間話 インフィニティの胎動 前編
【間話 インフィニティの胎動 前編】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「この魔導方程式と、こっちの精霊術式の相性を合わせるには……そうか、隙間に緩衝材になる別の術式を組み込めば……」
ルバンスは、凄まじい集中力で、魔導方程式と格闘していた。魔導方程式を構築する為のパーツを紙に書き込んで行く。
「……ルバンスってさ、理論は、からっきしだった筈なのに?? どうしちゃったの? 」
普段のルバンスを見慣れているドリスにとって、この豹変ぶりが気持ち悪かった。
「だよね? 先月の期末テストでは、赤点だった人間が、魔導方程式と精霊術式を組み合わせてなんて、そんな台詞が出てくるなんて?? どうしたの? 」
エルトリアが、ルバンスの額に手をあてて、熱は無い様だとか言ってる。
「うるさいな!! 僕の学術的好奇心を邪魔するなら、部屋から出て行けよ! 気が散るだろ! 」
「いったい何を作ってるの?? 」
ドリスは、ルバンスが構ってくれないので、少々不貞腐れていた。人差し指で、ルバンスの脇をつつく。
「だー! 新しい生命の探究をしてるんだよ!! 」
ルバンスは、ドリスの指を払いのけて、さらに机に向かう。どうしたのか??
「生命魔法!? ゴーレムとか? 」
エルトリアは、なんの冗談だという顔だ。
「あんな物は、生命体とは呼ばないだろ? 僕が目指してるのは、ちゃんと、意識を持った生命体だよ」
「それって、失われた超帝国の古代魔導テクノロジーだよね?? 正気なの? 」
ついに気が触れたかと、ドリスが天を仰ぐ。
「もう、うるさい! いいと言うまで、入ってくるなよ!!」
ついにルバンスがブチギレて、二人を部屋から追い出してしまった。
「あんなの無理に決まってるじゃないの!! 」
ドリスが自分の部屋に戻る道すがら、怒り散らしながらエルトリアに八つ当たりしている。
「でも……あながち、間違って無かった……」
エルトリアは、そんなドリスのいつもの癇癪をかわしながら、もう一度ルバンスが構築していた術式を考えてみた。
「あんたまでそんな事を言うの?? 生命魔法なんて、五千年前に失われた技術よ! 魔導演算理論で赤点とってる奴に出来るわけないでしょ?! 」
「いや……昔の文献で見た事がある。ルバンスが最初に構築したアレは、【スライム】の精製術式とほぼ同じだった。それに何らかの精霊術式を組み込んで……あんな凄い組み合わせ……これは学術的に素晴らしい成果が出るかも知れないよ! 」
「……あんた、マジで言ってる? 相手はあのルバンスよ……どうせ、ろくでも無い事に使うつもりよ」
◆◇◆ 2ヶ月後
「ねえねえ、ドリス、あの噂って知ってる?? 」
エルザは、ドリスの裾を引っ張って、小声で話し始める。ここは帝立魔導学園の大図書館ホール。その一角にあるテーブルに、横並びで座っている。ちょうど次の期末試験まであと一週間だ。
「あの噂って? 」
「ほら、女子更衣室に出没する緑色の悪魔の話し! 」
「何それ? 」
「知らないの? 着替えてたら、いきなり飛びかかって来て、気がついたら下着が無くなってるって言うアレ」
「無くなるって? まるでルバンスね! まさか?! 」
ドリスは、あからさまに嫌な顔をする。
「流石にそれは無い無い。それなら今頃、フェルミナ様に、簀巻きにされて、屋上から吊るされてるわよ」
確かに!っと納得する。
「じゃあ、いったいなんなのよ?? 」
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(映画【ベイビー・ブローカー】を観ながら)