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第122話:ルーグ「えっちなのはいけないと思います!」(リリィ視点)

 ルクレティアが何を言っているのか理解が出来ず、思考がフリーズしてしまう。


 ヒューに魅力的に思ってもらうにはって、これ以上好きにさせてどうするつもりなの……?


 ヒューのルクレティアへの好意は傍から見ているだけで伝わって来る。それこそ、嫉妬を通り越して諦めを感じてしまうほどに。ヒューの行動の根底にはルクレティアへの愛情があって、彼が誰よりもルクレティアを大切にしているのは疑いようのない事実だ。


 それがルクレティアに伝わっていないはずがないのだけど……。


「わたしはレクティみたいに綺麗じゃないし、リリィみたいにスタイルもよくなくて胸もちっさいから、ヒューは二人みたいな女の子の方が魅力を感じるのかなって思って。だから二人にアドバイスを貰えたらなって……」


「な、なるほどね……」


 私の分析だと、ヒューは綺麗系より可愛い系が好きだし、スタイルの良い女性よりも小柄な女性の方がタイプだし、胸はちっさい方が好みだ。逆にこっちがアドバイスを貰いたいわよと叫びたいところだけれど、深刻そうなルクレティアの表情を見て抑え込む。


「ヒューとの間に何かあったのね?」


「うん……」


 ルクレティアはこくりと頷く。


 ……やっぱり。突然こんな事を言い出すからにはそれ相応の何かがあって然るべき。彼女は俯きながら事のあらましを語りだした。


「えっとね、この前ヒューから初めて一緒に寝ようって誘ってもらったの」


「もう帰っていいかしら」


「ええぇっ!? 待って、お願いだから話を聞いてっ!」


 本気の相談かと思ったら惚気話だったわ。ソファから立ち上がりかけた私をルクレティアは慌てて押しとどめる。レクティも苦笑しながら「もう少しだけ付き合ってあげませんか?」と提案してきた。


 ……まあ、将来家族になったらこういう話は毎日聞くことになりそうだものね。第二夫人としては寛容な心で受け入れるのも重要だわ。


「それで?」


 ソファに座りなおして尋ねる。


「ヒューと一緒に寝てどうだったの?」


「何もなかったの」


「「あっ……」」


 しょぼんと肩を落とすルクレティアに、私とレクティは声を揃えて察してしまった。


「き、期待してたってわけじゃないだけどね……? だけどその、それなりに覚悟を決めていたというか、せめてギュってしてくれたり、き、キス……とかしてくれるかなって、思ったりしたんだけど……」


「何もしてくれなかったから、自分がヒューから魅力的に思われているのかと不安になってしまったのね……」


「う、うんっ! そう、それっ!」


 私の指摘にルクレティアはこくこくと頷く。


 なるほど……。これはなかなか深刻な問題だわ。


 もし私がヒューから添い寝に誘われて何もされなかったら、自分から強引にヒューの唇を奪ってそのまま行くところまで行っちゃうけれど……。


 それが出来るのは後腐れのない立場だからだ。


 お父様とヒューの顔合わせは済ませているし、将来的な結婚を考えている事は手紙で遠回しに伝えてある。お父様もヒューのことを気に入っている様子だから、もし子供を授かってしまったとしても、そのまま結婚してしまえば問題ない。


 けれど、ルクレティアの場合はそうじゃない。彼女自身、自分の置かれている立場への自覚は()()()()()持ち合わせている。もしヒューが求めていたとしても、ルクレティアはそれを拒んでいたはず。


 だけど、求められて拒むのと、初めから求められないのとは違うものね……。


 ルクレティアが不安になる気持ちもわかる。求められたら拒むしかないけれど、求められないとそれはそれで寂しく感じてしまう複雑な乙女心を、たぶんヒューは理解できていない。だから、ヒューはルクレティアが不安がっている事に欠片も気づいていないはずだ。


 ……とは言え、私がヒューを責めるわけにもいかないわ。ルクレティアに手を出しちゃダメだって忠告したのは私なのだから。


 王立学園の入学試験の日。もしルクレティアに手を出せば、周りの全員が不幸になってしまう。そんな忠告をヒューにしたのは私だ。ヒューはその忠告を忠実に守っているわけで、ルクレティアが不安を抱える事になった遠因は自分にある気がしなくもない。


