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25.お祭り準備と提灯お化け


「うーん。午前中の授業がおわったぁ」


 今日は木曜日。

 午前中の授業が終わり背伸びをしていると、みんなは昼食ではなく帰る準備を始めていた。


「あれ? なんでみんな帰る準備してるの?」


「明日は、お祭りだから、準備の手伝いをしないといけないの」


 僕の疑問に隣の席の椿さんが答えてくれた。


「この学校、町のイベントにカリキュラムが影響受けるんだね」


「学校に残って、補習受けてもいいよ。累君受ける?」


 お祭りの準備を手伝う or 補習を受ける。

 その二択しかないのなら、僕の選択は。


「お祭りの手伝いに行くよ」


 そんな熱心な生徒というわけではない。

 学校の方針で、勉強しなくていいのなら、したくはない。


「そう言うと思って、累君も繁華街の提灯作りに申請出しといたよ」


「ありがとう」


 2年の人妖怪グループはまとめて、繁華街の提灯作りで申請を出していたくれたらしい。

 カイリ君と木葉さんは、すでに出発していた。


 めめちゃんと修一君は席で揉めている。


「めめは、帰ってゲーム……」


「ダメに決まってるだろ。ほら、行くぞ!」


 めめちゃんは、修一君に捕まって、引きずられるように出て行った。


「友里ちゃんは?」


「アタシは、家に帰って準備手伝わないと」


「手伝い?」


「境内綺麗にしたり、来客用の椅子やら机やら準備しないといけないから」


「ああ、そういうことか」


 この町のお祭りだから、当然会場は継名さんの神社。

 友里ちゃんもやることがいっぱいあるそうだ。


「じゃあ、帰るね!」


 友里ちゃんは、窓から飛び降りて、ダッシュで帰っていく。


「うん。友里ちゃん、その窓が出入口だと思ってるよね……」 


 まともに、扉から出入りしてるの見たことがない。


指歩(ゆびあるき)さんは、行く準備しないの?」


 僕は、特に動こうとしていない指歩(ゆびあるき)さんに声をかけた。


「暑すぎて無理だから、学校で補習してるわ」


「そっか」


 それは、それでいいらしい。

 暑さに弱そうな化け妖怪の子たちも、結構学校に残るようだ。


「行こう累君」


「うん」


◇◆◇


 ぼくらは、お祭り準備のため繁華街にやってきた。


 空は透き通るような青さで、入道雲が大きく空にせり出している。

 

 道の両側には、縁日の屋台が少しずつ並び始めている。カラフルなテントやのぼりが風に揺れ、その先にはすでに何人かの住民たちが忙しそうに動き回っている。汗を拭いながらも、みんな笑顔で楽しげだ。


