35 頼みがある
【頼みがある】をお送りします。
宜しくお願いします。
「きき……き……さ……ま ?! 」
ルーべリアは自分の胸から生えた白刃を掴んで、銀髪の男を驚愕の目で見る。
「さあ、貴方もそろそろ出番は終わりです」
蘭丸は、さらに剣を背中に押し込む。
「うぐあ! ハヌマーンの……自律モードは不完全だ。こんな事を……すれば……暴走する……ぞ」
ルーべリアは力無く崩れ落ちた。それを確認し、蘭丸はハヌマーンの制御を自律モードに切り替えた。その瞬間、遠隔コックピットのモニターが全てエラー表示になった。
「どうしたのだ? ルーべリア、何が起きてい?! 」
コックピットのハッチから出てきた王弟ドライアードの首を切り飛ばして、飛んだ血飛沫にげんなりした。
「せっかくの衣装が台無しですね……さて、クラインさんはどうされますかね。リミッターを外さなければ勝てませんよ」
蘭丸は奥に囚われているドリスを一瞥し、何を思ったのか拘束具を外して解放した。意識を失っているが命に別状はない。
「全く、くだらない事をしてくれますね。婦女子に手を出すなど武士道の風上にも置けない」
王弟ドライアードの無残な姿を、ゴミでも眺める様に吐き捨てる。
「戦いに不純物は不要です。純粋無垢な力こそが至強! さあクライン! 貴方の全力を見せて貰いますよ! 本気を出さなければ暴走したハヌマーンと、平将門は倒せません! 覚醒の刻です!! 」
両手を天に掲げるその顔には狂気が渦巻いていた。
◆◇◆
一瞬、ハヌマーンの動きが止まった。それが再起動する様な音が響き渡り、次の瞬間、胸の様な場所が光を収束し始める。
「皆! 避けろ!! 」
ルバンスは全員に物理防御と魔法防御の障壁を展開する。間一髪、ハヌマーンから放たれた熱線ビームが周囲を焼き尽くす! ビームに晒された蛇頭騎士や暗黒騎士が直撃した者はバラバラに裂かれ、その破片は超高熱で燃え上がる。その周りに居た者も熱にやられて動けなくなった。そしてまたあの叫び声がこだまする。
ギャァァァァアアガガガガガガ!!!!
「この声……魔導機に繋がれたミュータントの叫び声か?! 霊体動力とは、確かミュータントの神霊力を動力にエネルギー変換する。あれを何とかしないと駄目だ」
ルバンスは皆を一旦退避させた。
(どうする? ミュータントの魂を破壊して、霊体動力を止めるしか無いか? )
《皆、頼みがある 》
ルバンスは念話でラウンズ全員に語りかけた。
《奴の外殻は超帝国で作られた日緋色金とか言う、ミスリルとオリハルコンの合金製だ。簡単にはダメージが通らない。奴を止めるには核になっているミュータントの精神を破壊して、止める以外に方法が無い。精神攻撃魔法の詠唱を行う間、奴を止めてくれ! 》
ルバンスは心の中で皆に頭を下げた。それが伝わったのか、皆反論など無かった。
《了解です! 奴を止めてみせます! 》
全員の心の声がハモる。
一斉にラウンズが突撃した。ルバンスの念話を介して、全員が意思疎通をおこない、連携する! ジークフリードとフェルミナはルバンスの援護の為、魔法障壁を展開する。
「とっておきを見せてあげるわ! 」
ミランがポシェットから取り出した縫い包みをハヌマーンの真横に放ると、巨大なレッドドラゴンと化してハヌマーンにファイヤーブレスを放つ! よろけたハヌマーンの足の関節に、凄まじい速さでヨシアとアトワイトが妖弓から矢を穿つ。突き刺さった矢が奴の動きを阻害した。
「効いてるぞ! どんどん打ち込め! 」
ヨシアが吠える。その隙を狙って跳躍したソリウリスの槍から繰り出される攻撃で敵の注意を更に引く!
「秘槍 【月影】!! 」
ソリウリスは目の前の地面に向かって槍を突き入れると、ハヌマーンの足元の影が槍衾となって襲いかかった! 徹底的に足を狙う!
「衝撃の火炎、進撃の雹演、我が剣に宿れ! ブラスアド カナルザラス! 」
エルトリアとライラックがお互いの剣を合わせて、同時に火炎魔法と、氷雪魔法を重ね掛けする。
「合体! 炎雹剣!! 」
お互いの魔力特性を合体させた付与魔法剣をハヌマーンに打ち込んだ! 相反する火炎と氷雪の魔力が炸裂した!
【頼みがある】をお送りしました。
(映画【ナイル殺人事件】を観ながら)