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第120話:美味い話には裏があったりなかったり

「突然お声がけしてすみません。僕はリューグ、こっちは妹のティーナです」


 焦げ茶色の髪に深緑色の瞳の背の高い少年が先に名乗って、隣の少女を俺たちに紹介する。制服ではなく周囲の冒険者と同じような軽装を身に着けているから、王立学園の生徒ではなさそうだ。


「どーもどーもっ、初めましてっ!」


 ティーナという名の少女は、握手を求めるように手を差し出してこちらに距離を詰めて来る。俺が右手で応じると、ティーナは俺の右手を両手で包み込むように握ってズムッと顔を近づけて来た。


 ハーフツインに結われたキラキラと光沢を放つ白藍色の髪。顔立ちは女神を模した像のように精巧に整っている。どことなく知っている誰かに似た美しさを感じさせる少女。そんな彼女の紫紺色の大きな瞳が、ジィッと俺の目を覗き込む。


「えーっと……?」


「目、痛くない?」


「目? いや、特に痛くないが……?」


「そっか! よかった!」


 俺の返答に満足したらしい。ティーナは朗らかな笑みを浮かべてパッと手を放して俺から離れる。何だったんだ……?


「こら。困らせちゃダメだろ、ティーナ。申し訳ありません、妹が突然」


「えへへ、ごめんなさ~い」


「いや、それは別に構わないんだが……」


 俺とイディオットは二人が首から下げている冒険者タグに目を奪われていた。タグの色は銀色。受付の女性の説明によれば、銀色は俺たちの青色から3ランク上、つまりBランク冒険者の証だ。


 どうしてBランク冒険者が俺たちに? ……っと、そう言えばまだ名乗ってなかったな。


「俺はヒュー。ヒュー・プノシスだ。こっちは」


「イディオット・ホートネスだ。宜しく頼む」


「宜しくお願いします。ヒューさん、イディオットさん」


「よろしく~っ」


 ホートネスの家名を聞いても二人は一切反応を示さなかった。ホートネス家を知らないのか、それとも初めから知っていて声をかけて来たのか。悪い奴らには見えないが、目的がいまいちわからない。


「立ち話もなんですし、とりあえず座って話しませんか?」


 リューグの提案に、俺とイディオットはとりあえず乗ることにした。場所をギルド近くのカフェに移し、四人掛けの席に向かい合って腰を下ろす。注文を取りに来た店員さんにリューグは人数分のアイスティーを頼んだ。


「王都は良いですね。冒険者ギルドは静かで綺麗ですし、こんなオシャレなカフェまで近くにあるんですから。地方のギルドじゃ考えられませんよ」


「ふむ。と言う事は、君たちは地方から王都に来たばかりなのだな?」


「ええ。王立学園からの依頼を受ける事になりまして。お二人も再来週からの校外演習に参加されますよね? 毎年、校外演習に同行する冒険者を、ギルドを通じて王立学園が募集するんですよ」


「それで僕らに声をかけたというわけか」


「ああいえ、理由はそれだけじゃありません」


 リューグは懐から一枚の紙を取り出す。それはギルドが依頼を受注した冒険者に発行する受注証明書だ。


 ざっくりと目を通すると、そこにはBランクの依頼として王都近郊の森林に発生したモンスターの討伐とモンスター発生原因を調査するという依頼内容が記されていた。


「今から二週間くらい前、ちょうど王立学園のクラス対抗戦が行われていた最中に突如としてモンスターが発生したそうです。王立学園生のお二人からなら、何か有益な情報が得られるかと思いまして、お声がけさせて頂きました」


「なるほど、だから俺たちに話しかけたのか……」


「はい、何かご存知ではありませんか?」


 リューグに問われ、俺とイディオットは顔を見合わせる。ご存知も何も、モンスター発生の際に最も近くに居たのは俺たちだ。正確には俺は後から森に入って合流したんだが、イディオットは森の中で真っ先にモンスターと遭遇し戦闘を行っている。


 確か、森の調査は王国騎士団もしているはずだよな。ルーカス王子と会えていないから詳細は分からないが、リューグたちが受けた依頼はおそらく王国騎士団とは別口だろう。


 受注証明書に記載された依頼主名は『リース王国』となっている。《《王国の誰からの依頼》》かわからないな……。伝える情報には注意した方がよさそうだ。


「俺たちは実際に森の中でモンスターと戦っているんだ。発生原因はわからないけど、モンスターの特徴なら伝えられると思う」


「本当ですか? 助かります、ぜひ教えてください」


 俺はイディオットと共に、森の中で遭遇したモンスターの特徴をリューグとティーナに伝えた。熊やウサギやキツネなど、思い返してみると俺たちが戦ったモンスターは種類がバラバラでそれぞれ森に生息する野生動物の特徴を持ち合わせていた。


 一通り話を聞き終えたリューグは、腕を組んで拳を唇に当てて考え込む。


「ダンジョンには多種多様なモンスターが生息していますが、ここまで種類がバラバラなのは珍しいですね……。ティーナはどう思う?」


「う~ん、とりあえず現地に行ってみないとわかんないかなぁ~。ダンジョンから溢れて来たんだとしたら、奥で大物が生まれちゃったかもねぇ」


「大物?」


「いわゆるダンジョンボスのことだよ~。ダンジョンって中だけで生態系が完結してるから、滅多にモンスターって外に出て来ないの。だ・け・ど、ダンジョンに生息するモンスターの中からたま~に凄く強い子が生まれちゃうことがあってね。その子が生態系のバランスを崩しちゃうと、モンスターの大量発生や追い込まれたモンスターたちの大移動が始まっちゃうの」


「そっか。それでダンジョンの外にモンスターが出て来るんだな」


「うんうん! 今回もそれなんじゃないかにゃあって、ティーナは思うわけですよ!」


「今回の依頼はモンスター発生原因の調査なので、現地で実際にモンスターと交戦したお二人が同行してくだされば心強いです。報酬はDランクの依頼と同等か、それ以上をお約束します。いかがでしょうか?」


「そうだな……。構わないか、イディオット?」


「うむ、良いだろう。このイディオット・ホートネスが、君たちに協力してあげようではないか!」


「あははっ。ありがとうございます、イディオットさん」


 イディオットの尊大な態度をリューグは笑って受け流す。ティーナもなぜかニコニコと微笑んでいた。器が大きい二人だなぁ……。


 何はともあれ、調査に同行するだけでDランクの依頼と同じだけの報酬が貰えるのはデカい。それだけあれば、ルーグにちゃんとした誕生日プレゼントを選んでやれそうだ。


 そう言えば、ルーグは今頃どうしてるんだろう。てっきり俺たちについて来たがるかと思いきや、「ごめんね、ちょっとリリィたちと約束があるから!」とあっさり送り出されてしまった。


 リリィたちって事はきっとレクティも一緒だろう。アリッサさんには護衛の引継ぎを頼んで来たし、リリィとレクティが傍に居れば何も心配は要らない。


 ……はずなのだが、なんか妙に胸騒ぎがするというか、何というか。


 何事もなければ良いんだが……。

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