58 バベルタワー
【バベルタワー】をお送りします。
宜しくお願い致します。
東京都港区 東京湾某所
東京お台場から東京湾を南に三キロ地点。
西暦2140年、東京湾のど真ん中に完成した、高さ一千八百メートルのグランドスカイタワー、通称【バベルタワー】の最上階。
200坪の広大な執務室に、ポツンと一つ机があり、そこに一人の人影がある。沢山のモニターに所狭しと、様々なデータが映し出され、それを囲む様に巨大な機械が並ぶ。どう見ても兵器の類いだ。書類の山に埋もれた男は、一通のメールに目を通して、つまらなそうに顔を顰めたが、みるみる顔色が変わって、もう一度食い入る様にメールを見直す。
「……これは、あの【風見鶏】からか? 相転移のエネルギーを利用して物質を逆流させる? 正気か?! 以前米軍から報告のあったアレか? 」
神経質そうな男は、【風見鶏】からのメールを読みながら、別のキー操作を行なっている。以前、EUの情報部から自衛軍の戦術機動兵器の操作データを狙われた時に助けられた事があり、それから何度かやり取りをしていた。日本人に何処か北欧の血が混じった顔は、連日の徹夜続きで疲れたいたが、新しい興味を引く案件が舞い込んで、何処か嬉しいそうだ。
「……内調の特務も動く? 本気の様だな。あの女狐が動くとなると戦闘を想定している……僕の機動兵器の実験データを取るにはもってこいか……クローディア、どう思う? 」
男は四角い銀縁眼鏡を、右手の中指で上に少し上げて笑みを浮かべた。いつのまにか、男の直ぐ側に女性が立っている。いつから側に居たのか?
「スレイン様、異世界と呼ばれる相転移空間のデータが不足している為に、我がブレイン・ネットワークでの演算は不可能です。今後のデータ収集が必要不可欠かと……」
クローディアと呼ばれた女性は、その美しいが無機質な表情で受け答えする。このクローディアは、この男が設計製造した世界初のプロトタイプ・アンドロイドである。この制作者スレイン・東堂・マッカートニーは、クローディアの言葉を聞きながらも、すでに自身の脳で答えは出していた。
「この向こう側から転移してくるエネルギー量は、軍隊に匹敵する? もしくはそれ以上か……そっちの方が気になるが……いまから五年後に……」
男は、異世界から転移されてくる何者かのエネルギーが気になり、その事象についてのデータ収集を始めた。
「ではスレイン様、私の【ブレイン】をネットに接続し、データを収集いたします」
「あぁ、宜しく頼むよ」
スレインの心は既にネット空間に漂い始めていた。
◆◇◆
カーリーは、ルバンスが召喚した地獄の粘菌生物を亜空間の穴を開けて、その穴に吸い込み一掃した。平然と佇むカーリーに対して、今度はルバンスが、球状結界内で爆炎攻撃を開始する。連続した爆裂が開始された。
「……多分平気だよな……ならば」
さらに両手で印を結び、球状結界の上から、立体魔法陣を重ねて構築し始める。開いた両手を、一気に閉じて握り込む。すると、立体魔法陣がそれに合わせて収束し、球状結界ごと圧縮した。
「爆ぜよ!! 」
ルバンスの掛け声と主に魔法陣が炸裂し周囲に爆風が走る。
その爆炎の中から、蠢く影が立ち上がる。
「……立体魔法炸裂陣でも、その程度のダメージか……うざいな〜」
呟いた瞬間、ルバンスの姿が消え、カーリーの左後方から【村雨】を上段から切り下ろす。白刃から金色の光が溢れて出ていた。カーリーは、左手の短剣で防ぐ動作をしたが、その短剣ごとカーリーの左肩から肺までを切り裂いた!
「何だと?!! 」
カーリーは、信じられなかった。神の身を、強いと言っても人間ごときに切り裂かれるとは?! だが直ぐに反応し、一瞬で、百メルデ上空まで飛び上がった。だがその更に上をルバンスが位置取りし、回し蹴りをカーリーに喰らわせる! 地上に高速で激突したカーリーは、直ぐに体勢を整えて、左手からルバンスに魔弾を発射し大爆発を起こした。
「やったか!? 」
カーリーが見上げた瞬間、その顎をルバンスが蹴り上げる!
【バベルタワー】をお送りしました。
(映画【バベル】を観ながら)
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