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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

嵐ほこりのあと

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやよ~、お前さあ、部屋の掃除とかしてる?

 その顔だと、あんましって感じだな。自分が暮らしていけさえすればいいとなると、その空間に無頓着になることもあるだろ。

 俺の部屋は、相方がけっこうそこらへんを気にするからきれいめだよ、ありがたいことに。どうも俺ひとりだと、汚部屋製造人らしくて頭が上がらないな。


 掃除といえば、義務教育で通う学校で習うし、家でも学ぶことのひとつだな。

 まわりを清めておくことは健康につながり、御客人に不快な思いをさせることもなくなる。礼儀のひとつとしても重んじられることだ。

 でもよ、ひょっとしたらもっと、不可解で大事なことが隠されているかもしれねえな。

 ほこり自身がもたらすのか、環境がたまたま整っちまうだけかは分からないが。

 俺のオヤジから聞いた話なんだが、耳に入れてみないか?



 オヤジは小さいころ、綿ぼこりそのものに興味津々な子供だったらしい。

 オヤジ本人は覚えていないが、床を這い出したころに、たまたま障子戸の隅に溜まっていた綿ぼこりを、口に入れようとしてしまったとか。

 小さい子供はなんでも口に入れたがるというからな。そのこと、そのものは責められないだろう。じいちゃんばあちゃんも、すぐに気づいて「ぺっ」させたらしい。

 しかし、そのことがあってからか、オヤジは物心ついたときから、綿ぼこりに関して少し異常な感知能力を見せたという。


 見えないところのほこりの場所が、おおよそ分かるというんだ。

 普段の掃除で、あまり手を入れていなかったところであれば、たとえ外から見て分からずとも、なんとなくほこりがあるかな~とは予想するはず。

 しかし、オヤジはそれらの有無のほとんどを、見ないで当ててみせたんだ。

 同じ部屋のものはもちろん、違う部屋のもの、違うフロアのものだって、その場から動かず9割以上の精度で当てた。あまりに当たるものだから、はじめは仕込みでもしてんのかと疑われるほどだったらしい。

 しかし、それも数を重ねることに払拭。オヤジに備わる第六感のようなものとして、掃除のときはちょっぴり重宝したのだそうな。


 オヤジいわく、自分が見ている視線の中で、ぐるぐるカメラが動いて回転するようなアングルでもって、ほこりの位置を見渡すことができてしまうのだとか。

 ちょうどテレビを見ているときのようなのだと。テレビ以外の周囲の視界もおさめながら、画面内で起きていることをよく把握できる。

 回り込み、上から見下ろす形でほこりのありようを確かめられるこの力を、オヤジも指摘されたことで特殊なものと知り、自分の超能力だと誇らしげに思っていたらしいのだが。


 それは学校に通うようになってから、出会った。

 自分の家以外でも、ほこりのありかを突き止められることに気付いたオヤジは、掃除の時間でその力をおおいにふるう。

 はたきを任されると、百発百中の腕でほこりを落とし続けていった。学校という広い範囲ゆえ、すべてを押さえようと疲れるが、ある程度見るあたりをコントロールするすべも、オヤジは身に着けている。

 自分と同じ班の担当範囲にしぼり、指示を出すことで効率よくクリアしていくのが常だったが、学期末の大掃除ばかりは例外。

 いつもより掃除範囲が広く、オヤジのほこり映像もまた大忙しとなる。

 普段は担当区域から外れてしまう教材室なども、今回のオヤジが任された場所となった。

 授業で使う世界地図や、特大サイズの三角定規など、自分で触れる機会がめったにない品々をそっとどけつつ、ほこりたちをかたしていくオヤジだったんだけど。



 ふと、目にするほこりの映像が、ちかちかっと光を出して乱れたんだ。

 これまでなかった事態に、思わず目をこすってしまう。

 これまでガラスの反射光やカメラのフラッシュなどで、不意に目をくらまされたときでも、ほこり映像そのものがおかしくなることはなかったそうだ。目を閉じた暗闇の中でも、くっきりと浮かんでいた。

 なのに、いまはその真逆。

 目をはっきり開き、見ている教材室の景色の中、ほこり関連だけが妙な動きを見せている。


 それは、いまの親父の位置から右手の棚を挟んで向こう側。

 最奥の棚の、一番上の頭を上から見下ろすような景色だったらしい。

 ひとことで表すなら、雷雨。

 周囲の雲らしき灰色こそ、ほこりのそれのようだったが、その間を幾筋もの光が走り、細かい雨粒のようなものがしきりに降り注ぐ。

 飛行機などに乗ったことはまだないものの、これが空の雲の中の景色じゃないかとオヤジは想像してしまう。


 ことの次第を確かめよう。

 オヤジは現在進行形で暴れているだろう、棚の上をのぞこうとした。

 まだ背が低く、素では棚の上をのぞくことはできない。

 踏み台か、最悪机などでもいい。どうにか背を伸ばすのに役立つものを……とオヤジが探っている最中。

 ほこりまわりの景色が、変わった。ふっと、灰色の雲全体がわずかにわきへどいたんだ。

 オヤジが先ほどまで居た位置も含めた、教材室の景色をわずかに映しながらも、あくまで主役は棚の上部。

 よそと同じ、黄土色をした板の色と木目が見えている部分さえ、脇役だった。いまオヤジの見る視界の中央には、黒々とした穴が開いていたんだ。

 これまで見たことのないパターンにとまどうオヤジだったものの、その正体はすぐにさらされることになる。


 さっと新たに視界へ入ってきたのは、小さい小さい虫。おそらくは、極小のゴキブリだったのではないかと思う。

 それが黒い穴と重なったとたん、現れたときと同じように、突然姿を消してしまった。

 代わりに、親父の耳へ届くのは歯ごたえのあるものを嚙みちぎる音。それに合わせて、黒ずんだ穴から飛び出し、ふちを汚していく水の跳ねが目に入ったのだとか。

 もう、オヤジには棚の上を探る勇気は出なかったらしい。

 穴そのものは、オヤジがずっと監視していたところ、そしゃくの音がなくなってからほどなく、どんどん小さくなって消えてしまったみたいなのだけど。


 オヤジがほこりのもたらすものを見続けるのは16歳ごろまで続いたらしい。

 その間に、通常のほこりのありかを見届けるのに加え、通りがかるものを飲み込む穴を開ける、あの雷雨のごときほこりも何度か確認したことがあったとか。

 先に待つ被害を想像し、穴ができてしまってからはその景色を引き続きは見ないようにしたし、誰かが近寄りそうならそれとなく遠ざかるよう、注意はしたそうな。

 それでも掃除をしていた中学校の先生が、指の先っちょを失うケガをしたと聞いた時にはどうにも気が重くなってしまった、と。

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