52 風見鶏頑張る
【風見鶏頑張る】をお送りします。
宜しくお願い致します。
東京都 霞ヶ関某所
沢山のモニターに囲まれた室内には、黒尽くめの男女二人が、モニター画面に映るアバター映像と話しをしていた。アバターはアメリカンコミックから抜け出した様な鶏をデフォルメしたふざけたキャラクターで、いちいち感に触る言い方をして来る。駄目元で追跡したが、海外のサーバーを数十カ所経由している為に、いつもの事だが発信元は辿れなかった。画面越しに話しをしている相手は、非合法的に内閣調査室特務班の外注仕事を請け負っているハッカーだった。コードネームは【風見鶏】。
「……そんな与太話しを信じろと? 」
女は疲れた様子で、画面越しの誰だかわからない者と会話する。
『信じる、信じないは、あんた達の勝手だよ。兎に角、ファイヤーグランドラインの、この年、この時、この場所に、異空間からのエネルギー波で、時空間転移が発生する。向こうと、こっちの空間がさぁ〜、入れ替わるんだよ。わかる? 』
鶏キャラが妙にトサカを強調してくる。実に可愛げがない。
「全く解らんが、……仮に、それが本当で、何処に転移するんだ?? 」
もう一人のスーツ姿の男が、鶏に話す。
『そんなの、知るわけないだろ?! 知ってたら面白くないだろ? 』
今度は鶏がケツを激しく振って威嚇してくる。
「ふざけやがって! 隊長、やはりこんな話し信じるほうが無理ですよ」
「……だが、米軍がここ数年、時空の歪みを各地で、多数確認している。何らかの干渉があるとは言われていた……」
「奴らは、CIAと結託してUFOの時みたいに、恐怖を煽って予算を踏んだくるつもりなだけですよ! 」
『俺だって、正直あんた達を連れて行きたくなんか無いよ。向こうから来るエネルギーと、こちらから行くエネルギーの量を合わせないと駄目なんだよ。等価交換って奴だな。まあ、俺達だけでも何とか行くけどね』
今度は、鶏がワンワン泣き出した。涙で画面が溺れていく。
「わかった、わかった。ただ即答は出来ない。わかるだろ? 組織は色々と面倒なんだ。それに五年後の話しだろ? 」
女は右手の指でボールペンを、クルクル回しながらモニターの鶏を見つめる。
『了解! 了解! 問題ないぜ! それで十分だ。行くと決まったら特務班の最強メンバーで頼むぜ! 外事六課なんか、駄目だからな』
鶏の機嫌がなおった。モニターの中で、卵を産み出す。
「だが……本当に大丈夫なのか? 私もよく、頭のネジが飛んでるとか、好き放題言われてるが、異世界に何の保証もなく行くほど、ぶっ飛んではいないぞ? 」
女はボクシングのファイティングポーズをとって、モニターに向かって右手ストレートを打って見せる。
『今から四年後に、ファイヤーグランドラインのあるプレイヤーが、異世界に飛ばされる。彼を俺の組んだシステムでチェイスする。それが安全確認手段だ』
鶏もファイティングポーズをとって、モニター越しにパンチを繰り出して決めポーズをとった。
「貴様、一般人を捨て駒にする気か? 」
隊長と呼ばれる女は、ファイティングポーズを崩してみせた。この風見鶏と呼ばれるハッカーとは、すでに六年近く付き合いが有るが、時折冷酷な一面を覗かせると感じる。命に対する価値観の順位が低いのだ。
『一般人と呼べるかどうか……どちらかと言えば、そっち側かな』
今度は毛繕いを始めた。
『警察? まさか軍属か?』
隣の男が、直ぐに風見鶏から送られた資料の照合に取り掛かる。
「まだ高校生じゃないか、いや父親は自衛軍参謀部中佐? 成る程、それでこっち側か……」
『ヒロトさんは、転移する頃……いや、召喚と言い換えてもいいかな、その頃には防衛大学にいる。それに今でもファイヤーグランドラインでは有数の戦闘マニアさ』
また鶏がファイティングポーズを始めた。
「なんで、そこまで言い切れる? 」
鶏はそれには答えずに、満面の笑みを浮かべていた。
【風見鶏頑張る】をお送りしました。
(映画【野獣死すべし】を観ながら)