 僕らの作業場所は、繁華街の端にある空き地のようだ。

 準備されていたテントに入ると、去年も使ったものか山積みの赤い紙の提灯が沢山置かれている。


「よし、じゃあ、がんばって、提灯お化けを作ろうね」


「うん……えっ?」


 とりあえず、椿さんの言葉に頷いてみたものの、言葉の意味が頭にまで入ってこなかった。


 僕が呆然としていると、椿さんは慣れた手つきで作業を始めた。

 僕に作業の仕方を動画配信者のように、解説してくれる。


「まずは、使い古された提灯を用意します」


 椿さんは、古びた赤い提灯を持ってきた。

 僕も見様見真似で、提灯を手に取った。


「壊れたところや、破れたところを修復します。目は綺麗に切り抜いて、お口の部分に切れ込みをいれます」


 僕は、カッターを使って、目の部分綺麗に切り抜いた。

 口の部分には、すうぅと切れ込みをいれてみた。


「最後に、妖気を込めます」


 椿さんが手をかざすと、なにやら不可視の力がそそがれる。

 ポンっと音を立てると、目や口が現れ、提灯がカタカタカタとなりだして、ぴょんぴょんぴょんと動き出した。


「ね? 簡単でしょ」


 三分クッキングみたいに椿さんが言う。


「最後が、わからないよ……」


 なんだ妖気を込めるって、なんだよそれ。


 確か陰陽師と戦ってたときも、そんなこと言ってた気はするけど、見ててもやり方はわからない。


「どうやるの?」


「心と体で感じて」


「またそれ」


「えっと、気合いで、えいってやればできるよ」


 特に修理が必要なさそうな提灯に、椿さんが妖気を注ぐとポンと提灯お化けになった。

 椿さんは、もう呼吸するのと同じ感覚でできてそうだった。


 友里ちゃんが、妖怪になりたいって気持ちがわかる。


 なにをどうしたらいいかわかんないし。

 妖気は、なんか感じた気もするけど、取り出し方は全然わからない。


「ん~。まだ累君わからないなら、私が妖気込めるから、修復お願いね」


「オーケー」


 僕が作業を始めると、近くで作業をしていた木葉さんたちの笑い声が聞こえてきた。


「カイリ、マジやばくない? アタシのゲキかわじゃん」


 木葉ちゃんの提灯お化けは、丸みを帯びた提灯の形をしていて、その頭には小さなふわふわの猫耳がついていた。耳はピンク色の内側が見える柔らかそうな質感で、時折ピコピコと動く仕草がとても愛らしい。


 昔ながらの和風の雰囲気を保ちながらも、柔らかいパステルカラーで装飾され、まるでアニメキャラクターのようなかわいらしさを醸し出しながら、カタカタいってる。


 魔改造しすぎじゃない!?

 もう修理とか、そんな次元じゃない。


「僕のもいい感じだよ」


「ウケる~!それマジ最高」


 木葉さんが、絶賛しているカイリ君の提灯お化けを見た……提灯お化け?


 紙の代わりに全身鏡を張り付けられていて、鏡はキラキラと反射し、周囲に光の反射が無数に散らばっている。目の部分はLEDライトでカラフルに明滅しながら、ズンジャンズンジャンおかしなリズムを口ずさんでいる。


 カイリ君の提灯お化けは、提灯というかミラーボールなんだけど。


「なにそれ、どうなってるの!?」


 僕は、無視できなくなって、思わず聞いてしまった。


「提灯お化けだよ」


 カイリ君は、堂々と言う。


「提灯お化けって付喪神の妖怪だよね。付喪神って、長年大事にされた物が変化する妖怪だよね。なんでミラーボールが妖怪になってるの!?」


 たぶん提灯お化けは、笹鳴りさんの仲間だと思う。

 なんで新品の近代工業製品が、付喪神になっているんだろう。


「ああ、それはね」


 カイリ君は、今度はランタンを取り出した。


「百年こえてる提灯から」


 カイリ君は、古い提灯を分解する。


「骨組みをもらって」


 抜き取った骨組みをもらって、今度はランタンに組み込んだ。


「妖気を注いで」


 椿さんと同じようにランタンに妖気を注いだ。

 

「これで提灯お化け、完成」


 金属の枠に囲まれたアンティーク風のランタンに目玉のように蝋燭の火が現れた。

 宙をゆっくりと浮かびながら、ふわふわと移動しながら、温かい光を放っている。


「いや、ズルだよ」


 すくなくとも、もう提灯ではない。

 もうどこにも、提灯要素ないし。


 せめてランタンお化けと言ってほしい。


「コツとしてはね。これは、修理した提灯だと思い込んで妖気を注ぐことかな」


「そんなの、言い張ったもの勝ちじゃないか」


「ランタンか提灯かなんて些細なことだよ。物を大切にすることが重要なんだ」


「なるほど……いや、やっぱりズルだよ!?」


 良い言葉で納得しかけたけど、むしろ詐欺師みたいな言い分。


「だから、こんなに提灯お化けいるんだ」


 ゲームの無限増殖バグみたいだった。


 完成した提灯お化けたちから行儀よく列になっている。

 さながら百鬼夜行提灯お化けverの出発準備をしているようだった。


「こんなに増えて、大丈夫なの?」


「僕らの妖気じゃ、明日ぐらいまでしかもたないよ。普通の提灯に戻ったら、回収して、また次の祭りで活躍してもらうんだよ」


「そうなんだ」


 個性的な提灯お化けたちが楽しそうにしている。

 毎年のお祭りをずっと楽しみにしていたといった感じが伝わってくる。


 カイリ君が、作ったランタンとミラーボールの提灯お化けも、木葉さんが作ったファンシーな提灯お化けも輪に加わってワイワイしている。


 きっとこうやって、僕もこんな感じでこの町に馴染んでいってるんだろうなと、共感してきた。


 提灯お化け達が、いいなら、まあいっかという気分なってきた。

 僕は提灯お化け作りの作業を再開した。


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