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第107話:忍者スキルで異世界無双

 アリッサさんの号令で俺たちは近くに止めてあった王国騎士団の馬車に乗り込んだ。アリッサさんは残る王国騎士に後を引き継ぎ、御者台に乗って馬車を走らせる。


 王国騎士団の馬車を引く馬は強靭な肉体を持つ軍馬、そして車体も乗り心地を犠牲にして軽量化が図られているため通常の馬車よりも速度が出る。来る時は一時間半ほどかかった道のりを、馬車は一時間経たずに走破した。


 馬車は王都の外壁沿いに走り、リース大聖堂に近い位置に停車する。城壁の向こう側には白亜の尖塔が見えていた。外壁の外ではあるが、ここまで来れば聖堂内部はリリィの〈戦術家ストラテジスト〉の有効範囲内だ。


「……居た。レクティも聖女ロザリィも、大聖堂の地下に居るみたい。二人ともまだ無事よ……!」


 リリィの言葉に、馬車の車内に安堵の息が漏れる。


「……ただ、マリシャス枢機卿も近くに居るわ。それから何人か……。ごめんなさい。面識もこちらへの害意もないから私のスキルではこれ以上はわからないわ」


「いいや、それで十分だ。助かるよ、リリィ」


「……ヒュー、お願い。レクティを……!」


「ああ、任せてくれ」


 リリィはレクティが誘拐された事を自分の責任だと思っているようだ。保健医がレクティを呼びに来た時にもっと疑えばよかったと、道中で何度も悔いていたからな……。


 とは言え、それを言い出せば俺は居もしないロザリィを探しに出てしまったし、イディオットは保健医に不覚を取って目の前でレクティを攫われてしまった。責任がリリィだけにあるわけじゃない。


「ヒュー」


 馬車を降りた俺の名をルーグが呼ぶ。ルーグは名前を呼んだだけで、それ以上の言葉を口にはしなかった。ただ静かに頷いて、俺も頷き返す。


「レクティとロザリィを助けて帰って来るよ」


「うんっ!」


「うちの生徒たちを頼んだッスよ、シセリーちゃん」


「承知しました、アリッサ先輩……!」


 シセリーさんの返事に頷いて、アリッサさんは馬に鞭を打つ。馬車は動き出し、城門の方角へ走り去って行った。


「急ぎましょう……! こちらに大聖堂の地下に続く通路があります!」


 シセリーさんは茂みの中に隠された秘密の通路の入口へ俺とイディオットを案内する。


 事前に馬車の中で聞かされちゃ居たが、こんなものの存在が公になったら大問題だ。シセリーさんも逃げる際に偶然発見したものらしい。どうやらマリシャス枢機卿が国にも教会にも黙って作らせていたものの可能性が高いようだ。


 それを聞いたアリッサさんは『騎士団が踏み込む根拠は十分ッスね……』と呆れていた。密輸や、もしかしたらグリード・レチェリーが関与した誘拐に利用されていた可能性すらあるらしい……。


 通路の入り口近くには乗り捨てられたと思われる一頭の馬がうろついていた。レクティを誘拐した保健医もこの通路を使って大聖堂に向かったようだ。


「ここから先はいつ襲撃を受けても不思議ではありません。アリッサ先輩が選んだ貴方たちなら実力は十分かと思いますが、気をつけてください」


「わかりました……」


 腰に携えた剣に手を添えつつ、シセリーさんに答える。馬車に積んであった剣を借り受けたわけだが、本物の剣からは実際の重量以上の重さを感じていた。


「人を斬った経験がないのだろう、ヒュー? 案ずることはない。それは僕も同じだ」


「イディオットは、人を殺すのが怖くないのか?」


「レクティ嬢を救うためだ。自分の不始末は自分で片を付けなければならないからな。どのような業でも背負ってみせようじゃないか」


「……強いな、お前は」


 俺はいくらレクティとロザリィを救うためとはいえ、そこまで割り切れそうにない。自分の臆病さに嫌気が差しそうだ。


「……あれ、もしかして私、実戦経験皆無な学生を二人押し付けられました……!?」


 俺たちの会話を聞いていたシセリーさんが愕然としている。とりあえず足を引っ張らないようにだけ気をつけよう。まだ人を殺す覚悟は出来ていないが、〈忍者〉スキルで支援くらいは出来るはずだ。


