22 籠城戦 (改訂)
【籠城戦】をお送りします。
宜しくお願いしますを
「此度の件は我の不徳。許されよ」
幼い皇帝はルバンスに頭を下げた。戦闘を行ったミラン嬢は跪き震えている。
「……頭をお上げ下さい。色々な行き違いがあったと思われます。現にラウンズの方々は私にとても良くして頂いています。それよりも陛下がここに来られたのは、あの異様な気配の為たと推察します」
「その通りだ。内輪で争う時ではない。このスタージンガーに正体不明の死人の軍勢が迫ってきている。丁度よい。其方もラウンズと共に我の傘下に入って貰いたい」
「それは構いませんが、宜しいので? 」
ルバンスは皇太子として正式にグラウス皇帝に謁見していない。
「余がよいなら、問題なかろう? それに手加減してミラン・グライアスを手球に取る其方の力を貸して欲しい」
(皇太子が手加減していた? そんな……陛下は見抜かれていた? )
ミランは更に縮こまる。そうこうしている内に、全てのラウンズが皇帝の前に跪いた。燻りはあるが、頭の切り替えは皆早い。
「わかりました。陛下の指揮下に入ります」
ルバンスは鞘ごと剣をグラウス皇帝に渡した。それを受け取った皇帝は鞘をルバンスの左右の肩に当てる。略式ではあるが、グラウス皇帝に臣下の礼儀をとった。
◆◇◆
すでに死人の軍勢は、スタージンガーまで半日もかからない所にまで到達していた。軍勢はさらに数を増やしている。中にはオーガやトロールなどの大型妖魔のアンデットや、レイス、ゴーストといった悪霊まで混り、巨大な死の津波となって押し寄せてきた。
「スタージンガーの都民と周辺の民は、城に収容いたしました。軍の編成はランドルフ伯爵の指揮のもとに編成完了です」
「あいわかった。あの軍勢を操っている者は索敵範囲にいるか? 」
「特殊な魔導反応が検知されます。核となる存在がいるかと」
「その核を潰せば軍勢も瓦解するか……火炎属性の魔法攻撃をその核に集中させよ。いざと言う時は余自ら出陣する」
「……何だ? この違和感……」
ルバンスは左手を顎にあてて思案する。なにか違和感がある。
「ルバンス殿? 何か? 」
「はい……敵の目的が見えません。アンデットの軍勢は確かに脅威ですが、この堅牢なスタージンガーを落とすには地を這う化け物では無理です。渓谷を利用した地形に深い堀が張り巡らされたこの城塞都市は完璧に近い。あれだけのアンデットを使役する存在に、それが理解出来ないとは考え難いのです」
「ふむ……他に目的がある。もしくは航空戦力がある。もしくは唯の馬鹿か……多分前者だろうな」
「私もそう思います」
「と言う事は、余を誘っているのか?! それとも其方が目的か? それならばアリストラスの関与が疑われるがな」
いくら王弟の差し金とはいえ、皇太子一人の命を取る為に、死者の大群を動かすなどあり得るのか? だが先ほど自分自身、出陣するなどと話したばかりだ。すっかり誘導されているではないか。
「どちらにしても魔法攻撃で敵戦力を削りながら、我らは籠城する」
◆◇◆
「あれがスタージンガー城塞都市か。確かに日の本には無い防衛陣地じゃ」
小高い丘に平将門は陣を張った。
「はい。かの皇帝を誘き寄せる事が肝要です。その為の駒は用意させました」
蘭丸の合図で、スケントンナイトが、捕まえた住民達を連行して来た。道中の村々で誘拐した者達だ。
「蘭丸……良いではないか。貴様の思考は我のそれに近いな」
「お褒め頂きありがとうございます」
蘭丸が目配せすると、スケントンナイトは泣き叫ぶ住民を老若男女の区別なく、木製の逆十字架に手足を太い釘で打ち付けていく。凄じい阿鼻叫喚だ。
「逆さ十字を皇帝に見える様に掲げてやれ」
平将門は悦楽の笑みを浮かべ、手を叩いた。
「物見からの報告です。かの敵は、住民を生きたまま逆さ十字に磔にして晒しています」
「なんだと?! 」
「陛下! 」
「わかっている。わかってはいるが……」
感情の抑えが弱いのは若さゆえだろう。
「……なら私が参ります」
ルバンスはそう言って立ち上がった。
【籠城戦】をお送りしました。
(映画 【the witch〜魔女】を観ながら)