目でようやく「これだ!」という指輪を見つける事が出来た。


 品質はA。貴重性はC。使われている宝石はアイオライト。ルクレティアの瞳とそっくりな色味をしている。そして何より値段が良い。〈鑑定〉スキルで表示されている適正価格よりも、実際の値段が三割近く安かった。


 店主に理由を聞けば、どうやら見習いの若い職人が作った指輪らしい。職人のネームバリューが無いのと、埋め込まれているアイオライトが小粒で派手さがないため、なかなか買い手がつかなかったそうだ。


「可愛い彼女さんへの贈り物かい?」


「え、ええ。まあ」


「なら彼女さんに免じてお安くしておくよ!」


 店主はレクティが俺の彼女だと勘違いしているみたいだけど、わざわざ訂正するのも変な気がしてとりあえず受け流す事にした。厳密に言い出すとそもそも彼女への贈り物ですらないのだが、店主に一から説明する意味もない。


 店主は店頭価格からさらに二割引、適正価格の半額を提示してくれた。俺の予算でも余裕を持って買える額だ。むしろこんなに安くしてもらって大丈夫なのかと不安になってしまうが、そこはさすが商人と言うべきか、


「そうだ、同じ職人の耳飾りとネックレスもある。もしよかったらそれも見てやってくれ」


 と、すかさず別の商品を売り込んで来る。もしかしてこっちが本命かと警戒したが、どうやらそう言うわけでもないらしい。


 見せてくれた耳飾りとネックレスはどちらも品質Aだけど貴重性がE。どうやら市場に多く流通している価値の低い宝石で作られているらしく、適正価格も安かった。


 ネックレスに使われているのはアメジスト。耳飾りは翡翠か……。


「指輪を作った職人が練習で作ったアクセサリーさ。あまりに出来が良かったんで買い取ったんだが、なかなか売れなくってなぁ。王都の住民は派手に宝石が使われてなきゃ見向きもしてくれないらしい。その点、兄ちゃんの目利きは本物だ。こいつの価値がわかってるんだろう? もしかして〈鑑定〉系のスキル持ちかい?」


「えーっと……まあ、そういう所です」


 まさかスキルまで見抜かれるとは、商人の目利き恐るべし……。スキルを見抜くスキルでも持っているのかとヒヤッとさせられた。


「どうだろう、兄ちゃん。その指輪とセットでこの耳飾りとネックレスも買ってやってくれないか? もちろんセット価格でさらにお安くしておくよ。こんなもんでどうだい?」


 商人が提示した金額はちょうど予算内ギリギリの額だった。買えばお金は雀の涙ほども残らず、財布は再び素寒貧に戻ってしまう。


 売り込みを断っても商人は指輪を売ってくれるだろう。指輪だけならお金も半分くらいは残るし、校外演習から戻って来た後にルクレティアとデートしたりする時に使う事が出来る。後の事を考えれば、絶対にお金は残しておいた方が良い。


 ……と、商人が見せて来たネックレスと耳飾りに使われている宝石が、アメジストと翡翠じゃなければそう思っただろうな……。狙いすましたかのような偶然の一致は、もはや運命とか宿命とか天命とかそういう類にすら思えてしまう。


「わかりました。全部ください」


 ついでにそれぞれにケースもお願いします、と有り金が全て入った巾着袋をそのまま店主に手渡す。中身を確認した店主は「まいど!」と巾着袋を懐に入れて指輪、ネックレス、耳飾りにそれぞれ専用のケースを用意してくれた。


「良い彼氏を捕まえたなぁ、お嬢ちゃん」


「え、えっと……はい」


 店主に話しかけられたレクティは困った様に眉尻を下げて苦笑する。予想していた反応と違ったんだろう、店主が首を傾げて訝し気な視線を俺の方へ向けて来た。


 ……根掘り葉掘り聞かれる前に退散したほうが良さそうだな、うん。


「ありがとうございます。行こうか、レクティ」


「は、はいっ」


 箱を三つ受け取り、俺とレクティは露店を離れて学園への帰路につく。しばらく歩いて、ちょうど通りかかった公園に立ち寄ることにした。


 初夏の日差しから逃げるように木陰のベンチに座り込む。ここで少し休んでから学園に戻っても、夕暮れには十分に間に合いそうだ。


「素敵なプレゼントが見つかって良かったですね、ヒューさん」


「レクティが付き合ってくれたおかげだよ。ありがとな、レクティ」


「い、いえいえっ。わたしはただ一緒に居ただけでっ」


 そう言ってレクティは謙遜するが、たぶん一人だったら何をプレゼントするか決めかねて夜まで探し回っていたような気がする。レクティのおかげで指輪のプレゼントを思いつけたし、露店で良い商品にも巡り合えた。


「ふふっ。今日はヒューさんとお出かけが出来て楽しかったです」


 初めは二人きりでどうなる事かと思ったけど、一緒に居る内にお互いに変な緊張が解けたんだろうな。今は自然と会話が出来ている気がする。時折ある無言の時間も、今は気まずさよりも心地よさの方が大きかった。レクティもそう思ってくれていたら嬉しいな。


「そう言えばさっき、指輪以外にもアクセサリーを買っていましたけど、それもプレゼントですか?」


「え? ああ、うん。そんなところかな」


 アメジストのネックレスと、翡翠の耳飾り。それは確かにプレゼントではあるけれど、渡す相手はルクレティアじゃない。我ながら安直だとは思うんだが、アメジストのネックレスはレクティに、翡翠の耳飾りはリリィにそれぞれプレゼントしようと思う。


 俺が贈ったプレゼントを身に着けて欲しい。そう想ってしまうこの感情は、おそらく独占欲と呼ぶんだろう。欲張りな自覚はあるし、我ながら最低な糞野郎だとも思う。だけど同時に、他の誰かにレクティとリリィを渡したくないと想う自分が確かに存在している。


 このプレゼントはレクティとリリィを幸せにするのは俺だという決意表明だ。


 ……とは言え、レクティとリリィにプレゼントを渡すのは、校外演習から帰ってからにしよう。これがキスから先……かはわからないけど、一番がいいって言われたしな。


「ルーグさん、喜んでくれるといいですね」


「そうだな」


 今はルクレティアに誕生日プレゼントを渡して告白する。


 それが何よりの最優先だ。


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