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第131話:リリィ「いや!! いやっ、やだーっ」

「ここなら話しても大丈夫そうかしら」


「色々と気を遣わせてすまん」


「ロザリィ嬢はともかく、ルーグには話しても良いのではないか? 〈洗脳〉スキルを知ったところで彼が君を避けるようになるとは思えないが」


「それはそうかもなんだが……」


 イディオットの言う通りだろう。ルーグは俺のスキルを知ったとしても、受け入れようと頑張ってくれるはずだ。それは自分でもわかっているのだけど……、もし拒絶されてしまったら? そんな一抹の不安が、俺の足を竦ませる。


「今はまだ、打ち明ける必要はないと思うわ。内容が内容だし、知る人間が少ない方が良いのは確かだもの」


「それもそうか……。だが、ずっと秘密に出来る問題でもあるまい。スキルと向き合うと言っていたが、ルーグに秘密にし続けていれば動きづらい事もあるのではないか?」


「やっぱりそうだよなぁ……」


 今だってレクティが機転を利かせてくれなければ、ルーグは俺たちと一緒に来ていたかもしれない。そしたら〈洗脳〉スキルに関する話は出来なくなっていたわけで、今後〈洗脳〉スキルを色々と試していく上でボトルネックになるのは間違いないのだ。


 ルーグを露骨に避けてしまえば怪しまれるし、何より彼女を傷つける事になるかもしれない。イディオットの言うように、ずっと秘密には出来ないだろう。


 とは言え、ルーグにカミングアウトする勇気は振り絞れそうになかった。こう言っちゃなんだが、告白する方がまだ気が楽まであるんだよな……。


「イディオットの言う通りだけれど、伝えるなら慎重に考えた方が良いわ。もちろん私もルーグがあなたを拒絶する事はないと思っているけど、絶対にそうとは言い切れない」


「……だよな」


 あまりにも周囲に恵まれすぎていて勘違いしそうになるが、〈洗脳〉スキルは最悪のスキルだ。普通は誰からも受け入れられないし、忌避されて然るべき力だろう。そこは絶対に履き違えるべきじゃない。


「とりあえず、今は出来る範囲で〈洗脳〉スキルのことを知って行きましょう。ルーグに伝えるかどうかはヒューに一任する。それでいいかしら、イディオット?」


「異存はない。急かすような事を言ってすまなかった、ヒュー」


「いいや、気にしないでくれ。これに関しては勇気が出せない俺が悪い。協力してもらっている上で申し訳ないんだが、もう少しだけ見守ってくれると助かる」


「ええ、もちろんよ。何かあればいつでも言ってちょうだい。協力は惜しまないわ」


「うむ。僕もリリィ・ピュリディと同じだ。君と僕の仲だろう、いつでもこのイディオット・ホートネスを頼るといい」


「そうさせてもらうよ。ありがとう、二人とも」


 リリィとイディオットの心強い言葉に胸が熱くなって思わず笑みを浮かべてしまう。ふと入学試験の日の事を思い出すと、まさかあの二人とこんな関係になれるなんて不思議で仕方がない。人生何があるかわからないものだ。


「それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか。ヒュー、あなたのスキル〈洗脳〉について、まずは自分で把握している事を教えてくれるかしら。もちろん話せる範囲で構わないわ」


「わかった」


 リリィは話せる範囲で構わないと気を遣ってくれたが、この二人に今さら隠したって仕方がない。俺は〈洗脳〉スキルについて自分が把握している事を詳らかに二人へ話した。


「ふむ……。改めて聞くと凄まじいな、君のスキルは」


「ええ、本当に。授かったのが貴方で良かったと心から思うわ、ヒュー。もし悪意ある別の誰かが授かっていたら、私たちもこの国もどうなっていた事か……」


 感嘆した様子のイディオットに対し、リリィは血の気が引いた様子を見せる。俺以外の誰かが〈洗脳〉スキルを授かっていたら、か……。


「制約もあるから、そこまで酷い事にはならないとは思うが……」


「それなのだけど、例えばスキルを〈洗脳〉と似た別のスキルに切り替えれば突破できるんじゃないかしら?」


「〈洗脳〉に似た別のスキル……。〈催眠〉とか、〈暗示〉とかか……?」


「試してみましょう。実験台ならちょうどここに二人居るわ」


「実験台って自分で言うのか……」


 まあ、確かに物は試しだ。複数人に〈洗脳〉と同じような作用を与えられるなら、いざって時にも役立つ事があるだろう。


「わかった。……洗脳解除。ヒュー・プノシス、お前のスキルは〈催眠〉だ」


 さっそく手鏡を取り出してスキルを〈発火〉から〈催眠〉に切り替える。




スキル:催眠Lv.Max ……対象をリラックスさせストレスや不安を解消し、心を開かせる。




 ……なんか思ってたのとちょっと違う。ステータスに表示された文言を二人に伝えると、リリィとイディオットも首を傾げた。


「なにやら〈洗脳〉とは毛色の違うスキルのようだが……」


「心を開かせるという部分が曖昧だけれど……ヒュー、試しに私へ使ってみてくれないかしら。実際に使った方が色々とわかる事もあるはずよ。時間も限られているし、悩む時間がもったいないわ」


「そう、だな……」


 リリィを文字通り実験台にするのは忍びないが、スキル説明を読むだけじゃ理解とは程遠い。躊躇っていても仕方がないか……。


「スキル〈催眠〉」


 俺はリリィと向かい合い、〈催眠〉スキルを発動した。スキルがリリィに干渉した手応えを感じる。


「どうだ……?」


「そう、ね……。なんだかとても気持ちが楽になって、ふわふわしているような不思議な感じだわ」


 リリィはどこか眠そうな表情で俺の質問に答える。受け応えが出来ている時点で〈洗脳〉スキルとは違うな……。今のリリィは説明にあったリラックス状態という事だろうか。


「心を開いている感覚はあるか?」


「どうかしら……。私はもうとっくにヒューを愛しているから、今さら開く心はないかもしれないわね」


「お、おう。そうか……」


 たぶん本人に自覚がないだけで、〈催眠〉スキルの効果は発動しているんだろう。でなければ、リリィがイディオットも居るこの場で俺の事を愛しているなんて言うはずがない。これ、心を開くって言うより本心を曝け出すって感じかもしれないな……。


「ヒュー、リリィ・ピュリディに何か命令してみたらどうだ?」


 リリィの告白にはさほど興味がなかったらしく、イディオットは何食わぬ顔で提案を口にする。


「そ、そうだな。命令か……」


 動揺を抑えつつ考える。いきなり命令してみたらどうだと言われても、パッとは思いつかないんだよなぁ。三回まわってワンと言わせるとか……いや、ダメだ。そんなリリィは見たくないし、実家の老執事セルバスにやらせて後悔したのを思い出せ……!


 もっと別の命令を……、それこそリリィが嫌がりそうな事がいい。


 例えば、そう。


「じゃあ、リリィ。今から教員宿舎の周りを走って三周してくるんだ」


「それは絶対に嫌よ」


 どうやら〈催眠〉スキルに〈洗脳〉スキルほどの強制力はないらしい。


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