49 ナルザラス
【ナルザラス】をお送りします。
宜しくお願い致します。
ナルザラスは魔導研究では、アリストラス皇國のスターズと並び、ナイアス大陸に知らぬ者は居ない。どう言う訳か、アリストラス超帝国の血族である四人の【巫女】の側には、必ず歴史に名を残す魔導士が存在する。
超帝国の皇帝が決まらない場合、動乱が始まり【巫女】の中から管理者としての女王である【命】が選定される。その巫女の筆頭が【白銀の巫女】と呼ばれる、クラインの妹であるエレクトラである。ナルザラスはその中の【黒龍の巫女】の【神巫】である。
「ナルザラス様は、超帝国の遺産研究でナイアス大陸に並ぶ者は居ません。今回も遺産発掘の陣頭指揮の合間に来て頂けたとか」
ジークがナルザラスに水の入ったコップを差し出す。それを受け取りゆっくりと飲み干してから、皆を見渡し、
「生い先短い儂など、陛下の温情で発掘に参加させて頂いているにすぎんよ」
ナルザラスは三百歳を超えていると言われている。生い先短いなどと、とんでも無い話しで、寿命を伸ばす秘薬を飲んだとの噂だ。
「古代の遺跡との噂ですが? 」
「そうだな、余りにも巨大過ぎたる遺跡だ……それよりも母上殿の容態だが、儂の使い魔からの報告では、顔にアリストラス世界に無い術式紋による呪詛が刻まれているとか。この目で見ておらんから、わからんが別系統の神の可能性が高い。解除出来るかどうか……」
最悪の場合、押さえ込む他ないか……幸運にも女神の転生体もおられる。そう考えを巡らしながら、ナルザラスはクリスを見る。
ルバンスは、そんなナルザラスを見て、上手く話しをかわされたと感じた。古代遺跡発掘の噂は聴こえてくる。だが強力な結界に阻まれて、使い魔も近づく事は出来ない。
◆◇◆
二日後の朝早くに、ルバンス一行は自宅に到着した。ルバンスは扉にノックもせずに押し開き、カインを探した。
「父さん! 」
「ルバンスか? ルバンス! 」
カインがルバンスの肩を抱き締めるように受け止めてた。その顔は余り寝ていないのか、疲労困憊だった。
「兄さん、おかえりなさい。直ぐに母さんを見てあげて」
カインの、実の息子のトーリはナディアの寝室へ急ぐルバンスに声をかけながら、皆に飲み物を用意し始めた。
ルバンスは、扉の前で深呼吸してから、ゆっくりと扉を開く。
中には、ケルン教団の司祭が三人深刻な顔で、ナディアの治療にあたっていた。
「母様! 」
青白く輝く術式紋様が額から首にかけて広がっていた。呼吸が荒いのが見てとれた。
何だこれは? こんな紋様見た事ない。超帝国の文献にも無いぞ?
「ルバンス様?! 」
ナルザラスもその紋様を見て、驚愕する。成る程自分の魔導知識に無い紋様だ。確かにアリストラスの神の紋様ではない。
「……この紋様の知識は残念ながら有りません。ですが、この術式を取り纏めるこの部分はアリストラスの北部に古くから伝わる術式です……それを読み取りますと……シ……バ……【シバ神】とあります」
ナルザラスは丁寧に紋様をあらためてゆく。
「【シバ神】? それが異界の神の名か? 」
「元々、特殊な呪詛が、かかっている上に、そこに上書きする様に、この紋様を載せている。かなり高度な魔導知識が必要です。そもそもこんな神の紋様を知っている時点で、転生者か召喚者の仕業でしょう」
ナルザラスはナディアの体に状態異常をスキャンする魔法をかけ、脈拍、心拍数、体温などバイタルを確認する。
「転生者? 召喚者? 」
真っ先に浮かんだのは平将門の事だったが、奴はあくまでも武人。呪術の類いは不得手だろう。なら誰にやられた? それに何の為に? 最初は王弟がかけた呪詛だと思っていたが、違うのか?
「この紋様は外部から魔力を供給されている。結界を結んで、その外部からのエネルギー供給を断ちましょう。一時凌ぎかもしれませんが……ナディア様を一番広い場所へ……そうですね。リビングが良いでしょう」
最後にもう一度、ナルザラスはナディアの脈をとりながら、ナディアの顔の紋様に触れて思案した。
【ナルザラス】をお送りしました。
(映画【蘇る金狼】を観ながら)