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恋は盲目な美少女

三人称にしておくんだったと後悔したので、この話から三人称にしました。

これまでの話も順次三人称に変更していきます。

お手数をおかけして申し訳ございません。

 悟は家を飛び出して駅までの道を走っていた。理由は、茜が忘れた鞄を届けるため。物の数分程度後に家を出ただけなのに、意外と茜の姿は見えてこなかった。


「あ、いた」


 息を切らし、鞄を二つ持った悟が茜を見つけたのは、駅に着いてからだった。茜は鞄の中に定期券を入れていたため、改札前で鞄がないことに気が付いたらしい。


「ああありがとう」


 真っ赤な顔の茜が、悟にお礼を述べた。そのまま鞄を受け取って、二人は駅構内に侵入していった。


「ごめん、トイレ行ってから行くよ」


 ホームへ向けて隣同士で歩く中、悟はトイレを指さしながら言った。

 茜と二人で電車に乗るのが気まずい気持ちも大いにあったが、茜を追いかけるためにトイレに寄れなかったことが提案の理由だった。


「う、うん」


 茜の同意も得て、悟はトイレへと向かった。

 悟は思っていた。先日、茜は悟の意を察して、一人で帰宅してくれた。それ以降も、同様だった。恐らく今回も、自分の意を察してくれるはずだと。


 トイレ内に、電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえた。ますます、茜は自分を置いて行っただろうと悟は思った。


「おかえり」


「うわあっ」


 気を抜いてトイレから出た結果、悟は悲鳴を上げることになった。トイレの傍、入り口から見えない場所にて、茜は悟を待っていたのだ。


「……櫻井さん、待っててくれたんだ」


「え、うん……」


 待っていてくれなくて良かったのに、という意味を込めて言ったのだが、茜にその意図は通じていなかった。

 いつもの茜であれば、言わずとも察してくれそうな場面なのに。やはり、茜の調子が良くないのでは、と悟は心配になりだしていた。


 その心配の裏付けかのように、いつもなら話題を提供し場の空気を盛り上げてくれる茜が、今日はずっと静かだった。

 隣人として、悟は茜の体調が心配だった。


 だから、悟は視線を茜に移した。


 その時、二人の視線がかち合った。二人は同時に、顔を逸らした。

 駅構内に流れるアナウンスが、二人の緊張気の空気の些細な緩衝材という状況。


 失敗した、と悟は思っていた。

 茜のことを、悟は相当買っていた。だから、自分が茜のこと、相当心配していることがバレたと思っていたのだ。避けるような真似をしておいて、格好がつかないから、失敗したと思ったのだ。


 一方その頃、茜は悟のまつ毛の長さに見惚れていた。うら若き十六歳の少女は、初恋相手である悟の顔が、昨日の一件を経て美化されて見えるようになっていた。どこを見ても見惚れてしまいそうになるくらい、悟に吸い寄せられるように視線が寄せられてしまうのだ。

 果てに茜が魅入ったのが、悟のまつ毛だった。

 男にしては長く、コンプレックスを抱える女性であれば、ついつい羨んでしまうような長さ。


 そんなまつ毛に、茜は執心していた。


「櫻井さん」


「あ、ひゃいっ」


 うっとりとしていると、悟に声をかけられ茜は飛び跳ねた。

 

「……別の号車に乗って、学校に向かわない?」


 しばしの静寂の後、悟が提案したことはつまり、別々に学校に向かおう、と言うことだった。

 茜は、


「なんで?」


 先日までの悟とのやり取りを、想い人と一緒に登校する喜びで忘れてしまっていた……!


「なんでって……僕と一緒のところ、クラスメイトとかに見られたら何言われるかわからないよ」


「え、宝田君、先週何か問題起こしたの?」


 あたしの知らないところで? 先週、もっと一緒にいる時間を増やしておけば良かった。などと、茜は考えていた。


「いや別に、問題は起こしてないけど……」


「じゃあ、問題ないじゃん」


「えぇ……?」


 悟の口から戸惑いがちな声が漏れたのは、昨日までと茜があまりに違うのと、茜が空気をまるで読まないことが起因していた。

 そんな様子で戸惑う悟に対して、茜は戸惑う悟の顔にも魅入るのだった。最早、彼女は無敵である。


 戸惑う悟。

 喜ぶ茜。

 それぞれ別々の状況ではあるものの、滑り込んだ電車に致し方なく二人は一緒に乗り込んだ。


 通学中、他クラスメイトから悟は注目されることとなった。

 教室に着く頃にはぐったりしていて、その後の一時間目の授業は覚えていない始末だった。


「宝田、ちょっといいか?」


 結局放課後まで、悟は本調子を取り戻すことが出来ずにいた。

 そんな悟の状態もいざ知らず、悟と一緒に帰ろうとしていた茜の前に邪魔が入った。担任の遠藤が、悟を呼んだのだ。


 呼ばれていく悟を見送って、茜は悟が戻ってくるまで何して待っていようか、と考えていた。


 一先ず茜は、クラス日誌にペンを走らせ始めた。

 

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