6 魔闘技部 (改訂-3)
【魔闘技部】をお送りします。
宜しくお願いします!
昼食は大食堂でとる事になっている。貴族も騎士公も平民出も平等だ。これはゴドラタン帝国の国是である。人権は平等だ。ただし個人の能力に対しては優劣をつける。貴族の位はその結果と言える。半永久的な位ではなく、当主の能力次第で没落する事も多々あった。どんな学校でも家の位などは持ち込まないのがこの国だった。だがたまに持ち込む輩もいる。
「おい! そこをどけ!! ここはスルト様の指定席だ!」
そう言って先に座っていた女の子達を排除しようとする輩が数名いた。どうやら何処ぞの貴族の様だ。取り巻きがスルトと呼ばれた男を先に案内する。
「……この学校内では、平等ではないのか? 」
ルバンスはオリーブ油の効いたパスタを頬張りながら、ドリスに尋ねる。
「たまにあんな連中もいるのよ。表裏を使い分ける奴らがね。嫌いだわ」
ドリスも鶏肉のソテーを頬張りながら答える。すると、隣に座っていた金髪の男子生徒が話しに入ってくる。
「……あれはスルト男爵だな。グリア地方の代官の息子だ……あっと、俺はエルトリアだ! 宜しくな。同じAクラスだよ」
何だかよくわからんが、清々しい奴だ。
「ルバンスだ。宜しく! 」
「ドリスよ! 」
「帝国も建国して千年近くなるからな。初代ボナパルト陛下のご意志を捻じ曲げて解釈する輩が出てくる。ああ言う連中には国政は任せられんな」
スルトの取り巻きの男子生徒が、席を強制的に奪われた女子生徒の足をひっかけて転ばせた!
「ちぃ! 」
ルバンスが舌打ちして、立ち上がり、その男子生徒の方にゆっくり歩いて行く。
「ルバンス様!? 」
ドリスが止めようとするが、それをエルトリアが制止した。
「……何だ貴様! 文句でもあるのか? 」
男子生徒が凄んでくるが、ルバンスは無視してスルトと向き合う。
「この学園はいつから小学校になったんだ? 」
スルトは、品の無い笑いを浮かべながら、ルバンスの頭を叩く。
「……その子に謝れ! 」
「何だと? いま何と言った? 」
「謝れといったんだ……謝らなければ強制的に謝らせてやるぞ……」
ルバンスの瞳は怒りに満ちていた。紅い魔力が宿っている。
「だだ誰に物を言っているか、わかっているのか? 」
スルトがルバンスの鳩尾に拳を放った! が、届かない。
ルバンスとスルトの拳との間に不可視の壁がある様に、拳を止めてしまっている。
「きき貴様! 何をした!!」
奇声を上げてスルトがルバンスに殴りかかった! その右手には炎が上がっている。自らの拳に炎を付与しているのだ。
だがその瞬間、スルトの制服がズタズタに、そしてバラバラに引き裂かれてスルトは下着一枚になってしまった!
「ぎゃゃやあああ!!! ふ、ふ服ががぁぁあ!! 」
スルトは何が起こったのかも分からず、恥ずかしさで叫びながら大食堂から出て行った。周りの生徒達も何が起こったのかすぐに理解出来ないでいる。
「すすスルト様!! 」
取り巻き連中も逃げる様に出ていく。
見ていた皆が呆気にとられている中で、ルバンスだけが冷静だった。
「君! 大丈夫ですか? 怪我は? 」
足を引っ掛けられて転ばされた女の子を助け起こす。
「…….ありがとうございます……大丈夫です。わわたしエルザと言います」
女の子は栗毛の愛らしい子で、瞳はエメラルド色をしている眼鏡っ子だった。
「大丈夫? 私はドリスよ! 膝が擦りむいてるじゃない! 」
ドリスは意外と面倒見がよい様で、エルザを医務室に連れて行ってくれた。
「君は大した者だな。今のは何だい? 」
エルトリアは興味津々だ。
「あぁ、あれは風獣だよ 」
「風獣? 召喚魔法か? 」
「そんな何処だよ」
「……ところで、その右手人差し指のそれは? なんだい? 」
ルバンスの人差し指にレースの布切れがクルクルと回っている。
「黒のレースとは!……人は見かけに寄らないな」
ルバンスはご満悦だった。
◆◇◆
その日の午後、ルバンスの机の上に手紙が置かれた。
差出人は【魔闘技部】とある。中を一瞥して、フンっと鼻で笑い、手紙を丸めて屑籠に投げ込んだ。直ぐに席から立ち上がり、教室を出て屋上に向かう。
「……ドリス……ついて来るなよ! エルトリアも! 」
「さっきの手紙、ろくな事じゃないでしょう? 誰からの差しがね? 」
「魔闘技部とかなんとか」
「魔闘技部から呼び出し!? 不味いな」
エルトリアは魔闘技部に心当たりがある様だった。
屋上に上がると、さっきのスルトと、数名の格闘技服を纏った生徒が居た。その中の背の高い男が話しかける。
「ルバンスだな?! スルトを痛めつけてくれた様だな」
「先に女の子に嫌がらせをしたのはそいつだよ。おれはそれを諌めただけだ」
「こいつが女子生徒にちょっかいを出した事に対しては、我らが責任をもって処分する」
男の腕の筋肉がもり上がった。
【魔闘技部】をお送りしました。
(映画 【薔薇の名前】を観ながら)
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