史上最高の哲学者、賢者、思想家の唐松金玉之介さんへのインタビュー1
「史上最高の哲学者、賢者、思想家の唐松金玉之介さんにインタビューする事が出来て光栄です」と僕は繰り返しアパートの自室で練習をした。僕はアナウンサーの荒井弓男だ。24歳。大手のテレビ局に入社してアナウンサーになれたんだ。まさか、初仕事が世界最高の哲学者であり賢者、偉大な思想家と言われている唐松金玉之介さんにインタビューが出来るなんてさ、まったく信じられない話だよ。
「はじめまして。アナウンサーの荒井弓男です」
「はじめまして。唐松だ。よろしく」
「唐松さん、今、W杯で世界中が盛り上がっていますね?」
「そうでもないよ。一部分で勝手に盛り上がっているだけの話さ。ところで、唐松じゃなくて名前で呼んでくれ。俺は子供の頃から名前で呼ばれている」
「いやいや、唐松さん、金玉だと放送コードに引っ掛かります。すみません」
「テメェ、親からもらった大事な名前を侮辱するのか? 殺るぜ、この野郎! キ◯タマってなんだよ! 『ごんぎょくのすけ』だ! 皆からは『ごんぎょく』って呼ばれてる!」
「いやいや、キ◯タマじゃないんですか? ちょっと唐松さん、待ってくださいよ。急にそんなにキレて血圧は大丈夫ですか? まさか『ごんぎょく』だったなんて知らなかったです。今までずっとキ◯タマ、キ◯タマ、キ◯タマさんってごんぎょくさんの事をキ◯タマって呼んでいました」
「全然キレてはいないよ。注意したのみ。俺は江戸っ子なんだよ! テメェ、この野郎! 早くインタビューを始めろよ」
「世界最高の哲学者、賢者、思想家と言われている唐松金玉之介さんにインタビューが出来て光栄です」
「そりゃ良かったね」
「唐松さん、W杯の話ですが応援している国は何処ですか? 優勝する国は何処だと思いますか?」
「応援は日本。優勝は間違いなくフランスかな」
「ほほ~う」
「フランスが優勝するであろう。絶対にフランスが優勝するよ」
「『ごんぎょく』さん、理由は?」
「フランスサッカーはエレガントだし、カッコいいからね。テクニシャンだしさ。歴史的に見てヨーロッパ・サッカーの革命的な基本はトータル・フットボールを生み出したオランダ代表の司令塔ヨハン・クライフが始まりだが、後に現れたフランス代表の将軍ミッシェル・プラティニが独自なパス回しを開発してトータル・フットボールを更に飛躍させた功績の方を俺は選びたいね。トヨタカップで来日した時のユベントスのプラティニは最高だったよ」
「サッカーが詳しいんですね。金玉、あっ、失礼。ごんぎょくさんは日本代表のサッカーについてはどう思いますか?」
「相変わらずだね」
「ごんぎょくさん、と言うと?」
「相変わらず点を取らないサッカーが好きみたいだね」
「あははは。確かに点を取るときの覚悟がないし、ムラが有りすぎますよね」
「そう。日本代表のパス回しは分かった、OK。成長したディフェンスの強さも分かった。問題はフォワードと中盤選手の連携の足りなさと、サイドを使ったワンパターンのマンネリ攻撃しかない点にある」
「なるほど」
「いつまでたってもストライカーがいない。これが最大級の問題。中盤を掻き回して崩す選手がいないというのも大きな問題だ」
「金玉、あっ、失礼。ごんぎょくさん、確かに」
「日本代表がボールを奪うと、相手チームの選手たちが自分たちのディフェンスラインの位置に戻ってから日本代表がようやくサッカーを始めるという話にならない悪いクセも全く改善されていない。相手が急いでディフェンスに戻る前に相手の陣地に攻め込むというのがサッカーの基本中の基本なんだ。それを理解していないし全く出来ていないんだよ」
「う~ん、金玉、あっ、ごんぎょくさん、確かにそうですよね」
「日本代表のサッカーの1番の問題点は点を取る意欲がないまま試合をすること」
「ははは」
「点を取ることを怖がっていること」
「ごんぎょくさん、なるほどなぁ」
「日本代表の得点力の少なさ低さは昔々から続いている課題であり悪癖でもある。得点に関しては選手たちが、皆、怯えていてイップスになっている様さ。いやイップスに見えるな。イップスだから点が取れないのかもな」
「キ◯タマさん、イップスとは?」
「おい、今、何つった?」
「失礼しました。ごんぎょくさん、イップスとは?」
「アナウンサーなら後で自分で調べなよ」
「はい」
「やはり、イップスによって得点力がないのかもな。まるでフォワードはイップスっぽいプレーにも見えるもんな。フォワードのクセに直ぐにバッグパスもするしさ。イップスによって得点力がないのかもしれない。中盤の無駄なパス回しもいらないしさ。サッカーは曲芸ではないんだからね」
「なるほど」
「統一された規則正しい試合運びばかりするのも頂けない。サッカーのフォーメーションやスタイルとは統一されたものではないんだ。無限の戦い方があるのがサッカーなんだよ。イマジネーション豊かに試合を運ぶのがサッカーの魅力なんだ。日本代表のサッカーには、まだまだイマジネーションがないね」
「凄い分析力ですね。ごんぎょくさん、確かに日本代表を見ていてそう感じます」
「基本や技術を学んで得たら、後は、自由にプレーするのがサッカーなんだよ」
「ごんぎょくさん、全くの同感です」
「日本代表に必要なのは、エース・ストライカーを育てる、イマジネーション豊かにプレーをする、自由に戦う、この3つが大事になってくるぜ。とにかく、ストライカー、ストライカー、ストライカーだ。点取り屋を育てる事が急務だ。エース・ストライカーが何よりも必要だ。一刻も早く必要だ。ストライカーの件については緊急事態と思って欲しい」
「勉強になります。ちなみにごんぎょくさんのベストイレブンは?」
「ゴイコチェア、バレーシ、ブッフバルド、セレーゾ、バッジョ、プラティニ、ハジ、ジーコ、クライフ、リネカー、日向小次郎だ」
「えっ!? 他の選手はめちゃめちゃ大物ですが、日向小次郎はマンガじゃ?」
「じゃあ、小次郎の代わりにオランダ代表のファンバステンにするかな。あはははは!」
「分かりました」
「ちょっと休もう。ウンコしてくる」
「ごんぎょくさん、了解しました」
THE END