57 魔導循環障壁
【魔導循環障壁】をお送りします。
宜しくお願い致します。
広範囲の拘束結界を構築するため、九人が其々配置場所へと走る。その場所に到着したら、すぐさま自らの防御の為の結界も張らなければならない。ルバンスとカーリーが戦闘を開始した地点から
は、約二百メルデは離している。つまり直径四百メルデの円の中にカーリーを閉じ込め、そして少しづつ円を狭めて行く。
『ナルザラス様、各々配置につきました』
ライラックからナルザラスに念話を送る。
『わかった、始めるぞ! 』
そう言ってナルザラスは、足元に手にした杖の先を突き立て、詠唱の準備にはいる。
ナルザラスにも誰があの様な存在を呼び出したかが、気掛かりだった。そもそも、これ程の者を召喚するには、膨大な魔力と時間が必要だ。これはナディア親子がこの地に来た時から、既に仕組まれていた事だと考えざるおえない。現在のナイアス大陸にこれ程の召喚が可能なのは、アリストラス超帝国の祭事を司る四人の【巫女】と、自分も含めた四人の【神巫】、そして前回の災厄の渦で活躍した十剣神に連なる者ぐらいだ……【巫女】や【神巫】は災厄の渦を回避する為の立場にある。だから災厄の渦の引き金になりかねない様な、今回の件に関わっているとは思えない。かと言って、十剣神は考えられない。ならば、別の召喚者が絡んでいるのか? もしくは転生者か?
ルバンスは、さらに【村雨】に神霊力を送り込み、【村雨】は変換した魔力をルバンスに送り込む。循環された力の奔流が体内を駆け巡る。ルバンスの瞳が紫色を帯びてくる。莫大な魔力が一気に放出された!
キュィィィィィイインンンン!!!!
一瞬で間合いを詰めたルバンスの放つ白刃がカーリーの首を捉えた! だが断ち切れない! 金属が弾き合う様な音が響き渡る。
「硬すぎるだろ!! 」
素手の左手に魔力を込め、一気に放出した。だかそれもカーリーは右手の剣でルバンスの魔弾を真っ二つにした。二つに断ち切れた魔弾が着弾し、周囲が爆散する!
「凄い! あれがルバンス? 私にも匹敵する魔力だなんて、さすがアリストラス超帝国の正統継承候補だけあるわね。でも、それでもカーリーが上回ってる」
クリスはルバンスに物理攻撃無効シールドを展開している。だがカーリーの攻撃には物理的なパワーと、魔力パワーの両方が練り込まれ、シールドをあっさりと突破してくる。
「ドリス! さっさと封印しちゃいなさいよ! 」
「煩いわね! そんな簡単じゃないのよ」
ドリスは、術式をルバンスとカーリーの二人を囲む様に構築し、カーリーの魔力が低下する瞬間を魔導演算で割だそうとしていた。その封印だけに特化した超高速演算で最適な魔法発動を狙う。
「ナルザラス様! 魔導循環障壁、発動します! 」
ジークが九人の繋がった魔力を、循環させる。各々の属性の違う魔力を、ナルザラスが調整し、魔力流と化す! 巨大な魔力リングを構築し、その輪を徐々に狭めて行く。
「奴の魔力周波数をリングの周波数と繋いで、奴を拘束する」
流石はナイト・オブ・ラウンズだ。これ程の循環障壁を構築出来るとは……あとは奴を封印出来るかにかかっている。
正直、ナルザラスは人の身で、神を封印出来るかは疑問だった。だが今打てる手立てはそれしか無い。
『クリス様! クリス様! 』
『ナルザラスか? 』
『ラウンズと共に魔導循環障壁を発動させました。このリングで奴を拘束します。最終的にクリス様もリングに魔力供給をお願いいたします! 』
ナルザラスはクリスに対しては敬語を使う。実際、帝国でのクリスは伯爵家とはいえ、女神の転生体である為、序列は五位と皇族とかわらない。
『あいわかった! 此奴の魔力はまだこれでも不完全とみた。本来のパワーを、取り戻す前に片をつけるぞ! 』
◆◇◆
カーリーを半透明の黒い球体フィールドが覆い被さる。手を触れると、凄まじい稲妻が発生し、カーリーの指を弾く。フィールド内に、蠢くものが、湧き出てきた。
「地獄から粘菌を召喚したのか? 珍しい術じゃな……だが我に暗黒魔法は通用せぬぞ」
カーリーが右手を水平に払う仕草をすると、粘菌生物は結界内に出現した虚空への穴に吸い込まれて消滅した。
【魔導循環障壁】をお送りしました。
(映画【メッセージ】を観ながら)
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