32 言ってる場合か!
【言ってる場合か!】をお送りします。
宜しくお願いします。
黒曜の祭壇のある祭事場の入口から向かって左側は切り立った崖がそびえ立つ。その崖側から回り込むようにして、ルバンス一行は入口へと近づいて行った。ちょうど生い茂る木々が、ちょうど良いカモフラージュになった。その崖の上から、さらに北東側に山を降った先の森から、鳥の群れが慌てた様子で飛び立つ。
「……あれは、暗黒騎士?! 」
ヨシアが、遠目に巨大な暗黒騎士達が、森の木々を打ち倒したながら、祭事場へ向かって来るのがわかる。それも一体や二体では無く、中隊規模の兵力だ。その中心に、あの鎧武者が骸骨の馬に跨り、進んでくる。
「なんで奴までここに来る、うっぐぅ?! 」
普段は冷静なエルトリアが悲鳴に近い声を出しそうになるが、アトワイトに口を抑えられ、最後は声がモゴモゴした。
「阿呆か! 大声をだすな」
アトワイトに口を押さえられたエルトリアを見て、ミランは自分で自分の口を抑える。
「どう見ても入口に向かって来るな……皇國と鎧武者が繋がってるとは思えないが……」
ジークフリードは、近くの大岩に身を馳せて、どうしたものかと思案していると、ルバンスが少しニヤけた顔をした瞬間を見逃さなかった。
「まさか? 」
「ああ、俺が呼んだ」
事もなげに言い切る。
「はぁ?! 何考えてんのよ?? 」
フェルミナとミランの声がハモる。
「毒を持って、毒を制すか……」
ライラックは遠目に鎧武者を眺めながら呟く。
「厄介事はさっさと片付けて、宿題しなきゃなんないんだよ」
ルバンスは【黒の蛇頭騎士団】からのメッセージを受け取って直ぐに、その同じメモ書きを弓矢にくくりつけて、鎧武者に打ち込んだ。少し違うのは日時を指定した事だった。
◆◇◆
鎧武者の一団が、黒曜の祭壇入口に到達した。その途端、背後の風景に溶け込んでカモフラージュされていた四体のゴーレムが動き出した。三メルデはある巨大はその体長とかわらない丈の戦斧を振りかぶりながら、暗黒騎士に襲いかかった。暗黒騎士達も負けじと、巨大な剣を振るう。鋼と鋼が撃ち合わさる凶悪な音が響き渡った。
「おうおう! すげ〜すげ〜! 」
ルバンスはやけに楽しそうだ。
「言ってる場合か! どうすんだよ? 」
アトワイトがイライラして噛みついて来る。
「まあ、落ち着いて、落ち着いて、奴らに掃除をして貰う。俺達が動くのはそれからだ。ドリスは蛇頭騎士団にとっては、大事な手駒だから、必死に守ってくれるさ。鎧武者の一団が完全に中に入ってから動く! 」
そう言って、ルバンス達は入口に近い岩の影に隠れてタイミングをはかる事にした。程なくして多勢に無勢、暗黒騎士達がゴーレムを破壊して中に入っていく。それを見計らい、ルバンス達も中に入って行った。
「だだ団長!! 」
蛇頭騎士団の団員から緊急事態を告げる笛が鳴らされた。それはゴーレムの魔導反応が消失したのとほぼ同時だった。黒曜の祭壇に至る道筋には大扉があり、その扉前のフロアで蛇頭騎士団と暗黒騎士団が正面から向かい合う事になった。
「何故ここに鎧武者が?! 皇太子の仕業か? 」
少し驚いたが、すぐに頭を切り替えてここは部下に任せてルーベリアは黒曜の祭壇に向かい、王弟ドライアードに報告をする。
「クラインめ、余計な事をしてくれたな、防御を固めろ! 転移結界を構築しろ! ここは大丈夫なのだろうな? 」
王弟ドライアードは捲し立てるようにルーベリアに追求する。
「殿下、その為の【黒の蛇頭騎士団】です。アンデット如きに遅れは取りませぬ」
「さっさとアレを使え! その為にここに陣取っているのだぞ! そうすればアンデット共もクラインも始末出来よう! 」
王弟の目には狂気の色が灯っている。だがアレは最終手段だ。まだ未完成の上に、下手をすれば此方の命も危うい……
【言ってる場合か!】をお送りしました。
(映画【ラストサマー】を観ながら)




