37 風見鶏
【風見鶏】をお送りします。
宜しくお願いします。
西暦2140年、東京新宿区某所……
覆面した男達が、猛スピードでワゴン車を廃墟ホテルの立体駐車場に突入させる。四人の男達はそれぞれ武装していた。普通のヤクザ者が装備する様な旧式のロシア製ハンドガンではなく、各々がバラバラの最新装備を備えている。三階の駐車スペースにワゴン車を滑り込ませ、男達は車から降りてフォーメーションを組む。これから来るであろう何者かを迎え撃つつもりだ。極限の緊張感の中でも、呼吸と脈拍を一定に保つ訓練をしてきた為に頭は冷静だ。だがこんな平和ボケした国で、これほど追い詰められた事自体が異常だった。この国の警察も、外務省外事課も大した事は無いと、たかを括っていた為に、それがミスに繋がった。この国の時期主力戦闘機のテストデータを持ち出すだけの簡単な仕事の筈だった。だがデータを受け取る瞬間を襲われ、内通者は拘束された。このままでは本国から足切りされるかも知れない。
「……多分、小型ドローンで追跡されている」
全員が装備するヘッドマウントディスプレイは、味方の位置情報を共有、敵の動きを熱探知、紫外線探知などの知覚機能システムを通して可視化し、スタングレネードなどの、非殺傷攻撃すら阻止できる。
「まさか? 対ドローンジャミングは生きています。かなり離れた所からでないと……」
若い男は、GPSを活用した3次元マップと視覚データをリンクさせた。
「よせ!! 」
この隊の指揮官らしき男が呼びかけた一瞬、その若い男の頭が爆ぜ飛んだ!
「言わんこっちゃない。GPSを逆に辿られた……やばいハッカーがいるぞ! こんな事では本国に?! 」
言い終わる前に残り三人も頭を撃ち抜かれ倒れ込んだ。
「……ターゲット・クリア。状況終了だ。掃除屋をまわせ! 外事六課が来る前に撤収する! 」
立体駐車場から三百メートル離れたビルの屋上でPC端末に繋がれたライフルを解体する女が部隊に撤収を指示する。
「おい【風見鶏】、聞いての通りだ。報酬はいつもの口座に送金される」
女がPC端末に呼びかける。
『ああ、またのご利用を待ってるよ』
特殊な周波数の音声通信を行い、女は【風見鶏】と呼ばれるハッカーとの会話を終えた。
「この国の平和を守っているのが、何処の誰かもわからないハッカーとはな……内調特務班としては情けない話しだ」
今日の夜風は肌寒く感じた。内閣調査室のサイバー特殊部隊が一年かけても、このハッカーの尻尾すら掴めない。国家の敵になる様子は無く、逆に国家の危機管理にかかわる事案を独自解決して見せた手腕をかって、国家は緊急時にはギャラを支払う事を選んだ。それからはウインウインの関係が続いている。
「四人始末するのに三十分もかかったのか? 効率悪いな……さてと、だいぶ資金が貯まったな……そろそろシステムを構築する段階に入るか……と、ヤベ〜、量子理論のレポート提出って明日だったっけ? 」
少年と呼ぶには余りにも若い。歳の頃は六〜七歳か。大画面のモニターの電源を落として、机の上に散乱した大学の講義で使う書類を整理していると、下のキッチンから声が聞こえた。
「和樹! ご飯よ! 」
シチューを作ってくれている母からだ。
「は〜い! お母さん。いま行くよ〜」
カズキと呼ばれた少年は部屋を出て階段を降りていった。電源の落ちたモニターのそばに置かれた分厚い企画書に【VRMMORPG ファイヤーグランドライン 草案】と書かれていた。
◆◇◆
黒曜の祭壇に立ち込める妖気の密度が一気に上がった。ルバンスの身体を覆う【風獣】の魔力もそれに比例する様に上がって行く。
次の瞬間、ルバンスが大地を蹴って将門との間合いを一気に詰めた。身体が交差するかと思われたその時、【村雨】を将門に浴びせ斬る! 将門も自らの妖刀で村雨を撃ち落とす様に抜き放った!
キュィィィィィィィイイイイインンンンン!!!!
妖刀と妖刀の鍔が強烈な破裂音を響かせた! 一瞬の間を置いて衝撃波が周囲を襲う。フェルミナの身体が飛ばされ、それをジークが受け止めた。
「な、なんだと?! 」
ライラックは驚きを隠さなかった。今までのルバンスと違う。こんな強烈な魔力を爆発させるとは?! 皆が驚愕に目を見開き、二人の戦いに恐怖も忘れて心を奪われた。
「……小僧、貴様何者だ?! 」
将門の左脇の鎧に大きな穴が開き、そこから妖気が漏れ出している。なんと怨霊が膝をついた。
【風見鶏】をお送りしました。
【アリストラス大戦〜欲望の空】の彼と同一人物が登場。
(映画【ラストエンペラー】を観ながら)