51 覚醒進化
【覚醒進化】をお送りします。
宜しくお願い致します。
クリス・ランドルフは、物心がつく頃には、見えない物が見えていた。
何故か着ている服が、妙に着心地が悪く、下着だけで過ごす自分がいる。それは様々な精霊や地霊、時には妖までもが、彼女に寄り添う様に、身体に纏わりつく。それがとても愛おしくなり、服を邪魔に感じるからだ。
ランドルフ伯爵家は、ゴドラタン帝国が勃興する以前から在る土着の古い家系で、それはアリストラス三大女神であるケルン、バイナルス、アステアのうち、バイナルス神を祭り、代々女神の着用された【幻惑の羽衣】を封印し御守りする為の神官職を、陰のお勤めとして来た。代々女神の直系である女性が神官として襲名するが、クリスは特別だった。そう、女神の転生体であったのだ。
「私の神霊力を直接皆んなに、渡すわ! 」
そう言うとクリスの両手がほんのり輝きはじめ、そこから温かい波動が皆に伝わっていく。そのサイコウェーブにより、皆の枯渇しかかった神霊力が一気に底上げされた。
「うぉお! ななんだこりゃあ! 底を尽きかけたエネルギーが一気に増えた! 」
エルトリアの体から神霊力が溢れだす。それはフェルミナも同じだった。
「ルバンスには、ねっとりして、温かい私のを、一杯降りかけてあげるわね! 」
クリスは恍惚とした表情で、ルバンスにウインクする。
「ルバンスあんたね〜! 変態的な態度は大概にしなさいよ! あんたのスケベな顔が、こんな痴女を。呼び寄せるのよ! 」
ドリスが怒り出す。
「俺じゃねーし! こいつが変態なの! 」
「変態とは何よ! 変態とは! かりにも女神なのよ?! まぁ、自覚はないけど……ちょっとエッチなだけよ〜」
「何で照れてんだよ! 」
ルバンスは泣きたくなってきた。
「ガキ共、痴話喧嘩は後にしな! やばいよ、湧き出す奴らがどんどん強力になってくる! ジーク達が持たないよ! 」
自分が動けない状態のフェルミナは、ジークの助けに入りたいが、それが出来ない為、焦りを覚えた。それはナルザラスも同様だった。
「皆んな、一瞬だけ俺が動くよ。ジーク、ライラック! 三分持たせて! 」
すぐにルバンスは詠唱に入る。
「わかりました、ルバンス様! 」
「早く何とかしやがれ! 」
ルバンスは目を瞑り、左右の掌を合掌する。打ち鳴らさせた掌の音が世界に反響した。その音が出現したゴースト達を一瞬で消滅させる。
さらに打ち鳴らす。
そのたびに世界に満ち様とする邪気を打ち消してゆく。
◆◇◆
「流石は、アリストラス超帝国の正統なる後継者! 」
蘭丸は遥か上空から、地上を眺めながら呟いた。それは蟻の行列を指で潰す様な、冷たい視線だった。
「これならばどうです? ただの亡者ではありませんよ」
そう呟き、右手の人差し指と中指を立てて、水平に切る様な仕草をすると、空間に光の線が引かれる。すると地上のドラゴンゾンビに変化が現れた。
ソリウリスを攻撃する動きが急に止まる。
「?! どうした? 止まった?! 」
逆にソリウリスは、言い知れない悍ましさに襲われた。鳥肌が立つ。
「……なんだ?! 」
それはミランや、ヨシアも同じだった。
ドラゴンゾンビに地面から湧き上がる黒い靄が、足元から這い上がり、その巨大な身体を包み込んでゆく。
次の瞬間、黒い閃光が発せられ、辺りを包んだ!
その中から、ドラゴンゾンビとはまた異質の存在が姿を表す!
「ば、馬鹿な!! 覚醒進化だと!!? た退避しろ! 」
ソリウリスが、皆に叫ぶ!
そこに、ジークとライラックが合流してきた。
「カオスドラゴン?! いや、更に上位のカオスドラゴンロードだと?!! 」
そのジークに向かって、カオスドラゴンロードがダークブレスを放った!
「ぐぅぅううおおお!!! 」
ライラックの破邪結界で辛うじて防ぐ。すぐさま、ミランが反応して、ポシェットから更に傀儡人形を投げつける。
「奴を抑えて! 」
ポシェットから飛び出した傀儡人形は、頭が二つあるツインヘッド・ドラゴンだった。その巨体はカオスドラゴンロードにも匹敵する。ドラゴン同士の顎が噛みつき合った。
【覚醒進化】をお送りしました。
(映画【郵便配達は二度ベルをならす】を観ながら)