27 空間跳躍陣
【空間跳躍陣】をお送りします。
宜しくお願いします。
まだ残暑が厳しいとドリスは言っていたけど、この目の前に置かれた課題の山を見ると気持ちが寒くなる。特にこの魔導演算理論など、こんな面倒な計算などしなくても頭にイメージすれば済む話しだし、なぜ結果を即導き出せるのにその過程が必要なのか? 面倒臭い事この上ない。魔導構築論など最も不用だと感じる。理屈を捏ねて魔法が発動するのか?
「戦場でいちいち計算なんか出来るかよ! 」
ルバンスは、積み上がった参考書や教科書に突っ伏した。
実は未だに帝都の外には屍人の軍勢がひしめいていた。あれから膠着状態が続いている。グラウス皇帝の命により、学生は一旦学業に戻る様に言われてしまい、仕方がなく夏休みにまったく手を付けていなかった宿題をやる羽目になった。平将門とか言う怨霊の魂魄を剥ぎ取るための仕掛けに時間がかかるからと言う事だった。
「そもそも、最初に宿題なんかやってしまえば良かったのに」
ドリスは呆れ顔だ。
「さっさと宿題をやっつけた人は余裕だな」
拗ねてしまった。この辺は年相応というべきか……
「お子様ね、ブツブツ言わずにさっさとやんなさい! 」
「ルバンス様、何処で手が止まってるのですか? 」
エルトリアが助け舟を出そうとする。
「この、風雷魔法の構築をする際の、初期計算の公式の意味がわからない」
この世界ではアリストラス超帝国の魔導科学(魔法学と科学が融合した)の名残で、魔法発動で発生する現象を科学的に計算で求める方法、理論が存在する。
「そこに熱量と風速の数値を当てはめて、発動単位を入れて計算すれば……」
エルザも丁寧に教えてくれようとする。ドリスに比べて実に可愛げがあると思う。
「なに鼻の下伸ばしてんのよ! デレデレしない! またエルザのパンツでも抜きとろうなんて思ってんじゃないわよね? 」
直ぐにドリスの突っ込みが飛んでくる。思わずエルザはスカートを押さえる。
「あぁぁああ!! こんなの頭の中でイメージして! ズバッと行って、さささぁっとやれば、発動すんだよ! ガルルルル! 」
「そんな簡単に発動すんのは、あんただけよ! ガルルルル! 」
ルバンスとドリスは獣の様な唸り声を上げながら睨み合う。
「痴話喧嘩はいいから、次に進むよ」
エルトリアは先が思いやられた。
◆◇◆
広大な石造の校舎には様々な施設があり、八百年近い学園の歴史の中で、使用されなくなった場所も多数存在する。その中でも対魔法防御の研究施設にその影は集まっていた。
「ターゲットは補足したな? 」
「は! 現在、他の生徒達と混じって多重結界の施された補修室にいる様です」
「餌を撒いて、この場所まで誘導する。出来ればターゲットは捕縛したい。それ以外は皆始末しろ。元ラウンズのドロア・ブランに捕捉される前に蹴りをつけるぞ! 首尾は? 」
「空間跳躍陣を各回廊に設置しました」
「ならば状況を開始する」
学園の校舎と校舎を繋ぐ回廊にはゴドラタン帝国の歴史をかたどったレリーフがある。中には国宝指定の重要な物もある。その貴重な文化財を設置した回廊に不穏な輝きが現れる。魔導的言語を刻印した方陣だ。
「……ラウンズに伝達! 何かが入ってくるぞ! 侵入者だ! 」
いち早く外からの神霊力をジークフリードが感知した。それと同時に校内にアラートが鳴り響く。ヨシアが一番近い回廊に到達し、視界に入る前に魔力のこもった矢を放つ。妖弓から射出された矢は軌道を曲げながら侵入者に向かって飛び、そして命中した。
「死霊だと?! 空間を飛んだというのか? 」
ヨシアの矢はレイスと呼ばれる死霊に命中し、霧散させていた。
だが更に死霊が湧き出してくる。さらに屍人も。そこにソリウリスが駆けつけて来た。
「どうなっている? 」
「空間跳躍だ。この回廊の真ん中に魔法陣が引かれている。それを破壊する! おい! そこの人、各クラスに伝達して避難させてくれ! 」
ヨシアは近くに来た生徒に叫ぶ。ソリウリスは溢れだす屍人と死霊を早くも数体葬っていた。
【空間跳躍陣】をお送りしました。
(映画【悪霊島】を観ながら)
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