38 最後の仕上げ
【最後の仕上げ】をお送りします。
宜しくお願いします。
もう一人の自分が頭の中で囁くんだ……
『解放して自由になれ……あるがままに……魂を解き放て』
解放すれば楽になれるのか?
解き放てば自由に飛べるのか?
飛べるのか??
何かがルバンス……いやクラインの中で弾けた……
目の前に膝をついた将門が見える。でも自分の目で見ている感覚じゃあない……そう思った瞬間、覚醒した……
見開いた眼は紫色の魔力を帯びていた。爆発的に周囲に広がったクラインの魔力が更に増大する。クラインの掌から赤黒いオーラが湧き出ていた。周囲の空気がイオン化している。
「……貴様……人間なのか?? 」
将門はゆっくりと立ち上がり、妖刀を構え直して、再度問いかける。それを無視してクラインが一気に間合いを詰めて【村雨】を袈裟斬りに振り下ろした。更なる衝撃波が周囲を襲う!
「ここを離れるぞ! 」
ジークは皆に伝えて、自らは残ると言い出した。
「巻き込まれるぞ! お前も下がれ! 」
フェルミナはジークの裾を掴んで引っ張ろうとするが、ジークは動かない。
(……闇の世界の住人にダメージを与えるには、光の加護か……だが光属性は苦手だから、闇属性を強化してやるか……目には目をだな)
クラインは闇属性を【村雨】に付与する。ただの付与では無く、古代の暗黒神の加護を上乗せした。
「一気に行かせて貰う! 」
神速の突き技を繰り出し、高速の波状攻撃につなげる。
一振り一振りが衝撃波を生み、さらに暗黒の魔力波動が将門を襲う。
「この波動、闇の魔力か! この異常さはなんだ……だが舐めるなよ、小僧!! 」
将門の妖気も更に膨れ上がり、周囲の温度すら上がる。将門の動きがコマ送りの様に加速した! それに合わせてクラインのギアも一段上げ、将門の右手を斬り飛ばした!
「な! この霊体である我れが、斬り飛ばされるだと?! 」
その瞬間、将門は【村雨】から紫色の閃光が発せられ、頭頂から股間まで真っ二つになった!
「ぐっがぁぁあああ!! きき貴様ぁぁあ!! 」
更に真横から将門を切り裂いたその衝撃波が、右手の壁まで破壊した!
「ばば化け物か?!! 我が崩れる……おのれ! おの……ぁ……あぁ……ぁ……」
将門の依代となった鎧が、黒い塵と化して、ゆっくりと天に登ってゆく。
戦闘は終わった。だがクラインの紫色に光る瞳は元に戻らない。
「終わったの? ルバンス! 」
ミランが駆け寄ろうとするのを、エルトリアが遮る。
「様子が変だ! 暴走してる?! ジーク! 」
「わかっている。あの【村雨】だ! あれを鞘に戻すんだ! 」
ジークフリードが近づこうとするが、ルバンスの放つ殺気と暗黒の闘気に近づく事が出来なかった。胸を押さえてルバンスが苦しみ出す。限界を超えた動きをした為に、足と胸の毛細血管が破裂していた。血反吐を吐いて倒れ込んだクラインを見て、ライラックが【村雨】を鞘に戻すと、禍々しい暗黒の闘気が霧散した。
「ルバンス様! 」
ジークフリードが呼びかけるが、ルバンスの意識は暗い水の底に落ちて行った……
崩れ落ちたルバンスの呼吸と脈拍が何とか動いている事を確認し、フェルミナが治癒魔法を連続でかけ続けた。
それからドリスを救い出し、ルバンスが目覚めるのを待ってから撤収する事にした。ドリスは泣きじゃくりながら、ルバンスにしがみつき、離れようとしない。
「……ふっ…ふぁふあははは!!! 遂に覚醒した! あのハヌマーンと将門を一瞬で倒すとは……超帝国の血が目覚めた! あとは最後の仕上げだけだ。二年前に仕掛けた呪いを発動させる! 」
蘭丸は重要なパズルのピースが埋まった感覚に満足していた。
「ラスプーチン! 」
虚空に向かって声をかけると、何処からともなく返事があった。
「は! ここに居ります」
声はするが、姿は見えない。
「第二幕に移行する。闇風はどうか? 」
「転生は滞りなく。但し人数が多い為、時間を要しています」
「十人選べ! 其方と我で、彼の地に赴き最後の仕上げに取り掛かる。念には念を入れねばな」
腕組みし、夜の星々に語りかけるように言う。
「あと少しだ……憎き神よ」
【最後の仕上げ】をお送りしました。
(映画【戦場のメリークリスマス】を観ながら)




