39 留年するかも
【留年するかも】をお送りします。
宜しくお願いします。
もう雪がちらほら舞い散る季節になった。
ルバンスの体調も良くなり、いまは普通に学生生活を送っている。
魔導学園ももう少しで冬休みにはいる。宿舎に残る者、実家に帰る者、ルバンスは今年は宿舎で過ごすと決めていた。それを聞いたドリスも残る事になり、今朝から実家と揉めていた。
「補修を受ける者は、後程この用紙に名前を記入して職員室に持ってくる様に。なお冬の課題はいまから配るからな」
教壇から魔導理論の教諭が順番に冊子を回してゆく。夏の課題もそうだったがルバンスはげんなりした。
たった三週間の休みで課題をこなせるか疑問だった。ジークフリードも宿舎に残ると言っていたから、なんとか手伝ってもらおうと不遜な考えを頭に巡らせていた。
「こんなにページがあるのか? サディストか? サドなのか? 」
パラパラとページをめくって、机に突っ伏した。
ドリスと二人きりになって、イチャイチャする計画が台無しだ。最近は朝起きて教室に向かう前には必ずキスをする仲にまでなった。最近はパンツを抜き取ったりはしない。我慢していい男を演出している。だが休みに入れば宿舎の人数もへり、生徒に対する監視も緩むだろう。何とかドリスの部屋に忍んで、あんな事やこんな事ができないだろうか? などと考えて愚息を起立させている場合ではない。課題が未提出だと留年確定だ。なのでエルトリアも巻き込んで課題を済ますしかない。夏休みは結局ドタバタに巻き込まれて全ての課題提出が期限に間に合わなかった。
「……あしたエルトリアの部屋に行っていい? 」
猫撫で声である。俺の前世は猫に違いない。
「やだよ。自分でしっかりやらないと意味ないだろ? きみは頼りすぎだよルバンス」
うっ……いきなりカウンターである。最近のエルトリアはとても厳しい。それは留年がかかっているからこその、友達への愛だとわかる……わかるが……
「嫌だな〜。一緒に勉強をしたいだけだよ。丸写しさせてとか、代筆してとか言ってないだろ? 」
「ルバンスは目で物を言ってますわよ」
ミランが横から銃撃してくる。スナイパーか?
「ぅんな事ないですよ。嫌だな〜…………チィ! 」
「いま舌打ちした? 」
ミランさんは耳も良いようで。
「ライラックが、勉強会を開くんだって。ルバンスも参加してみれば? 因みに私も呼ばれてる」
フェルミナは学年が上だが、ジークフリードが王宮との行き来で忙しいため、暇になったら直ぐにここに来る。
「あの堅物の勉強会か……なんか気が進まないな」
「教え方が上手いから下級生には人気なのよ。特に女子に。まあ〜見てくれも悪くないしね」
ジークには負けるけどねと必ず付け加える。
だが唯一俺に甘いジークも本当に忙しいから時間が取れるか疑問だった。結局、藁をも掴む気持ちでルバンスはライラックの勉強会に行く事となった。
◆◇◆
「……なんだい? その、ミミズがのたくった様な文字は? 」
なんかライラックさんはご機嫌斜めだな……
「いやだな〜。火炎魔法陣の縮尺ですよ。この美しさ」
ルバンスは堂々と書き連ねた魔法陣をライラックに見せる。
「いや、だから、これ……これで火炎召喚出来る? 」
「出来ますよ! 見ててくださいね! 」
ルバンスは魔法陣の端に手を添えて魔力を流し込む。するとどう言う理屈か、木製テーブルの魔法陣が置かれた部分が溶解し始めた!
「うぉお!! 」
ルバンスは焦って水魔法で溶解を必死に止めようとする。でも結局はテーブルに穴があいてしまった。どうすれば木材が溶解するのか?
「やばいな君は……あれだけの壮絶な魔力を持っていて、実戦ではあの実力なのに、理論的な事はまるで駄目駄目だな」
「……助けて、このままだと落第する。親父に怒られる」
個人的にはほっといても問題ないが、またジークが騒ぐだろから、ライラックはなんとか付き合う事にした。
【留年するかも】をお送りしました。
(映画【糸】を観ながら)




