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第132話:ごめん、サブタイのネタがもうありません。いま、シンガポールにいます。この国を南北に縦断する地下鉄を

 とりあえず〈催眠〉スキルを解除すると、リリィは途端に両手で顔を覆って蹲る。色白の頬はかぁーっと耳まで赤くなっていた。


「一生の不覚だわ……っ! まさかイディオットの前であんな恥ずかしいセリフを口走ってしまうなんて……っ!」


「あー……、なんかすまん」


 催眠をかけられている間の記憶はしっかりと残っているようだ。この点も〈洗脳〉スキルとは違う。前にルーカス王子立会いの下でリリィに〈洗脳〉スキルを使った時は、洗脳中の記憶は残らなかった。


「案ずることはない、リリィ・ピュリディ。僕は君がヒューの事をどう想っていようが微塵も興味がないし、口外するつもりもないからな。ただ、友人として結婚式には呼んでくれ」


「ええ! もちろん呼ばせていただくわよっ!」


 ヤケクソ気味に叫ぶリリィに苦笑しつつ考える。使ってみた感じ、〈催眠〉スキルに人数の使用制限は無さそうだ。ただ、強制力という点で明確に〈洗脳〉スキルには劣る印象を受けた。


 例えば俺に対して明確な殺意を持ち、剣を振り上げた人間が目の前に居たとする。そいつに対し〈催眠〉スキルを使ったとして、振り下ろされた剣は止まるだろうか?


 リリィの走りたくないという強い意志は〈催眠〉スキルを跳ね除けていた。俺を何が何でも殺そうとしている相手には〈催眠〉スキルが効かない可能性が十分にあり得る。


 そんな場面に遭遇しないのが一番だけど、人生何が起こるかわからない。ここからルーカス王子が失脚し、俺のスキルがバレて刺客に追われる展開だって十分にあり得るのだ。


 一か八かで〈催眠〉スキルに切り替えて取り返しのつかない事があったかもしれないなんて考えると、事前に試して知見を得られたのは大きいな。


 ごほんっ、とリリィはわざとらしく咳払いする。


「とりあえず、〈催眠〉スキルの力は何となく把握できたわね。ただ、〈洗脳〉スキルの代替にはなりえないかしら……。使い方を工夫すれば相手の行動をコントロール出来なくもないと思うけれど、〈洗脳〉スキルの方が手っ取り早いわ」


「そうだな……。正直、〈洗脳〉スキル以上に使いこなせる自信がない」


 強制力や即応性がある分、まだ〈洗脳〉スキルの方が使い勝手が良さそうだ。


 その後も〈暗示〉や〈魅了〉など〈洗脳〉スキルと似通ったスキルを試してみた。どれも他者に影響を与える強力なスキルではあったんだが、やぱり〈洗脳〉スキルと比較すると一歩及ばない印象だ。


 目さえ合えば誰にでも瞬時に強制力が働くからな、〈洗脳〉スキルは……。他のスキルを知れば知るほど、その特異性と凶悪性が浮き彫りになって怖くなる。


「そろそろ時間ね」


 一区切りついたところでリリィが校舎の方を見た。


 まだ昼休憩の終わりを知らせる鐘は鳴っていないが、教員宿舎は校舎から少し離れた所にある。鐘が鳴ってから引き返していたら午後からの授業には間に合わない。俺たちは〈洗脳〉スキルの実験を切り上げて教室に戻り始める事にした。


「付き合ってくれてありがとな、二人とも。おかげで〈洗脳〉スキルについて色々思い知る事が出来た」


「ふふっ、思い知るって言い得て妙ね」


「次回以降は別の方向性のスキルを試すのだろう? またいつでも声をかけるが良い」


「助かるよ、イディオット。さっそく明日……と言いたいとこなんだが」


 二日連続でルーグと別行動をするのはちょっとな……。避けているなんて勘違いをさせたくはないし、俺もルーグと一緒に居たい気持ちがある。出来れば校外演習までにもう少し〈洗脳〉スキルへの理解を深めたいところだが、なかなか難しいだろうか。


「夜に部屋から抜け出せないものか?」


「ちょっと難しいな……」


 今朝の件で懲りてくれたら良いんだが、たぶんこれからもルーグ(ルクレティア)は俺のベッドで眠り続けるだろう。夜、気づかれずにベッドから抜け出すのは至難の業だ。


「朝の鍛錬の時間は……アリッサ女史が居るか」


「いちおう、アリッサさんは俺がスキルを切り替えられる事を知っては居るんだ。けど、その本質が〈洗脳〉スキルだって事までは知られてない」


 たぶん〈洗脳〉スキルの事を知ればアリッサさんは俺を問答無用で斬るだろう。それが出来る人だって事は、これまでの付き合いで何となく察せられる。何だかんだルーカス王子への忠誠心は厚い人だ。


 ルーカス王子は〈洗脳〉スキルを知っているから、協力を頼めばなんとか……いや、そもそもルーカス王子に会うためにはアリッサさんを通じてアポイントメントを取る必要がある。テキトーな理由をでっち上げて会おうとしたら心象が悪くなるだろう。


「朝も難しいとなると、やはり使える時間は昼のみか」


「そうなる。結局のところ、俺がルーグに〈洗脳〉スキルを打ち明ければ解決する話なんだよなぁ……」


 やっぱり、どうにかこうにか勇気を振り絞って話してみるしかないか……。


「それなのだけど、ルーグも貴方がスキルを切り替えられる事は知っているのよね?」


「ああ、うん。クラス対抗戦の時に〈身体強化〉を使ったからな」


 森の中でモンスターに襲われたリリィたちの元へ駆けつける際、俺は〈忍者〉スキルが内包する〈身体強化〉を使いルーグを抱きかかえて走った。あの後色々あったが、落ち着いた頃にルーグから尋ねられて俺は自分のスキルを切り替える事が出来ると伝えている。


 その本質が〈洗脳〉スキルだと知らない点はアリッサさんと同じだ。


「それなら、しばらく座学で知見を得るのはどうかしら? 図書館を探せばスキルにまつわる書籍があるかもしれないわ。〈洗脳〉スキルを使ってスキルを切り替えないのなら、ルーグが居ても問題ないでしょう?」


「……っ! そうか、その手があった」


 要は〈洗脳〉スキルを使わなければ良いのだ。実際に試す事ばかり考えていてその発想がすっかり頭から抜け落ちていた。


 過去に存在したスキルとその内容を記した本があれば、スキル切り替えのレパートリーは格段に広がる。もちろん使用感は試してみなくちゃわからないが、それは別の機会でいい。


 重要なのはルーグからこそこそ隠れなくて済むって点だ。さっそく教室に戻ったらルーグに相談してみよう。


 ちょうど校舎に入ったタイミングで昼休憩の終わりを知らせる鐘が鳴った。五分後にもう一度、午後の授業開始を知らせる鐘が鳴る。ここまで来れば十分に間に合いそうだ。


「すまない、少し用を足してくる。君たちは先に戻っていてくれ」


 イディオットがトイレに駆け込んで行ったので、俺とリリィは二人きりで教室を目指す。その道中、階段の踊り場で俺たちはどちらともなく立ち止まった。


 教室へ戻る前に、リリィと二人きりで話しておきたい事がある。


「ドレフォン大迷宮に、何かあるのか?」

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