「ヒューさんはルクレティア様に十分魅力を感じていると思いますけど……」


「そうね。そこが問題だわ」


 レクティが言うように、ヒューはもうとっくにルクレティアの魅力にメロメロになっているわけで、これ以上魅力を感じさせるというのは難しい。と言うか、仮に魅力を感じさせたとして彼がルクレティアに手を出すかと言うと……うーん。


 私の想像以上に自制心が強いというか、精神力が強いというか。さすが〈洗脳〉スキルという何でもできる神に等しいスキルを持ちながら、魔が差したり悪用したりしないだけはあるわ。


 そういう所は好感が持てるけれど、見方を変えれば臆病で奥手でもあるのよね。


「魅力を感じさせるというより、自制心を壊す方向で考えた方が良いかもしれないわ」


「自制心を壊す、ですか……?」


「ええ。例えば全裸でベッドに潜り込んでみるとか」


「だ、だめーっ! それもう痴女だよーっ!」


 けっこう良いアイデアだと思ったのだけど、顔を真っ赤にしたルクレティアに全力で拒否されてしまった。ヒューに手を出させるならこれくらいしていいと思うのだけど。


「さ、さすがにそれはヒューさんの自制心を壊し過ぎてしまうんじゃ……?」


「まあ、確かに……」


 それこそ本当に子供が出来てしまうかもしれないわ。加減がなかなか難しいわね……。


「え、えっちな方向はなし! そ、そりゃいずれはって思ってるけど、今はダメ!」


「でしたら、ちゃんと言葉にして伝えるのがいいと思います」


「そうね……。その方がヒューも答えてくれると思うわ」


 ヒューは臆病で奥手なだけで察しが悪いわけじゃない。ルクレティアからの好意にも気づいているでしょうし、面と向かってルクレティアが気持ちを伝えれば彼なりに向かい合おうとしてくれるのは間違いないと思う。


「で、でも自分から抱きしめて欲しいとか、き、キスして欲しいって言うのは恥ずかしいもん……」


 ルクレティアは顔を真っ赤にして首を横に振る。こっちもこっちで奥手だったわ……。


 そう言えば最近は入学当初ほどヒューにべったりってわけじゃないのよね。人前で抱き着いている姿をあまり見なくなった気がするし、この前のドレスの試着の時も「見て見てーっ!」って感じじゃなかった。


 もしかして、恋愛対象としてヒューを意識するようになって、甘えるのが恥ずかしくなったとか……? あのティアが恋を知って大人になろうとしているなんて、ティアのお母さまが知ったら喜んでからかいそうだわ。


「二人は、ヒューにキスして欲しいって言える……?」


「わ、わたしは無理かもですっ。その、自分からならえいって感じでできますけど」


「私は言えるけれど、言う前に自分から唇を奪いに行くかしら」


「そっかぁ……。やっぱりもっと積極的に行くべきなのかなぁ」


「ヒューは受け身な所があるから、多少強引に攻めた方が良いのは確かね」


「ですねっ! ヒューさんにはそれくらいがいいと思います!」


「なるほどなるほど。……あれ、なんか二人ともやけに実感こもってない?」


 ふと疑問に感じた様子でルクレティアは首を傾げる。


「ねえ、二人とも。ヒューに助けてもらったことがあるんだよね? その時、何かあった?」


「「ぅっ……」」


 い、意外と鋭いわねこの子……っ! 思わず声を詰まらせてしまった私とレクティに、ルクレティアはジトーッと半眼を向けて来る。


「べ、別に何もなかったけれど……?」


「そ、そうですっ。何もなかったですよ……?」


「二人ともどうして目を逸らしているのかなぁ? わたし、リース王国の第七王女として気になっちゃうなぁー?」


 ここで身分を持ち出すのはズルくないかしら!?


 ……いえ、まあ、ズルいと言えばヒューの唇を奪った私もズルいのだけど、あれはヒューがどこかに行ってしまいそうな気がして、ちょっと強引にやってしまったというか、致し方なかったというか。


 反応を見るにレクティも同じような流れでヒューとキスをしたんじゃないかしら。ヒューが自分からするとも思えないし。


 このまま白を切り続ける事は出来る。けど、それはあまりにも不誠実だわ。


 二人はまだ付き合ってもいないし婚約を結んでいるわけでもないけれど、ヒューとルクレティアの気持ちを知った上でキスをしてしまった以上、非は私たちにある。


 何より、いずれ家族になろうって相手に嘘はつき続けたくない。


 レクティとアイコンタクトをして頷きあう。


「「大変申し訳ありませんでした!」」


 私たちは誠心誠意頭を下げてルクレティアに許しを請うたのだった。


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