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顔合成

作者: 雉白書屋

 科学技術の進歩が目覚ましい現代、その最先端を導入したこれまでにない画期的なテレビ番組が放送された。

 その番組とは、AI技術を用いて視聴者の顔を出演者に合成し、リアルタイムで放送するというものだった。視聴者はあらかじめ、サイトに自分の顔を登録しておくと放送開始時にテレビの前で番組で活躍する自分の姿を楽しむことができる。

 そして、肝心のその番組内容とは、言わば超人技の寄せ集め。サッカーや野球などのスポーツ選手を始めとし、瓦割りやギネス世界記録保持者など、一芸を持った人々のスーパープレイを視聴者自身がやっているように体感できるというコンセプトだった。

 最初は制作側もこの新しい試みがうまくいくかどうか疑問視していたが、予想に反して、この番組は大きな反響を呼んだ。自分がテレビの中で活躍するという妄想は、誰しもが一度くらいは寝る前のベッドの中で抱いたことがあるはずだ。これが現実に起きるとなると、ナルシストでなくとも気分が高揚するものだ。

 すぐに他局も真似をし始め、ボクシングなどのスポーツの試合から獰猛な熊を狩るハンター、ドラマや映画の主人公まで、視聴者は自由に自分の顔を登場人物と合成し、その世界に浸ることができた。

 テレビ離れが囁かれていた時代であったが、この取り組みにより業界はV字回復を遂げ、テレビ関係者は笑いが止まらないほどの成功を収めた。

 もちろん、顔を上書きされる出演者は面白くはなかったかもしれないが、彼らも家では自由に顔を合成し楽しんでいたので、反対の声はあまり上がらなかった。それに、視聴率が上昇し、スポンサーの支援も増えれば出演者にも還元されるものだから、文句を言うはずもない。


 しかし、問題が浮上した。テレビ番組にのめり込むあまり、視聴者が自分が出演者その人自身だと思い込み、収録のためにテレビ局を訪れるという事態が相次いだのだ。テレビ局関係者が「あれはフィクションであり、そもそも撮影スタジオはここじゃない」と説得しようとしたが、耳を傾けない者が多く、ドラマのヒロインにストーカー行為をする者も現れ始め、警察沙汰になった。元々、そういった思い込みの激しい者はいつの時代もいたが、今回の件ではその数が多い。明らかにこの取り組みのせいだと囁かれ始め、徐々に風向きが悪くなった。

 自分は引退した元殺し屋だと思い込み、気が大きくなりトラブルへ発展するケースや、自分を大量殺人鬼に同一化させ、通り魔事件を起こすなど、テレビがかつて以上の影響力を取り戻しただけに、その被害も大きかった。

 よって政府は、AIを用いた顔合成を禁止する方針を打ち出した。

 しかし、それでは業界に寒々しい風が吹きすさぶことは目に見えている。各テレビ局の社長らの抗議もとい嘆願もとい……により各局、番組枠を一つだけ残すことを許された。人気番組が継続されたが、その条件として番組冒頭で『これに映るあなたはあなた自身ではありません。あくまで合成されたものです』といった注意喚起を行うことと、もう一つの条件が……

 


『――この選挙に勝ち、いよいよ憲法改正に取り組む所存でございます! そのためには皆さんのお力が必要です。何とぞ、よろしくお願い申し上げます。明るい未来を共に歩んでいこうではありませんか!』


『総理ー!』『がんばれぇー!』『いいぞー!』『総理ー!』


 ニュース番組で繰り返し流される街頭演説の映像。候補者に声援を送る衆人の中に、視聴者自身の顔があった。

 視聴者に与えるその効果は絶大であり、これにより与党が密かに行っていたサブリミナル効果を用いた選挙戦略はお役御免となったのだった。

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