62 外道に堕ちたる君へ
【外道に堕ちたる君へ】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「方法がある? 」
一瞬、クラインの顔に驚きの感情が見て取れたが、すぐに消える。
「ええ、ある古代の儀式を行えばね……」
「儀式…… 」
「そう、儀式です。沢山の魂を集めて巨大な神霊力の集合体を作る」
銀髪の男は、顎にその美しい右手の指を当て、思案する様な表情で虚空を見つめる。
「アリストラスの魂は肉体が滅べば世界樹へと帰り、生まれ変わる。その魂を止める方法など有りは……しない。ありは……いや……」
「そう、一つだけ存在します。そのシステムはアリストラス超帝国の正統なる血脈でしか発動しない。そして、その血統の中でも、古代の王族に並びうる濃密な血を持つ者でなければ制御出来ない」
フードを目深に被った銀髪の男の目が怪しく光る。
「馬鹿な、あれは制御など……」
「常世の祭壇」
「常世の祭壇……ロード・グランデ大迷宮最下層にあると言う魔神制御の祭壇……」
「八つの魔神を支配する事で、魂の揺籠が発動します。そのシステムさえ有れば、膨大な神霊力を集められる」
カチッ
何かが、クラインの頭の中で音が鳴った。パーツとパーツが当て嵌まった様な音が。
カチッ、カチッ、
次々とクラインの頭の中で、何かが構築されて行く。今まで組み上がる事の無かった部分に、新たな設計図が出来上がって行く。
「これをご存知ですね? 」
そう言って銀髪の男が懐から取り出した物を見せる。
「それは、宝珠か? 」
「えぇ、魔神を制御する宝珠の一つですよ 」
その宝珠その物にも莫大な神霊力が込められている。神々の時代に神が作ったアーティファクトを、超帝国時代の魔導科学者達が研究し作り出した物。
「素晴らしい……伝承通りだ。だが儀式の先に貴様が求めるものは何だ? あれを起こせば世界が滅ぶまで止まらぬぞ」
「私は、いまのこの腐り切った貴族社会を浄化し、新たに平等な世界を構築したいだけです。争いの無い穏やかな世界を……」
「穏やかな世界……か」
一瞬、ドリスの怒った顔が浮かぶ。母ナディアの悲しみを讃えた笑顔が浮かぶ。自分を支えてくれたジーク達の眼差しが……
目の前の男に意識誘導されている事には気が付ついていない。
「この宝珠が、アリストラス超帝国の正統な後継國である、アリストラス皇國を中心として放射状に散らばっています。その宝珠を全て集め、常世の祭壇より冥府魔道へと繋がり、魔神共を制御すれば……」
「願いは叶うか……」
カチッ……カチッ……
音が鳴る。
パーツがはまると同時に、クラインの心も揺さぶられる。
「膨大な神霊力が手にはいるのです殿下」
それは膨大な魂を集めると言う事……
それは膨大な殺戮を、意味すると言う事……
カチッ…….
「貴様……名は? 」
「我の事は、蘭丸とお呼び下さい。我と、我が転生させし八部衆を手足としてお使い下さい。わが君! 貴方様こそアリストラス超帝国の正統後継者であらせられます。貴方様こそが、ナイアス大陸を浄化し、帝国を再興されるべきお方」
「……俺は世直しや、超帝国の再興など興味は無い」
「良いのです。殿下が歩かれる道こそが、我ら家臣の行く道と心得ております」
「俺は……ただ……」
「会いたいのでしょう? 」
カチッ……
「貴様、何故? 」
「全てはアリストラス皇國の古き仕来り。代々皇國は【白銀の巫女】が継承するもの。スターズ閣下あたりには、邪魔だったのでしょうな? 王弟殿下も、皇太子殿下も……」
カチッ!
全てが嵌った。
そして、クラインの心が……堕ちた……
「会えるのか? もう一度……ならば」
クラインは手を伸ばした。
「会えますとも。皇帝陛下」
蘭丸がクラインの手を取る。
その瞬間、二人は転移し、その場から忽然と消えた。
【外道に堕ちたる君へ】をお送りしました。
(海外ドラマ【ザ・スウォーム】を観ながら)




