63 さあ、物語の始まりだ!
【さあ、物語の始まりだ! 】をお送りします。
宜しくお願い致します。
クラインが消息を絶ってから十年が過ぎた頃、ナイアス大陸南方域で散発的ながらも、妖魔が群れで行動し、あたかも妖魔の軍を操る者がいる様な様相をていした。
普段はグランパレス大氷河を越えては来ない個体も見られる。そしてライアット公国の国境警備隊がゴブリンの群れに攻撃されたタイミングで、魔導帝国建国宣言がなされ、各国に宣戦布告を開始した。
「白銀以外の巫女に動きはあるか? 」
煌びやかな甲冑に身を包んだ男はナイアス大陸全土の地図を指し示しながら、隣の偉丈夫に聞く。
「ないな…….奴らはマルドゥク争奪戦に備えて力を温存するつもりだろう」
神父の様な出立ちの男の首からは、逆さ十字が下げられている。
「今回の動きも、今までの【災厄の渦】と同じだと、たかを括っているのだろうさ」
「我らが陛下は大した者だ。転生の秘技についても直ぐに理論を理解されている」
「今日は誰の番だ? 」
「冥府の女王様の誕生だよ。あの姿を見るだけで頭が痺れてくるわい」
白装束の男は頭を振りながら苦笑いを浮かべる。
「各々方、そろそろアリストラス皇國が動き出す頃。気を引き締められよ」
銀髪の男がナイアス大陸南方域地図の、アリストラス皇國の皇都ロイドヘブンがある位置に、短剣を突き刺した。
「さあ、祭りの始まりですよ」
◆◇◆
ゴドラタン帝国、帝都城塞都市スタージンガーに第一報がもたらされたのは、さらに一月が経過してからだった。直ぐに緊急会議が開かれ、連日意見の擦り合わせが続いていた。
会場から抜け出したジークフリード・ランドルフはノイエ・ブリューゲン宮殿の広大な中庭にあるベンチに腰を下ろして、これでもかと言う溜め息をついた。あの時、ルバンス様を引き留めておけば良かったと後悔ばかりしている。
「近衛騎士団団長が、こんな所に居られたのですか? 」
騎士の出立ちをしたブロンドの長い髪を靡かせた女性が近づいてくる。
「フェルミナか……どうした? 」
「ナルザラス様がお呼びですわ」
【災厄の渦】が発動するという噂は本当かも知れない。それにルバンス様が関わっている可能性に頭を悩ませていた。ナルザラスが陰を使って探らせていた為、その報告だろう。
「魔導帝国に動きがあったか? 」
「この十年、再三に渡って危険性を訴えてましたのに、内務省にもみ消され、それが今になって……」
「言うな。我らもゴドラタンに巣食う奸賊共を一掃出来た。それで良しとする。それに陛下のお心は我らと共にある」
ルバンス様、いやクラインが魔導帝国皇帝に即位したと同時にナイアス大陸南方域の各国に対して宣戦布告を行った。当初、貴族院はアリストラス皇國の関与を疑ったが、ジークフリードは、そう思わなかった。一番狙われるのはアリストラス皇國なのだ。やはり【白銀の巫女】が狙われている。
「グラウス陛下の読みでは、敵の妖魔兵団の総数は先遣隊だけで二十万を超えるだろうとの事。本当でしょうか? 」
「だろうな。あの方が読み違える事はない。それにアリストラス皇國のエレクトラ殿下が召喚の儀に入られたとの情報だ」
「では。やはり? 」
「あぁ、【災厄の渦】が始まる」
◆◇◆
ロード・グランデ大迷宮最深部にある常世の祭壇。
その祭壇を前にして玉座が置かれている。そして祭壇を中心として九人の人影が玉座の主人に跪き、その言葉を待っている。
「やっとこの刻が来た。蘭丸、手筈は? 」
一番側にいる銀髪の男に語りかける。
「斥候は既に放たれました。第一軍二十万の妖魔兵団は順次出陣いたします。第二軍も整い次第」
「聞いての通りだ。諸君らには、【白銀の巫女】が召喚せし者共と合い対して貰う。皆の命を貰うぞ! 」
「ははぁ! 魔導帝国に栄光あれ! クライン皇帝陛下に栄光あれ! 」
◆◇◆
東京都新宿区某所
「そろそろだ、ヒロトさんが次元転移される」
栗色の髪をした青年はモニターに映し出されるデータを眺めながら呟く。
「バイタルは今のところ正常。マーキングは上手くいっている」
スーツを決めた黒人の男が、キー操作しながら青年に話しかける。
「当たり前だよ。どれだけ準備したと思ってるんだ。ある意味【ファイヤーグランドライン】より力が入ってるんだぜ」
「これが上手く行けば…….」
「ああ、次は俺たちの番だ。その為にぶっ飛んだ面子を用意したんだからな」
青年はモニターに表示された【ヒロト】のデータを見ながら悦にいった。
「さあ、物語の始まりだ」
【さあ、物語の始まりだ! 】をお送りしました。
【アリストラス戦記〜絶望への架け橋】は完結です。
そして【アリストラス戦記〜災厄の渦】へと物語は続きます。
今後は、【アリストラス戦記〜災厄の渦】をブラッシュアップして行きます。
そして、【アリストラス戦記〜欲望の空】へとバトンを受け渡します!
宜しくお願い致します。