やり直したい美少女
悟の部活探しが始まってしばらくの日数が経過した。あれから悟は、いくつかの部活に体験入部をお願いし、この学校の特色や部活の毛色、人間関係などを調べていった。
「ふあわああ」
そんな悟が目を覚ましたのは、体験入部の旅を始めて最初の土曜日。一日予定のなかった悟は、ゆっくりと惰眠にでも耽るかと思っていたが、日頃の時間にきっちりとした生活が災いし、いつもの時間に目が覚めるのだった。
「おはよう」
寝間着のままリビングに行き、
「あっ、宝田君。おはよう」
悟は、めかしこんだ茜の姿を見つけるのだった。
「いつも通り早いね、櫻井さん」
「うん。いつもの習慣で、変かな?」
「ううん。全然、むしろいいことだと思うよ」
悟に褒められて、わかりやすく茜は微笑んだ。
悟は、いつもの席である茜の対面の席に腰を下ろした。まもなく、悟の母が悟の前にパンを一枚皿に置いて持ってきた。
「ありがとう」
「いいえ」
短くそうやり取りして、悟は早速朝食を食べ始めた。
しばらく、テレビを見ながらご飯を食べて、悟は気になり始めた。
「櫻井さん、今日は随分……その、可愛い格好だね」
「へ?」
悟は、めかしこんだ茜のことが気になり始めていた。どこかへ出かける予定でもあるのか。そう思って口を開いたが、なんだか誑かし野郎みたいな唐突な言い方になってしまい、頬を赤く染めた。
悟の羞恥が伝播したかのように、茜も俯いて頬を染めた。
「……その、似合ってる?」
茜は羞恥こそあるが、そんなことより悟にお褒めの言葉を頂きたいと思うのだった。悟が可愛いなどと、そんなことを言ってくれた試しは、今日まで一度もなかった。
「え」
悟はわかりやすく戸惑った。そんな恥ずかしいことを言うために、茜の身なりを褒めたわけではなかった。
しかしまもなく、茜が上目遣いに涙目になったことを契機に、悟は慌てた。
「あ、その……似合ってる。とても」
言いながら、もっと決まった言い方が出来なかったものか、と悟は自分で自分が嫌になっていた。なんだか、自分が茜のことを意識していることが筒抜けになりそうで、怯えながら茜をチラリと覗いた。
「エヘヘ……カワイイ。可愛いって……宝田君が……」
茜は、悟の言葉を反芻し、悦に浸っているようだった。
悟は、ああ自分の気にしすぎだった、と一先ず安堵のため息を漏らした。
「それで、櫻井さん。そんな格好で、今日はどこかに出掛けるの?」
茜が気にしていなさそうで良かった、と気を取り直して、悟は尋ねた。
「え、ああ……」
茜もまた、気を取り直して微笑んだ。
「うん。そうだよ、今日はお出掛けするの」
「へえ、どこに?」
「成田山」
「……ん?」
なんだかつい先日聞いたことがあるような土地名だった。悟は聞き間違いかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「誰と行くの?」
「勿論、宝田君だよ?」
当然そうでしょ、と言うように茜は首を傾げていた。しかし悟としては、未だ疑問は拭えなかった。
「あれ……櫻井さんごめん。この前君が熱出した時から今日まで、今日、成田山に行く約束ってしてたっけ?」
「ううん。してない」
「え?」
茜は、微笑んだ。
「今日は、あたしが快復して以降最初の休みでしょ? だから、今日成田山に行くの、宝田君もわかっていると思って……」
茜としたら、発熱して流れた日帰り旅の代替え日は、きっと悟も次の休みにすると思い込んでいた。
「エヘヘ。約束取り付けるの、忘れてた」
つまり、アポなしでの唐突なお誘いを、茜は今日持ってきたのである。
「……駄目?」
折角、昨晩から準備をしてきたのに。
まさかこんな形で悟とのお出掛けが流れそうな現状に、茜は再び目頭を熱くしていた。
「……アハハ」
悟は、苦笑した。女の子に涙目で懇願されている現状……それも、母の前でそんなことされようものなら、悟に断る術などあるはずがなかった。
そうして突発的に、悟達の成田山へのお出掛けは決行されることになるのだった。
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