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第118話:俺がお嬢様に「執事姿」をフヒヒと妄想された件

「マジか?」


「ええ。ちょうど校外演習の最中ね」


 校外演習は再来週から約半月の予定で行われる学校行事だ。その期間、俺たちは学園を離れてどこかのダンジョンでモンスターとの戦闘訓練を積む事になっている。ただ、そこまで本格的な戦闘訓練というわけではないらしく、感覚的には修学旅行みたいな感じだろう。


 修学旅行×誕生日なんてもう告白するタイミングとしては完璧だ。


 ただ、問題が一つある。


「どうしよう、誕生日プレゼント……」


「選びに行くならアドバイスしてあげるけれど?」


「いや、それ以前の問題なんだ。……金がない」


 今から三か月くらい前、プノシス領と王都を往復するために父上が持たせてくれた路銀が俺の全財産だ。浮いた復路分のお金でこれまで遣り繰りしてきたわけだが、それがついに底を突いてしまった。


 王立学園で生活する分には授業料も家賃も食費も無料。だから実家に合格を知らせる手紙を送った時も、仕送りのお願いをしづらかったんだよなぁ。好きな女の子と遊ぶ金を送ってくれなんて書きたくない。言い訳も思いつかなかったし……。


 そもそも、プノシス家は貧乏貴族だ。仕送りの余裕なんて無いだろう。金銭面で実家を頼るのは難しい。


「ルーカス殿下から給金は貰っていないの?」


「これと言って働いてるわけじゃないからな」


 リリィの件と言い、レクティとロザリィの件と言い、協力を求めたのは俺の方だ。ルーカス王子から俺に命令が下された事は一度もないし、尽力してもらった側の俺が給金を貰う道理もない。


「結果的にルーカス殿下は貴方の働きで王位に近づいているのだから、相応の褒美は貰うべきだと思うけれど」


「だとしても、理由が理由だからな……。『貴方の妹に誕生日プレゼントを渡して告白したいので、これまでの働きに応じた褒美をください』なんて頼めるわけがないだろ」


「そんな素直に言う必要はないんじゃないかしら……。まあ、ルーカス殿下に頼りづらい気持ちはわからないでもないわね。ただお金に困っているだけなら、私が養うのもやぶさかではないけれど……」


「他の女に貢がせた金で買ったプレゼントを渡して告白するってクズ男すぎる……」


 そもそもリリィに養われるのもどうなんだろうか……。前世で働いている時は金持ちの彼女を作ってヒモになって養われたいなんて常々考えていたものだが、いざ実際に目の前に現れると尻込みしてしまう。


 リリィの事を意識してしまっているからこそ、不甲斐ない一面はあまり見せたくない。


「どこかで働き口を探すしかないな……」


「それなら良い職場を知っているわ」


「ホントか!?」


「ええ。とある良家に長年勤めていた使用人の一人が、腰を痛めて休んでいるの。短期間にはなるけれど、使用人として働いてくれる人を探しているそうよ」


「なるほど、使用人の短期バイトか……」


 良家の使用人ともなると給金はそれなりに出るはずだ。大変そうな仕事だけど、例えばスキルを〈使用人〉に切り替えれば乗り越えられるだろう。


「それで、使用人を探してる良家ってどこなんだ?」


「ピュリディ家よ」


「お前の実家じゃねぇか……」


 別にダメではないんだが、なんかちょっと頼りづらい。いちおう雇い主はピュリディ侯爵という事になるわけで……。理由が理由だけに、実家やルーカス王子を頼りづらいのと同じ気まずさがある。


「すまん、リリィ。今回は遠慮させてくれ」


「あらそう、残念だわ。ヒューの執事服姿が見られると思ったのに」


 リリィは頬に手を置いて溜息を吐き、俺の姿を見て「フヒヒ」と気持ち悪い笑みを零す。


「勝手な妄想はおやめください、お嬢様」


 リリィのフヒヒ笑い久々に聞いたな……。


「もう飯屋の厨房とか土木作業員とか、テキトーな仕事を探してみるよ」


「却下。前から思っていたけれど、あなたは貴族としての自覚が薄すぎるわ。もう少し世間体を気にしなさい。ド田舎の貧乏貴族とは言え、貴族がそんな所で働いていたら周りが委縮してしまうわよ」


「あー、やっぱりそういうものか」


「そういうものよ。周囲に気を遣わせてしまうのは、あなたの本意ではないでしょう?」


「まあなぁ……」


 俺は気にしないから気にするなが通じるほど、貴族と平民の身分差は浅くない。ド田舎限界集落で領民との距離が近かった地元ならともかく、王都では貴族として相応の振る舞いを求められる。


 身分を隠して働くのもありっちゃありだが、後から余計なトラブルを招いたら面倒だ。気軽にアルバイトも出来ないのはいささか窮屈に感じてしまうけど仕方がない。


「貴族でも出来そうな仕事で言えば、そうね。貴族の家庭教師…………ごめんなさい、何でもないわ」


「おい、目を逸らすな」


「こほんっ。そうね、冒険者とか良いんじゃないかしら」


 リリィは誤魔化すように咳払いをして提案をやり直す。言い直した事について問い詰めてやろうかとも思ったが、まあいいや。


「冒険者なら貴族の出身者もいるし、周囲に気を遣う必要もないはずよ」


 リース王国の貴族は長子相続が一般的だから、家を継げない次男や三男が成人を機に家を出て冒険者になるケースは少なくないらしい。特に貴族の男子は幼い頃から武芸を修めている事が多く、即戦力として歓迎されるそうだ。


「在学中でも冒険者になれるもんなのか?」


「ええ、許可を貰えば大丈夫。アリッサ先生に頼めば手続きをしてくれるんじゃないかしら」


「冒険者か……、悪くないな」


 子供の頃から興味はあったんだよなぁ。異世界ファンタジーでは定番の職業だし、冒険は男のロマンだ。前世が社畜でさえなければ、俺はスローライフよりも冒険者を目指していたかもしれない。


 今から本気で冒険者になるつもりはないが、小遣い稼ぎには良さそうだ。

〈作者コメント〉

2025/02/17

書籍化企画進行中の本作ですが、なんと発売前からコミカライズが決定しました!

いや、なんかとんとん拍子過ぎてじゃっかんの恐ろしさも感じつつ……。

せっかくコミカライズするなら洗脳スキルでヒロインがえちえちになる話を書けばよかった!

なんでオッサンしか洗脳してないんだよバカ!

とか作者的には色々後悔もあるのですが、ぜひご期待いただけましたら幸いです!

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― 新着の感想 ―
執事みたかったなぁ。それに従者と主人のいけない関係とか結構ありだと思うからいつかみてみたいなぁ。
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