9 稽古だよね? (改訂-3)
【稽古だよね?】をお送りします。
宜しくお願いします。
豪華だが趣味の悪い調度品に囲まれた男は、三十路に入ったばかりの顔を撫でて鏡を凝視する。この兄に似た顔を気に入ってはいなかった。
「……まだ見つからんのか? 」
鏡から目を離さずに男は後ろに控える者に問う。
「はぁ! 国中を捜索していますが、それらしき情報もなく……」
黒ずくめの男は、片膝をつき恭しく顔を伏せている。
「元服まで日が無い。それまでに母子共々始末しろ」
「は! 」
黒ずくめの男は、そう答えたものの、捜索に出した暗殺者が帰って来ない事実を報告出来ないでいた。相手は只者では無いのだ。だがこの国では元服の儀は十四歳で執り行う。それまでに始末しなければ……
「……まさか他国が匿っているのではあるまいな……ゴドラタンとパルミナにも探りを入れろ……」
「は! 仰せのままに! 」
◆◇◆
「……ナディア様の様子はどうだ?」
「相変わらずです……」
今年十歳になる下の息子のトーリが、皿を洗いながら受け答えする。このやりとりをもう二年間つづけている。その間もナディア様がこの地域に施した目眩しの呪法は生きている。ルバンスが元服するまであと二年。それまでなんとしても逃げ延びなければならない。
「父さん…….兄さんなら大丈夫だよ。ケルン様の腕輪もつけているし…….」
「そうだな……」
先日もドロアとタイランド公爵から手紙が来た。ドロアから、日々のルバンスの様子についてだ。やはり目立たない様にしていても、どうしても目立ってしまう様だ。
タイランド公爵は魔導学園での後ろ盾を買って出てくれている。流浪の身にはとても有難い。本来ならば、この隠れ里の様な所にあと二年、ひっそりと暮らせばよいのだが、ルバンスの感情と魔力を制御するには、ナディア様が眠り続けている以上、魔導学園で本人が精神を鍛えて、魔力制御を学ぶしかなかった。
◆◇◆
両者の睨み合いが、永劫に続くかと思われたが、ルバンスが先にしかけた。その身体が消えたのだ。
「?! 」
フェルナンデスは首筋に冷たいものを感じて、身体をひくくした。頭があった場所にルバンスの手刀が空を切る。
フェルナンデスは低くした体制からルバンスの足払いをするが、それもルバンスはかわして、フェルナンデスの肩に蹴りを入れた!
「……まともにやり合っては分が悪いようだね。」
フェルナンデスはそう言って木刀に人差し指を合わせて、短い詠唱を行う。ルバンスはもう一度身構え、いつでも動ける体制を作った。
フェルナンデスの木刀が白く発光し、稲妻がスパークする。
「まずい! 雷撃剣だ! ルバンス逃げろ!! 」
エルトリアが叫ぶ! がその瞬間、フェルナンデスが一気に間合いを詰めて横殴りの剣を繰り出した!
ルバンスの右掌が青白く発光して神代文字が浮かび上がる。その右掌でフェルナンデスの剣をまともに受け止めた!
「魔力を相殺しただと?! まずい! 」
フェルナンデスの雷撃剣の雷撃魔法がルバンスの掌に吸い込まれて威力が相殺された。驚愕したフェルナンデスの一瞬の隙をついて、ルバンスはフェルナンデスの首筋に手刀を叩き込んだ。フェルナンデスは世界が真っ暗になって崩れ落ちる。すぐに他の部員が木刀をかまえるが、すぐにフェルナンデスが静止する。
「や、……ややめろ! 俺に恥をかかせるな……俺の負けだ」
フェルナンデスは負けた負けたと木刀を手放した。
「ルバンス……なぜ攻撃魔法を使わない? 」
「これって稽古だよね? 」
「……はぁ〜。参ったな。完敗だ。凄いな君は」
「先輩もね。だけどこんな事がまだ続くの? 」
やれやれだと言う顔をしてルバンスが問いかける。
「風紀委員会が動き出すだろうな。生徒会長の親衛隊みたいな連中だ。気をつけろ」
「……フェルナンデスさん。それならその人達に伝えて貰えませんか? 」
お昼ご飯は食べられそうにないなと考えたら、ドリスは悲しくなった。
◆◇◆
「生徒会に果たし状?? 正気か? 」
フェルナンデスはルバンスの言葉をそのまま伝える事になった。反応は予想した通りだ。
「舐めやがって……面倒だからいっぺんにだと? 」
三年の副会長が吠える。
「……了解したと伝えてくれるかい」
生徒会長のジークフリードがフェルナンデスに伝える。
「会長!? よろしいのですか?? 」
風紀委員長のフェルミナが髪の毛をかき上げる手が震えるのを堪えて問いかける。
「……向こうから来てくれると言うのだから、待つとしよう
日時は三日後だ」
【稽古だよね?】をお送りしました。
どうもルバンスは何者かから身を隠している様です。
(映画 【告白】を観ながら)