表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

14.陰陽師と雪女

 僕は病院の庭にたどり着くと友里ちゃんと椿さんの姿を探した。友里ちゃんと椿さんが互いに息を合わせ、巧みな連携で式神を次々と撃破していた。友里ちゃんの団扇が振るわれるたびに、紙飛行機が音を立てて千切れとぶ。椿さんは華麗に舞いながら、鋭い蹴りで次々と式神を倒していた。


 式神の先に、男が一人たっていた。

 継名さんと言い争っていた警察官の男だ。


「陰陽院の逮捕状は持ってきた!」とその男が叫んだ。「狼男を引き渡せ!さもなくば全員拘束する!」


「ふざけないで!」と友里ちゃんが叫び返す。「ここは妖怪の町よ。勝手なことはさせない!」


 友里ちゃんが式神に向かって突進した瞬間、紙飛行機たちは突然集まり始め、一つの巨大な形を作り出した。


「なんだ、あれは…?」


 紙飛行機が重なり合い、まるで生きているかのように動き、巨大な龍の形を成していく。その姿は不気味で、まるで古い巻物から飛び出してきたようだった。


 友里ちゃんが叫びながら、団扇を振りかざし、龍の頭部に向かって突き出した。


 「行くよ!」友里ちゃんが一声掛け飛び上がると、団扇を大きく振った。


 その瞬間、団扇から放たれた風がまるで嵐のように紙の龍を直撃した。風の勢いは凄まじく、紙の龍は一瞬で後方に吹き飛ばされた。紙の龍は空中でばらばらに解体され、無数の紙飛行機が四散していく。まるで巨大な爆発が起きたかのように、紙の破片が病院の庭中に舞い散った。


「すごい…!」僕はその光景に目を見張った。


 友里ちゃんは一瞬の隙も逃さず、再び団扇を振り上げた。「これでもくらえ!」彼女の掛け声と共に、さらに強力な風が巻き起こり、残っていた紙の破片を完全に吹き飛ばした。紙の龍はもはや形を保つことができず、完全に崩れ去っていった。


 再び、友里ちゃんは男に団扇を構えながら言う。


「こっちの術式は風。相性はいいわ。諦めて帰りなさい。それにこの町は、日本だけど、日本の法律は適用されないわ」


「お前たち化け物を野放しにして、どれだけ人間が殺されたと思ってるんだ」


「人間同士だって戦争して殺し合ってるのに、何言ってるわけ?」


「よその国の話だ」


「はぁ? たった百年前は日本だって戦争してたでしょう?」


「そんな昔のことを」


「昔? この町の妖怪のみんなは、昨日のことのように語るわよ」


 何百年と生きてる妖怪もいるという話だ。

 戦争を経験している妖怪たちも多いのだろう。


「大体、警察官だからって、病院を襲撃するって倫理観どうなってるのよ」


「俺の調べでは、ここは妖怪専用の病院だそうだな」


「だから?」


「化け物に人権なんかあるわけないだろう。人じゃないんだから」


「なんですって!」


 激昂した友里ちゃんが、再び団扇を振るおうとする。

 普通の団扇を煽った程度の風しか起こらなかった。


「ッ、妖気切れ? 椿、補充して」


 友里ちゃんは、椿さんに向かって、団扇を投げる。

 当然、そんな隙を相手の男が見逃してくれるはずもなく。

 

「今時の陰陽師が、陰陽術だけしか使わないと思ったら大間違いだぞ」


 男は両手で、忍者のように印を組むと、なにか不可視のエネルギーが、友里ちゃんと椿さんの足元に集まっているのを感じた。


「妖怪拘束術だ。逃げられまい」


 男が胸から何か取り出そうとしているのが、見えた。


 あれは、銃!


「椿さん!」

 

 僕は、無我夢中で椿さんの前に飛び出していた。


バンッ!


「「累君!」」


 胸に強力な衝撃を浴びて、意識が飛びそうになった。


「よくも、累君を」


 友里ちゃんの声が遠くに聞こえる。


「妖怪は、俺の拘束術を抜け出せない」


 男が放つ術を無視して、友里ちゃんは走り抜けた。


「アタシは、妖怪じゃないもの、()()!」


天狗式移動術烈火激烈の型。


 友里ちゃんが、大地が震動するぐらい踏み込む。


 姿がかき消えるほどの勢いで、敵に迫ると素早く左足を彼の腹部に蹴り込んだ。痛みに呻きながら後ろにのけぞるが、友里ちゃんはそれを逃さず、次に右肘で彼の顔面を打ち付けた。衝撃で陰陽師はさらに後退し、壁に激突する。