 それに、いざとなったら……。


 覚悟を決め、秘密の通路へ足を踏み入れる。通路内部は明かりがなく真っ暗だが、〈忍者〉スキルのおかげで視界は良好だ。強化された五感は、通路の先で待ち構える人の気配すら感じ取れる。


「通路の奥に三人か……」


「わかるのですか……?」


「ええ、まあ」


 数さえわかっていれば待ち伏せはそれほど脅威じゃない。イディオットとシセリーさんが先行して突撃し、俺は後ろから投石で援護する。即席の連携は予想を超えて機能した。というより、投石だけでほとんど制圧できてしまった。


 暗闇の中、視界が悪いのは相手も同じだ。相手が感知できないほど遠くから、〈忍者〉スキルが内包する〈投擲〉を用いて全力で石を投げると、石は加速しながら百発百中で刺客の頭に吸い込まれて行く。


 イディオットとシセリーさんを攻撃しようとして物陰から飛び出して来たところを撃ち抜くだけの簡単な仕事だった。


 頭に石を受けてぶっ倒れた刺客は、シセリーさんによって心臓に剣を突き立てられて屠られる。さすが聖騎士、異端者には一切の容赦がない。


「まさか君にこんな特技があったとは! さすが僕の好敵手ライバルだ!」


「あ、ああ。まあな……」


 どう考えても俺の投石は特技の範疇を超えていると思うのだが、イディオットがそれで納得してくれているのならまあいいか……。


 シセリーさんはさすがに訝しんでいそうな感じがするものの、今はロザリィを優先してか触れないでくれている。


 地下通路は迷路のように入り組んでいたが、シセリーさんの残した血痕を辿る事でほぼ最短で大聖堂の地下へ侵入する事が出来た。途中で待ち構えていた刺客は全て制圧済みだ。むしろ待機している刺客の気配も頼りに進ませてもらった。


「ここが大聖堂の地下……」


 地上の立派で美しい大聖堂の見た目とは裏腹に、地下には剝き出しのレンガと鉄格子が並ぶ牢獄が広がっていた。鉄格子の向こう側には赤黒いシミや、何かの骨が転がっている。


 何だ、ここ……。いったい何の目的で大聖堂の地下にこんな施設を作ったのか、考えるだけで寒気がしてくる。


「大聖堂建設当時、王都は異端者の多い地域だったそうです。大聖堂の建築は表向き王都での布教活動の強化のためでしたが、実は異端者の保護と説得を行うための地下施設こそが当時の教会が必要としていたものだったという話を聞いたことがあります」


「保護と説得って……」


 どう見ても監禁と尋問の間違いだろ……。


 牢獄内は通路と違い、等間隔で設置された魔道具によって光源が確保されていた。闇に潜んで隠れ進むというわけにもいかず、ある程度の接敵は避けられない。


 ただ、通路ほど警備は厳重ではなさそうだ。マリシャス枢機卿が用意した異端者たちは装備が充実しているわけでも、武芸に秀でているわけでもない。スキルが戦闘向きというわけでもないらしく、イディオットとシセリーさんの敵じゃなかった。


 二人が戦ってくれている間に、俺はレクティとロザリィの姿を探す。牢屋の一つ一つに目を通していくのだが、かなり広い牢獄だ。最盛期にはいったいどれだけの人が囚われていたんだろうか。


 幾つの牢屋を確認したのか定かじゃなくなって来た頃、視界に淡い水色が映り込んだ。


「レクティ!」


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