23 もう一匹の蛇
【もう一匹の蛇】をお送りします。
宜しくお願いします。
帝都スタージンガー城塞都市の外縁に死を振り撒く異形の者共が集結していた。その中でも一際怨念の強い存在がある。普通の人間なら見ただけで魂を破壊されかねないそれは、数多の骨で出来た巨大な軍馬に跨がり、采配をふるう。すると屍人の軍勢が統率のとれた動きをするではないか。
「なんだあれは? 屍人が隊列を組むなど聞いた事がない」
ゴドラタン帝国軍の軍司令であるランドルフ伯爵は夢でもいているかと疑った。屍人が命令を受け付けるなどと……
「あの中心にいる巨大な軍馬に跨がる鎧武者……やつが軍団の統率者だな」
ジークフリードは城塞都市の城壁から遠目にも敵の首魁を捉えた。全てのナイト・オブ・ラウンズが揃っている。
「……貴様に全権がある訳ではないぞ。あくまでも我らは独自に動く」
ライラック・バルバロッサは死の軍勢を眺めながらそんな事を言う。
「まだルバンス様を認められぬか? 」
ジークはやれやれと手振りで示す。
「皇帝陛下がお認めになられた。我らは陛下の下知に従う」
騒ぎを聞きつけたのか、アリストラス軍が国境近くで、演習をするとの情報が入っている。確かに身内で争っている場合ではないとミラン・グライアスは考える。
「だが奴一人でどうすると言うのだ? 我らがバックアップだなどと……」
奏撃の槍使いと言われるソリウリス・ヴァイアラン。帝国随一の槍使いの家系と言われるヴァイアラン伯爵家の長女だ。顔に包帯を巻き付けて、右目しか表から見えない。なぜこの様な姿かと言うと、幼少の頃に酷い火傷を負ったとか、じつは絶世の美女だとか、様々な噂がある。
「まあ、お手並拝見だな。すぐにボロが出るだろうさ」
長髪の美麗は弓を持った右手の袖の破れを気にしている。アトワイト・ランドルフはヨシアの矢が掠った事で自分が許せなかった。
◆◇◆
「どう言う事だ? スタージンガーで反乱でも起きたのか? 」
皇弟ドライアード・サージェスはこの予定の狂いをどうするか、考えあぐねていた。焦りからドタドタとアリストラス皇國宮廷の廊下を騒がしく歩く。
「いえ、どうも悪霊や怨霊の類が発生し、屍人の軍勢がスタージンガーを目指していると」
【白の蛇頭騎士団】の団長であるサルトリアスが殺されてから予定が狂い通しだ。その為に我ら【黒の蛇頭騎士団】までもが駆り出される羽目になった。
「どうなっているのだ? ゴドラタン軍が集結し、籠城したと聞いたぞ。これでは益々手が出せぬではないか? 」
「考え様によっては、混乱に乗じて帝都に侵入し、皇太子殿下と接触する事は可能かと……ただし中の状況が読めません」
黒の蛇頭騎士団団長ルーベリアは冷静に状況の推移を読み解こうとする。
「成る程な。ならば良い男がおる。ヴァイアの街を拠点にしている情報ギルドの長ならば帝都への侵入ルートの確保も可能だろう」
「……サルトリアスにクライン殿下の情報をもたらした男ですか? 信用にたりますかな? 」
「闇の世界で生きているのだ、信用第一だろうよ。名は知らぬが、確か長い銀髪の美麗だとの事だ」
「ならば手の者に早速」
(……ミイラ取りが、ミイラになるのだけはごめんだが……棚からぼた餅、サルトリアスが死んでくれたお陰で蛇頭騎士団は白も黒も俺の物となった。この王弟殿も大いに利用させて頂く)
◆◇◆
帝都スタージンガー城塞都市の巨大な堀に架かる跳ね橋を下ろし、ルバンスとナイト・オブ・ラウンズの面々は屍人の軍勢の前方に降り立った。凄じい瘴気が吹き付けてくる。数万の軍勢を前にしても、日和る者などこの中には居なかった。ミランなどは嬉々としている。
「ルバンス様、どうなさいますか? 」
片膝をついてジークフリードがルバンスことクラインに問う。
「うーん、とりあえず真っ直ぐにあの逆さ十字に磔になってる人たちを解放しに突き進む。その後は首魁の顔を拝んでから、さっさと城に戻るかな」
「承知いたしました。ラウンズ、聞いての通りだ。第一目標は住民の解放、第二目標は敵首魁の確認だ。敵軍を掃討しつつ前進する! 我らが民を解放した時点で騎士団がほぼ後方を確保する」
ジークも肝が据わっている。迷いがない。
「では行きましょう! 」
ルバンスはその一歩を踏み出した。
【もう一匹の蛇】をお送りしました。
(映画 【真田幸村の謀略】を観ながら)