 さらに一歩踏み込み、拳を握りしめて陰陽師の胸に強烈な一撃を叩き込む。

 陰陽師は息を詰まらせ、膝から崩れ落ちる。


 いままで、手加減していたとしか思えない猛攻だった。


「累君、椿」


 友里ちゃんが、心配しながら、駆け寄ってきた。


「私はなんとも、累君は」


「僕も大丈夫だよ。ちょっと痛いぐらいで……」


 僕は、胸を押さえてみる。

 なにか硬くて冷たいものが銃弾を防いでくれていた。


「なにこれ? 氷?」


「友里さん、なにしてるのかしら?」


 氷のように澄んだ妖艶な声が響く。


「ひょ、氷華!? どうしてここにいるわけ?」


「継名に頼まれましたから」


 継名さん、結局頼んでいたのか。


 どうやら、銃弾は氷華先生が防いでくれたらしい。


「こ、この妖怪どもめ」


 陰陽師が、再び立ち上がろうとしていた。


「ほんとしつこい」


「友里さん、あなたあんな弱い陰陽師一人まともに相手できないのかしら?」


 煽るようにいう氷華先生。


「なんだと!?」 


 怒ったのは、友里ちゃんではなく、陰陽師だった。


 陰陽師が、再び立ち上がると、今度は氷華先生に銃口を向けた。

 雪村先生は、何をするでもなく、冷たく陰陽師を見つめている。

 

バンッ!


 再び、銃声が鳴り響くと、氷華先生の頭が銃で吹き飛んだ。


「どうだ、化け物め」


 氷の破片が空中に舞い上がり、まるで細かい雪の結晶のように散らばった。


「先生!」僕は驚きと恐怖で叫んだ。


 しかし、その時、空中に舞う氷の破片が一つ一つ集まり始めた。冷たい風が吹き荒れ、その風に乗って氷の破片が再び一つに集結する。

 パリパリパリと霜が降りるような音を立てると、氷が組みあがって再び人型になっていく。


 氷の破片が完全に集まり、彼女の体が再び形を取り戻すと、氷華先生はその場に凛として立っていた。


「ふふ、こんな程度で私を倒せると思ったのかしら?」


 氷華先生は冷たい微笑みを浮かべ、ふっと息を吐くと陰陽師は瞬く間に氷漬けにされてしまった。


「どうして、氷華先生は蘇って……」


 僕の質問には、椿さんが答えてくれた。


「氷華先生は、人妖怪じゃなくて、人型妖怪。氷そのものだから、本体攻撃しない限り不死身なの」


 多分、指歩さんと同じタイプの妖怪なのだろう。

 本体が死なない限り、不死身に違いない。


「本体って、どこにあるの?」


「えーと、あそこに見えてる山かな?」


 椿さんが、指をさした方向には、大きな山があった。


「山!?」


 規模の大きさが、段違いだった。


「ま、氷華は、継名より、年寄の妖怪だからね」


 友里ちゃんが、余計な一言を放った。


「友里さん? それは、どういう意味かしら?」


 夏だというのに、温度がいっきに十℃以上下がったような氷華先生の声。


「私が来たからよかったようなものの、無謀にも突っ込んでいって、どうするつもりだったのでしょうか」


 お説教モードで、つかつかと友里ちゃんに歩み寄っていく氷華先生。


「うるさい! クソババア!」


 ひどすぎる暴言を吐くと、友里ちゃんは一目散に走りだした。


「こら! 待ちなさい!」


 ダッシュで、逃げ出した友里ちゃんを、氷華先生は追いかけて行ってしまった。


「友里ちゃんは、しょうがないなぁ」


 呆れたように椿さんは言う。


「いや、椿さんも似たようなものだからね」


 お転婆さでいえば、友里ちゃんに全然負けてない。


「あれ? そうだっけ、あはは」


 反省した雰囲気はなく、椿さんは笑ってごまかした。


「氷華先生が来てくれたから、よかったけど、本当に気を付けてよ」


「うん。でも、累君守ってくれて、ありがとう。かっこよかったよ」


 そんな風にお礼を言われると照れてしまう。

 ぼくがいたたまれない気持ちでいると、病院の看護師さんたちがやってきて、氷漬けにされた陰陽師を縛り上げて連れて行ってしまった。


 すごく手際がいい。

 もしかしたら、日常茶飯事なのかもしれない。


「ちょっと疲れちゃったし、今日は、お開きにしようか」


「そうだね。そうしようか」 


「累君、また明日ね」


「ああ、うん。また明日」


 本当に今日はいろいろあって疲れた。


 明日からまた学校生活が……。

 いや、ちょっとまって、今日は土曜日。


 明日は、日曜日でまだ学校休みなんだけど……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