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10.カマイタチの恋愛相談と婚活パーティー


 しばらくすると継名さんが帰ってきた。

 手には両手が鎌になっている鼬――多分、鼬野さんをひっ捕まえて。


 継名さんは、ぼくらに向かって鼬野さんを放り投げた。

 鼬野さんは、ドロンと回転すると、20代後半ぐらいの男の人の姿になった。


「さあ、鼬野さん。この世界一の美少女、友里ちゃんと会話しましょう!」


 友里ちゃん、自分で自分のこと美少女言っちゃうんだ……。

 自己肯定感の塊みたいな存在だな。

 

「いや、そのワイは」


 友里ちゃんの圧にでおろおろしだす鼬野さん。


「アタシと会話で慣れたら、他の女なんてたいしてことないでしょう」


 自信満々の友里ちゃんに、ますます小さくなっていく鼬野さん。


「友里ちゃん、やっぱり鼬野さんに自信をつけさせてあげないといけないんじゃ」


「鼬野さんは、カマイタチでしょう? カマイタチだって、風を操る力はすごいじゃない。うまく使えば、どんなことだってできるはず、まあ天狗のアタシには遠くおよばないと思うけど! アイタ!」


 継名さんが、後ろから友里ちゃんの頭を団扇で叩いた。

 パシパシ、音を立てながら、カンカンに怒っている。 


「お前はなにマウントとってるんだ。別にお前は天狗じゃないし、いつも俺が団扇かしてやってるだけだろうが」


「なによ。いいじゃない! そのうちアタシは天狗になるんだから!」


「もういい。お前はもう引っ込んでろ」


「継名が会話しろって言ったんでしょ!」


 ギャンギャン言い争う継名さんと友里ちゃん。

 唐突に親子喧嘩が始まってしまった。


 仕方なしに、僕が鼬野さんと会話することに

 

「初めまして、鼬野さん、僕は鬼見浜累、えーと、友里ちゃんの友達です」


「うわーん。累君どうしよう。ワイは今日振られてしまったら、もう二度と結婚できないかもしれない」


「そんな大げさな。今日振られたからって、女の人は星の数ほど……」


 親子喧嘩を終えた、継名さんが僕の言葉を遮っていった。


「この町にいる年ごろのカマイタチは五匹、男が三匹、女が二匹だ」


 小学生の簡単な算数で計算できる。


「確実に男一匹余るぞ」


 継名さんは嫌な現実を突きつけた。


「うわぁあああ」 


 鼬野さんは、嘆きの声をあげた。


「いいニュースがある」


「なんですか?」


 鼬野さんは、希望に満ちた目で継名さんを見つめる。


「今日の婚活パーティーに全員来る」


「そ、それのどこがいいニュースなんですか」


「つまりだ。まだ誰もカップルは成立していない」


「つまり、ワイは目の前でカップルが成立するのを目の当たりにしなければならない……」


「はぁ」


 継名さんは、あきらかに失望したような声を出した。それから僕に一枚の写真を見せた。


「累、写真の三匹がこの町にいるカマイタチ男三匹組だ。どう見える」


「えーと、どれが鼬野さんですか」


「一番、醜い鼬がワイです」


「だから、それがどれかわからないんですが……」


 正直どれも同じ鼬にしか見えない。


「ほ、ほら見てください。彼ら二人のこの艶やかな毛並みとワイの毛並みの違いを」


「すみません。なんにも、わかりません」


「……天狗様はわかりますよね」


「天狗が、鼬のかっこよさなんかわかるわけないだろうが」


 継名さんは、にべもなく言い切った。


「お前の考えるかっこよさなんて、所詮その程度ということだ」


 鼬野さんは、継名さんの言葉を呆然とした。


「男は強い奴がカッコいい。そして、妖怪の強さの源は、妖気つまり心の強さだ」


「だから、心を強くするためには、どうすれば……」


「じゃあ、まずは婚活の心構えからおしえてやろう。まず第一に、可愛い彼女が欲しいは、いい願いだ。だが、可愛い彼女に好かれたいというのは、婚活として間違っている」


「どうして?」


「婚活とは、愛してくれる人を探すのではなく、愛する人を探すんだよ。娘さんをください。娘さんが僕を幸せにしてくれるからですとかいうやつはぶん殴るぞ。幸せにしますだろうが」


