5 ルバンスの溜息 (改訂-3)
【ルバンスの溜息】をお送りします。
宜しくお願いします。
「今のは何?? 」
皆が呆然とするなか、ドリスは我にかえった。
「……火球だが? 変か? 」
ルバンスは眠そうにあくびをしている。
「今のは、爆炎壁と呼ばれる上級攻撃魔法だ。大地精霊と火炎精霊との合体魔法だよ……本当に知らずにやったのか? 」
ドロアはそれよりも聞かなければならない事があった。
「今のは詠唱無しで術を発動させたな? どこで習った? 」
「幼い頃に母から……言葉よりもイメージで発動させる事を教えられて……変ですか? 」
(そうか……ナディア様から……)
「ゴホっん! この学園では今のは火球とは言わない……ルバンス君はどうやら色々とちぐはぐな様だな。他にはどんな魔法を習ったんだね? 」
「指パッチンの魔法は、習った訳ではないのですが、ある程度の精霊術は扱えます。あとは自作の簡単な転移魔法を……」
「簡単な転移魔法?? 」
「……こんな感じです」
いつの間にか、ルバンスの右手の人差し指にクルクルと回る布切れがある。
「そそそれ! 私のパンツじゃないのよ!! 」
ドリスが血相かいて奪い取る。
白のパンダ柄だ。
「物質転移? いや転送か」
「そんなに難しい術じゃないですよ」
(……驚いた……物質転送などは超高等魔法だ。それを自作しただと?? それも無詠唱で? アリストラス皇國の宮廷魔導士のスターズ様が、驚嘆したのも頷ける……この力、彼の国では疎んじられような……)
ドロアは信じられないと言う顔だ。
「なに涼しい顔して受け答えしてんのよ! 」
ドリスは事の重大さがわかっていない。
その後も、雷球と本人が呼称する魔法を試してみたが、これは風雷精霊と火炎精霊の合体魔法、雷爆衝であった。どれもこれも上級攻撃魔法だ。
(……だが確かに魔力量は並以下だ……それを補う為の合体魔法か?? だが何か変だ?? )
だが詮索する時間は無い。次の生徒が待っている。
◆◇◆
ルバンスは教室の窓際後方の席だった。あまり授業に身が入らない。ドリスは右隣の席で真面目にペンを走らせている。
魔導学園の座学は、魔導演算理論、魔導構築論、魔導史、国語、ルーン語、数学、帝国史など多岐にわたる。
どうもルバンスは魔導演算や構築の理論は苦手な様だ。
(……あれだけの高等魔法を行使できるのに、理論はさっぱりか……確かにカインでは魔導の指導は無理だわな……あれからは大人しく苦手な授業に耐えている。彼をどうしたものか……)
正直、ドロアはルバンスにどう接して行くかを決めかねていた。
「……カインめ! 貴様を恨むぞ」
《あれが、例の? 》
教室の外からルバンスを眺める視線がある。この学園の生徒の様だ。
《ああ、ルバンスとか言ったな……なんでもいきなり合体魔法を無詠唱で行使したとか》
《ふん! 胡散臭い奴だ! そんな奴は早めに潰すに限るな。》
《……だが生徒会に敵対している訳ではない》
《そんなだから甘いと言われんだよ。反生徒会に取り込まれる前に粛正する! 風紀委員会が動かないなら、武術部部長連が先に動くだけだ》
(……まる聞こえだな……生徒会? 風紀委員会? 何の事だ? あ〜煩いな……今日は調節がうまくいかん)
千里耳の音量を下げる。
(聞きたくもない声が入って来たかと思ったら、それが俺を狙う話しとか……無いわ〜)
ルバンスは、遠くの音や声を聞く為の魔法の音量調節に苦慮していた。指向性の調節も行う。
《いや〜ん!エッチね〜》
《ちょっとぐらい、いいだろ〜こんな所、だれも来ない……》
《あ!! 帝国史のテキスト忘れた! おい貸してくれよ》
《来期の風紀委員会の予算編成は……》
(……駄目だな今日は……調節が上手くできないや。出来るだけ音量を下げるしか無いな)
ルバンスは窓の外を眺めながら、溜息をついた。
(……ルバンスはさっきから、何をブツブツ言ってるのかしら? それはそうとさっきのドロア先生の態度。ルバンスの事を知ってる風ね……はやり公爵家なら当然か。それにあの凄じい魔法。本人に自覚が無いのも凄いわね。何としてもラゲージ家との繋がりを……)
「……繋がるだなんて……はしたないわ」
ドリスは一人で想像して顔を赤くしている。
「ルバンスはどんな食事が好きなのかしら……」
どちらかと言うと、まだ色気より食い気が勝る。
【ルバンスの溜息】をお送りしました。
徐々にルバンスの実力が明らかになって行きます。
(映画 【溺れるナイフ】を観ながら)