36 仕切り直して
【仕切り直して】をお送りします。
宜しくお願いします。
ハヌマーンはラウンズからの猛攻を受けながらも、殆どダメージが通っていない。ジーク達もそれはわかっているから、ハヌマーンの足を止める為の攻撃に特化した。
「成る程、屍人では無いが囚われた何者かの魂をそのまま、あのデク人形を動かす力としているのか。小童はその何者かの魂を破壊する気じゃな……どうれ、それなら儂も少し手助けしてやろう」
平将門はそう誰となく呟くと、印を結びハヌマーンを睨みつける。全身から黒い妖気が溢れ出し、ハヌマーンへ触手の様に一気に放ち、ハヌマーンに絡みつく!
「小童! なにかやるなら、サッサとやれ! 」
将門の声と同時にルバンスの詠唱も終わる。
「……黄泉送りの神人よ、闇夜からの誘い人よ ルアードロス、グレン アロス! 屍は闇に、生者は黄泉路に! 神魔公滅!!! 」
ルバンスが腰の太刀の柄を掴み打ち鳴らす! 【妖刀 村雨】から莫大なエネルギーを引き出し、そこを中心として、眩い閃光が周囲に広がってゆく!
閃光を浴びたハヌマーンの外殻に火花が飛び散ったと思った瞬間、女の絶叫が聞こえた様な気がした。ハヌマーンは急に動かなくなり、その四肢が膝を折った。
◆◇◆
完全にハヌマーンは沈黙した。背中にあるハッチから白い煙が出ている。ハッチの取手を回転させて開くと、中から何者かが倒れ落ちて来た。
「な、なに? 」
フェルミナが恐る恐る見ると、そこには羊水に塗れた少女が倒れている。耳が尖っているところを見ると、エルフだった。
「……これがミュータント?! 」
ジークも絶句している。
「流石に四千年以上前のミュータントは死んでいたんだろう……この子は代用として使われたんだ……」
ルバンスは下唇を噛み締めながら、後味の悪さを頭をから追い出すのに必死だった。
「酷い事を……」
ライラックが、見開かれたエルフの瞼に手を当てて閉じさせた。
「アリストラスはこんな事を國として行っているのか? 貴様、人間かエルフが使われていると解っていたのか? 」
アトワイトがルバンスに食ってかかるが、それをエルトリアが諌める。
「……今回の事は王弟ドライアードの暴走が招いた事だが、皇太子として俺にも責任がある……」
そう言いながら、将門の方を見て、
「何故助けた? 」
「……小童のその情けない顔を拝むため……と言うのは冗談だ。ただ気に入らんから、手助けしただけだ」
鎧武者の瞳の奥は、邪悪な笑みを浮かべた様に見えた。
「仕切り直して、一戦交えるかい? 」
ルバンスは腰の太刀に手を添える。
「当たり前じゃろ? その為にこんな僻地までやって来たのじゃからな」
ゆっくりと二人は、黒曜の祭壇のあるフロア中央で対峙した。将門も腰の愛刀に手を添える。アトワイトは戦いに介入する隙を探したが、二人の間に割り込む隙を見出せなかった。観ているだけで冷や汗が止まらない。普通に考えればお互いに剣が届かない。だが二人の間合いは常人のそれとは全く異なっていた。
「その歳で大したものだな……」
将門は鎧に怨霊を住まわせている。当然肉体を持たない。だが、どうだろう? 震えが来るではないか?
「……おっさんも、その潔さ、怨霊なんかにしとくには、勿体無いな」
心底そう思った。将門のハヌマーンに対する怒りは本物だった。悪には悪のルールがあるのかも知れない。それにこの背中に氷を這わせる様な感覚は、未だかって経験した事がない恐怖だ……
(恐怖? 俺が……恐怖しているのか? これが本当の恐怖か……)
静寂と言う名の蛇が二人の間に戸愚呂を巻く。魂が収縮するのをジークは感じた。息をする事すら忘れるほどのプレッシャーの中で、誰もがこの戦いの行方を一瞬たりとも見逃す事など出来なかった。
「……動かないなら、俺から行くよ」
【仕切り直して】をお送りしました。
(OVA 【スプリガン】を観ながら)