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第136話:無人島に漂着しても生き残りそうなヒロインランキング第一位

 ロアンさんと別れてマリシャスの病室の方へ引き返すと、病室の外でレクティとロザリィとシセリーさんが俺を待ってくれていた。


「面会はもう済んだのか?」


「いいえ、わたくしとシセリーはもう少しだけおじい様と話して行きますわ。聞いてくださいませ、ヒュー様。おじい様ったらわたくしが死んだと勘違いしてほとんどご飯を食べてなかったんですのよ? 校外演習中にポックリ逝ってしまわないようお医者様に監視をお願いしておきませんと」


 ロザリィは冗談っぽくやれやれと肩をすくめる。その表情には安堵の色が浮かんでいた。やつれては居たが、マリシャスの無事な姿を見て安心したんだろう。


「レクティとヒュー様はこの後予定があるのでしょう? ですから、今日はここで解散としましょう」


「いいのか?」


「ええ。今日はありがとうございましたわ、ヒュー様、レクティ。あまり長々と付き合わせるのも悪いですし、二人のデートを邪魔するのも野暮ですもの」


「ろ、ロザリィさんっ。で、デートじゃないって何度も言ってるのに……っ」


「え? でも、これから二人きりでランチをしてお店を見て回るのですわよね? シセリー、これってデートですわよね?」


「ええ、どう聞いてもデートですね」


 ロザリィに問われたシセリーさんはくすりと笑って答える。いやまあ、確かにデートと言われても否定はしづらいのだが、別の女の子の誕生日プレゼント探しに付き合って貰うのをデートと言うのはさすがに抵抗がある。


「ロザリィ、レクティにはルーグの誕生日プレゼント探しに付き合って貰うだけだよ」


「そ、そうですよぅっ」


「ふふっ、《《そういうこと》》にしておいてあげますわね」


 事実を述べただけなのだが、ロザリィはすっかり俺とレクティがこれからデートするものと信じ込んでいるらしい。ルーグの誕生日プレゼント探しも言い訳みたいな感じで受け取られたようだ。


 ……まあ、同性ルーグの誕生日プレゼントを探すのにわざわざ異性レクティを誘うのも普通に考えたら変な話だしな。勘違いされても仕方がないのかもしれない。


 ロザリィはレクティの背後に回ると、レクティの両肩に手を置いて耳元で囁くように言う。


「(応援してますわよ、レクティ。リリィさんは強敵ですけれど、レクティならきっとヒュー様を射止められますわ)」


「ふぇっ……!?」


「後でどんなデートだったか教えてくださいましね。行ってらっしゃいですわっ!」


「ひゃぁっ!?」


 レクティはロザリィにトンッと背中を押されてこちらへ飛んでくる。慌てて俺がレクティを抱きとめると、レクティは顔を真っ赤にして目尻に涙を浮かべていた。


「ご、ごごごめんなさい、ヒューさんっ」


「いいや、レクティが謝る事じゃない。ロザリィ、レクティをからかわないでやってくれ」


「友人としての励ましですわよ。どうぞごゆっくりですわ~っ」


 ロザリィはひらひらと手を振ってマリシャスの病室の中へ入って行ってしまう。シセリーさんもぺこりとこちらに頭を下げてその後に続いて行った。……まったく。


「あ、あのっ、ヒューさん……っ」


「ん? どうかしたのか、レクティ?」


「う、受け止めてくれてありがとうございましたっ。そ、そろそろ放してもらえると……っ」


「あっ、すまんっ」


 レクティを抱きとめたまま、思わずそのまま抱きしめてしまっていた。道理でさっきからカモミールのような優しくて甘い香りがしていたわけだ。


 慌ててレクティから離れると、彼女は心臓の辺りに手を置いて何度も深呼吸を繰り返す。


 レクティが落ち着くのを待ってから、俺たちはとりあえず病院の外へ出る事にした。


「ご、ごめんなさい、ヒューさんっ。ロザリィさんにあんな勘違いをさせてしまって……!」


 歩きながら、レクティは心の底から申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。


「そんなに気にしなくても大丈夫だよ、レクティ。勘違いされても仕方がないしな」


 ルーグの正体を知らないロザリィに本当の事を話すわけにはいかないから、これ以上は説明のしようがないのだ。


「で、でもでもっ、わたしなんかとデートしたって噂が流れたらヒューさんの評判に傷がついちゃいませんか……?」


「傷?」


 いったい何の傷だろう。レクティは自己評価が極端に低すぎて、時折変な気遣いをしてくるんだよな……。俺に評判なんてあってないようなものだし、仮にレクティとデートをして傷がつくんだとしたら、それはきっと名誉の負傷的な奴だろう。


