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強引な美少女

 文芸部とは、読んで字の如く文で芸をする部活である。自作の小説を書いたり、自分の思いを筆に乗せて伝える部活。

 茜が文芸部への入部を一年時に希望したのは、小さい頃から彼女が小説家という夢を持っていたことが起因する。

 人類史は文学の発展の歴史でもある。数千年の歴史を持つ人類史だが、それらが今日まで残り続けたのは何より、人類が文字という未来への記録を残したため。文字がなく伝聞だけの文化であれば、今ほどの文明の発展はなく、過去を知る術もなかったであろう。

 そんな考えに基づき、茜は文字という文化に魅入られ、それを活かす職業を志すようになったのだ。


「それでそれでっ、この小説の面白いところなんだけどさぁ!」


 そんな茜は今、想い人に自分と同じ部活に入ってもらえるように奮闘中。最近では本を買わずに電子書籍をスマホで読むようになった茜は、自らのスマホを悟に渡しておすすめの小説を紹介していた。

 一冊、二冊と、茜のおすすめ本の紹介は続いていく。


「へぇ、この作者また新刊出していたんだ」


 悟は懇切丁寧に茜の紹介する本の感想を述べていき、


「ああこれ、一巻までは読んだよ」


 ふと、思っていた。




 部活紹介は?




 いくら文芸部といえど、おすすめ本の紹介は部活紹介に当たらないのでは?

 本を読むことだけが、活動内容というわけではないだろう。


「次、これもおすすめの小説なんだけどさぁ」


「あの、櫻井さん。ちょっといい?」


 また別の小説紹介に入りそうな寸でのところで、悟は茜を振り向かすのに成功するのだった。


「何?」


 嬉しそうに小首を傾げて、茜は聞いた。


「えぇと、本紹介、どうせなら今晩やらない? いつも、写真鑑賞している時間にさ」


 しばらくの静寂。


「それ、凄くいいっ!」


 嬉しそうにしたのは、茜だった。写真鑑賞会の時間、一週間程続けて、悟のパソコン内の写真はまもなく七割は見たことになる頃だった。

 裏で茜は考えていた。写真鑑賞会なのに、見る写真が無くなれば鑑賞も何もない。どうにかあの時間を……悟の部屋で、二人きりの日々を延長させる術はないのだろうか。

 それをまさか、悟から提案されるとも思っておらず、茜は嬉しそうに微笑むのだった。


「そうかな。……じゃあ、部活紹介してもらえたら、嬉しいな」


「うんっ! そうだね!」


 今晩行われるおすすめ本の紹介のことを考えると、紹介を買った手前ではあるが、茜はニヤけるのを堪えるので精いっぱいになるのだった。

 しかも、パソコン画面を覗きあう写真鑑賞よりも小さな画面となるスマホを覗きながらの時間。より近い距離での悟との時間を想像すると、一層妄想が駆り立てられ、茜は今にも狂いそうだった。


 しかし茜は、まもなく気を取り直した。説明すると言った手前、それをないがしろにするのは悟への信頼を失うことになりかねないと思ったのだ。


「えぇと……まあ宝田君が前いた学校でもあったと思うけど、文芸部は本を読んだり書いたり、感想文を書いたり、そういう部活だよ」


「うん」


「基本的には、部員達全員でこの部室に集まって本を読んでいる部活ね。ただそれだと味気ないから、週一回皆でおすすめ本の紹介時間を設けてる。それ以外には、年一回、市の読書感想文への応募とかをしてる」


「なるほど。ちなみに、櫻井さん以外の部員はどれくらい?」


「あと二人。部活として認可される最低人数だね」


 茜は苦笑した。


「その、他の部員は?」


「実は、各々色々忙しくて、集合率がちょっと悪いんだよね」


「え?」


 それだと、先日悟が願った人が少なくて、活動が楽な部活に合致しているような気がして、悟は唸った。先日の茜の話だと、この学校にそんな部活はないみたいな話だったが。


「あ、集まりは悪いけど、やる気は凄いんだよ?」


「へぇ……」


 言い訳じみた茜の言いぶりに、悟は目を細めていた。


「あぅぅ……」


 どうも信じてもらえていないようで、茜は俯いて唸った。


 そんな居た堪れない茜と、微妙な表情の悟のいる文芸部部室の扉が、音を立てて開かれた。


 そこにいたのは、一人の少女だった。

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