 継名さんなんだか、ものすごく熱が入ってるけど、完全に友里ちゃんが、彼氏連れてきたときのことを想像してそうなんだけど。


「誰よりも自分が、必ず君を幸せにしてみせるという意気込みで行け!」


「はい! わかりました」


 継名さんの超強力な言霊で、鼬野さんは、ビシッと敬礼すると、コン太さんが持ってきたスーツに着替える。


「よし。いってこい」


「はい!」


 ロボットのような足取りで会場に向かう鼬野さんを僕は見送りながら、継名さんに聞いた。


「これだけやって、振られたらどうするんですか?」


「まあ、そういうこともあるだろう」


「そうなんですね」


「恋愛は戦争だ。だが、失恋しても死ぬことはない。彼女ができるまで、アタックし続ければいいだけの話だ」


「でも、カマイタチ、5匹しかいないんじゃ」


 女は二匹、二回しかアタックできない。


「カマイタチはな。カマイタチは普通の鼬とも結婚できるぞ。鼬野のやつ、よく分かってないがな。実はカマイタチってだけで、鼬の中では超エリートなんだよ」


「そうなんですか」


「ろくろ首が普通の人間と結婚できるようなものだ」


「なに言ってるんですか継名さん」


 継名さんは、にやにやしている。 

 完全に僕をからかって遊んでいる。


「さあ、そろそろ始まるぞ」


 いつのまにか神社の境内はにぎやかな雰囲気に包まれていた。

 境内には色とりどりの提灯が吊るされ、あちこちに置かれたテーブルの上に豪華な食べ物がたくさん並べられていた。


 会場にはいつの間にか妖怪たちが集まり、思い思いに楽しんでいる。


 狐の耳を持つ者。

 蛇の目を持つ者。

 羽を広げた者。

 

 さまざまな姿の妖怪たちが一堂に会していた。


「本当にお化け屋敷みたいな町だな」


 怖さはもう微塵も感じられないけど。


 中心には、大きな舞台が設けられ、和やかな雰囲気で会話を弾ませていた。

 カマイタチの鼬野さんも、少し緊張した面持ちで参加している。


「ようこそ、妖怪婚活パーティーへ!」


 舞台上で司会を務めるのは、キツネの耳を持つコン太さんだった。

 彼はマイクを手に、参加者たちに向けてにこやかに語りかけた。


「今日は、皆さんが素晴らしい出会いを見つけられるよう、楽しいイベントを用意しました! どうぞ、リラックスして楽しんでくださいね」


 コン太さんの明るい声が響くと、妖怪たちは拍手で応えた。

 司会の挨拶が終わると、さっそく最初のイベントが始まった。


「では、まずは自己紹介タイムです。皆さん、隣の席の方と自己紹介をしてください!」


 妖怪たちは隣の席の者と向き合い、自己紹介を始めた。狐の妖怪が、自分の変化能力を披露したり、河童が得意な料理の話をしたり、様々な話題で盛り上がっていた。そこかしこで笑い声が上がり、楽しげな雰囲気が広がっていった。


 鼬野さんも、頑張って細長の美女に声をかけていた。

 あれが、鼬野さんの想い人なのかもしれない。


(頑張れ!)


 僕は心の中で応援した。


 それから、少し離れたところで、楽しそうに妖怪たちを見ている友里ちゃんに近づいた。


「妖怪も、悩みは人間と変わらないんだね」


「そうよ。妖怪だって、恋をせずにはいられないだけだもの」


 僕たちはそんな他愛のない会話をしながら、妖怪たちの幸せな笑顔を見守り続けた。この町の妖怪たちが、いつまでもこうして楽しく過ごせるよう、僕もできる限りのことをしていきたいと思った。



 

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