「よくわからないけど、傷程度でレクティとデート出来るなら安いもんだと思うぞ」


 イディオットだけじゃなくて、クラスの男子ならほぼ全員が名誉の負傷を選びそうだ。それくらいレクティは魅力に溢れている。


「はぅ……、ヒューさんはズルいです」


 レクティは両手で顔を覆ってポツリと呟く。レクティに自信を持ってもらいたくて少し意識して言葉を選んでいるわけだが、本当にこれであっているのかは少し不安だ。


 病院を出て、俺たちはとりあえずランチが食べられそうな場所を探す事にした。


「レクティ、何か食べたいものってあるか?」


「い、いえっ、特には! 口に入れてお腹が痛くならなければ何でも食べれますっ」


「そ、そうか」


 俺に遠慮して言っているとかではなく、本気で思ってそうな感じだな……。両親を亡くして貧民街で育ったレクティにとって、食事は生きるための手段でしかなかったんだろう。よくぞ無事に生き残ってくれたと思わずには居られない。


 入学当初は枯れ枝のように細かった手足は、2カ月以上が過ぎてようやく細さが目立たなくなってきた。痩せこけていた顔立ちも、以前に比べれば不健康さはまったく感じない。


「ヒューさん……?」


「っと、すまん。それじゃ、学園の方に歩きながら良さそうな店を探そうか」


「はいっ」


 ここから学園まではそこそこの距離がある。歩いている内に良い店が見つかるだろう。


 歩き始めて数分、俺は内心で少しばかり頭を抱えていた。


 ……俺、レクティと何を話せばいいんだ!?


 思えば、レクティと二人きりで行動した事は今まであっただろうか。記憶を辿ってみると、どんな場面にもリリィやルーグが居たような気がする。数少ない二人きりのタイミングは、クラス対抗戦に向けた模擬集団戦後の保健室と、大聖堂での事件後くらいか……。


 と言うか俺、その時レクティとキスしたよな……?


 レクティと二人きりで話すのはそれ以来だ。意識すると、急に心臓の鼓動が早くなる。ついさっきまで普通に話せていたはずなのに、今は何を言葉にしていいか全くわからない。


 お、落ち着け、俺。緊張したって仕方がない。とりあえず、隣を歩くレクティの様子を確認しよう。そう思って視線を横へ向けると、アメジスト色の瞳と視線がぶつかった。


「「あっ」」


 思わず声を上げて互いに目を逸らしてしまう。どうやらレクティも俺の様子を伺っていたらしい。ずっと無言だったから不安にさせてしまっただろうか……?


 レクティはたぶん本質的には俺と似ている。陰陽で言えば陰の方だ。自分から話をするのはそれほど得意じゃないだろう。


 俺も普段はルーグやリリィに会話を甘えてしまっている節があるからな……。同じ感じでレクティと接するとこうして無言の時間が生まれてしまう。これから親密になればなるほどこの無言の時間も心地よくなるのかもしれないが、今はまだそうじゃない。


 脳ミソをフル回転させてレクティとの会話の種を探す。


 あっ……。そう言えば、レクティにまだお礼を言っていなかった。


「えーっと、付き合ってくれて助かったよ、レクティ。ありがとな」


「い、いえっ。まだお礼を言われるような事は何も……。それに、あの、本当にわたしでよかったんですか……? ルーグさんの誕生日プレゼント探しにお付き合いするの……。ロザリィさんの件もあったので引き受けてしまいましたけど、こういうのはリリィちゃんの方が適任だったんじゃないかなって……」


「あー……。まあ確かにリリィのセンスなら間違いは無さそうなんだが、予算がなぁ……」


「な、なるほど……」


 事前にプレゼントについてリリィに相談したのだが、提案された物品はどれも予算を大幅にオーバーするものばかりだった。


「私じゃ力になれないからレクティを誘ってみなさいってリリィに言われたんだよ」


「そ、そうだったんですね。 (…………リリィちゃん、わたしとヒューさんを二人きりにするためにわざと……?)」


 うん、それはありえる。


 ちなみにマリシャスとの面会で不測の事態に対応できるよう、スキルは〈忍者〉に切り替えてあった。そのせいでレクティの呟きは丸聞こえになっている。


 次からはスキルで聴力が強化されている事をあらかじめ伝えておいた方が良いかもしれないな……。

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