デートする美少女
スカイライナーで成田空港まで行き、それから鈍行で一駅戻り、二人は成田駅に辿り着いた。
「着いたーっ」
約一時間の電車旅、凝り固まった体を解すように、茜は背中を伸ばしていた。
「お疲れ様。結構楽しかったね」
「宝田君、鈍行でも楽しそうだったもんね」
「うん。スカイライナーと別のところを通って戻ったから、トンネルの境でさっき見た景色と違うって、結構興奮した」
茜としたら電車にはあまり興味はなかったが、悟がこれだけ喜んでくれるなら満足だった。
「宝田君、電車が好きなんだ」
「いいや、そこまで……」
「え」
それは無理がある。さっきまでのあの喜びようは何だったのか。茜は、文句の言葉を考えていた。
「電車が好き、というより……路線図が好き、というか、どうしてそこに線路を敷いたのか、とか、地理的な話の方が好きなんだよね」
「……へえ?」
感心げに聞いている風で、茜は悟の言っている意味がよくわかっていなかった。
「そうだね。……例えば、中央本線。山梨の勝沼ってところが、夜行くと山梨市街の夜景が見えるからってことで、結構有名なんだけど。……あそこって、東京に向けて電車を走らせる上で、甲府駅から見ると結構迂回して進んでいるんだ」
「あ、その夜景の話は知ってる。凄い綺麗だって言うよね」
「うん。それで、話を戻すんだけど……迂回して進んでいくのってさ、普通に考えたら非効率的だと思わない? 甲府から東京に行きたい人にとっては、それだけ電車に乗っている時間が増えるわけなんだから」
「ああ、確かに」
「でも、そうはしなかった。じゃあ、どうしてそうしなかったのか。そういうのを考えながら、調べながら電車に乗るのが、僕は好きなんだ」
「あ、なるほど。だから地理的に好き、か」
茜は完璧少女らしく、悟の意図をかみ砕いて理解したらしかった。
そして、悟の話を理解した茜の興味は、先ほどの勝沼の話に戻った。勝沼。山梨。新宿から電車で一時間と少し。田舎のイメージが強い山梨だが、実は首都圏なことも相まって、カタログ上の見栄えは悪くない。
そんな山梨の有名なデートスポット。フルーツ公園。
そこも、山梨市街の夜景が見え、カップルのデートスポットとして有名な場所だった。傍には有名なほったらかし温泉もあり、英気も養える。
宝田君と行ってみたい……!
茜は、妄想を膨らませながら煩悩溢れる考えに陶酔していった。
「櫻井さん。……櫻井さん?」
「……はっ」
「……大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ?」
多分、大丈夫ではない。
「……まあ、歩こうか」
釈然しないながら、悟は成田山新勝寺までの道を歩く決意をした。居酒屋、ジャンクフードのある道を抜けると、わかりやすい観光道が一本あった。古めかしい建物が並ぶ道だった。
悟は、持参していた父の一眼レフを取り出し、構えた。
パシャリ、と乾いたシャッター音が傍の道路を走る車の走行音に負けないくらいに響いた。
「後で、この写真も一緒に見よう」
悟は、悟の写真撮影風景を拝む茜に言った。
茜は、そのことは考えてなかったと唸って、
「うんっ!」
とびきりの笑顔で、微笑んだ。これでまた、悟の家に入り浸る理由が一つ、茜は増やすことが出来たのだ。
それから二人は、一緒に歩きながら、時折写真を撮影しながら、成田山新勝寺を目掛けて歩いた。
お土産屋。茶色を基調にした配色のコンビニエンスストア。道を行く観光客。
如何にも観光地らしい景色が、周囲には広がっていた。
迎えたY字路を右に曲がって、坂を下った。成田名物のうなぎのかば焼きの香りが、坂道の至るところから漂った。見れば、職人が店先でうなぎを捌いていて、周りには外国人観光客が物珍しそうにスマホを構えていた。
パシャリ。
パシャリ。
ここでしか味わえない景色を、悟はカメラに残していく。
そして、成田山新勝寺に二人は到着した。有名プロ野球チームの初詣先としても知られるここは、かなり広い敷地面積を誇る寺院だった。
二人はお参りし、願いを祈った。
悟は、友達が出来ますように、と。
茜は、悟といちゃいちゃ出来ますように、と。
次の参拝客のために横に外れて、茜は見つけた。
「宝田君、宝田君っ」
「ん?」
「一緒にあれ、やろうよっ!」
茜が提案したのは、御朱印記帳だった。
「面白そう」
悟は、微笑んでそれに応じた。二人はそこで御朱印帳を買い、御朱印を記帳してもらった。
「エヘヘ」
上機嫌な茜。
「お揃いだねっ」
嬉しそうに、自慢げに、茜は御朱印帳を悟に見せるのだった。
まもなく二人は、成田山新勝寺の御朱印が計六か所もあることを知り、どうせだからと全部回って御朱印を埋める作業を進めた。
そして、五か所の記帳が終わった頃に、二人は自動販売機のおみくじを見つけて、購入することにしたのだった。
「やった、大吉」
喜ぶ悟。
「うげ」
それに反して、茜は下品な声を漏らした。悟がこそっと茜の運勢を覗くと、そこには大凶と書かれていた。
「凄いっ! 大凶って、大吉より入ってる枚数少ないんだよ」
悟は心から感服し、そう言った。
茜も、それを聞き満更でもなくなったのか、みくじは結ばずに持って帰ることにしたのだった。
そして、二人は最後の御朱印記帳のため、階段を昇った。朱色の鳥居をくぐると、その先にはたくさんの提灯。
どうやらここは、出世開運稲荷と呼ばれているそうだ。
「綺麗」
御朱印帳への記帳を待ちながら、二人は神秘的な堂内の景色を楽しんだ。
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