21 帝国唯一 (改訂)
【帝国唯一】をお送りします。
宜しくお願いします。
その軍勢は、近隣の村々や町を蹂躙し、迷う事無く、帝都スタージンガーに向かって進軍を始めた。殺された民や家畜が、死霊となって軍列に加わる。当初五百体ほどだった軍が、いまでは万を超えている。蘭丸はその軍勢をみて、美しいと感じた。
「あの時、この術式が使えれば、徳川など恐るるに足らなんだ事だろう……」
蘭丸は遥か遠くを見つめ、何かを取り戻すべく、馬を軍の先頭に向けて走らせた。
軍勢の先頭には、巨大な骨で組み上がった軍馬に跨る鎧武者が、この死の軍勢を鼓舞しながら、その歩みを進める。
「見よ蘭丸! 我が軍勢を! この怨念に彩られた軍勢を止める事など出来はせぬ! 」
平将門。
平安期の東国武将。天皇の落胤筋として東国を平定。蝦夷との外交も担う俊才であった。当時の東国は飢饉や火山の噴火などの天災が重なり、また中央からの重税もあり厳しい生活を民にしいていた。その状況を朝庭に訴えたがもみ消され、ついに東国の朝庭勢力を駆逐して挙兵。朝庭の朱雀天皇に対して、【新皇】を名乗り朝敵となった。朝庭からの大勢力の前にわずか二ヶ月で敗北。一族郎党を皆殺しにされた。
日本最大最強の怨霊となる。
◆◇◆
その異様な軍勢の報が帝都にもたらされたのは、それから五日が過ぎてからだった。帝都の武官達も初めは化け物の類いが村々を襲っている程度の認識しか無かった為に初動が遅れた。
「騒がしいだけの武官など、なんの役にもたたぬ」
そう言い放ち、幼い皇帝が玉座から立ち上がる。判断が遅れれば致命的だと言う事が、まだ七歳の皇帝には理解出来ているのだ。それはナポレオン・ボナパルトの記憶継承をしているだけでは無く、天性の物だった。
「皇帝陛下?! 」
「ラウンズを招集しろ! いま何処にいる? ジークは? 」
「は!! そそれが……」
武官筆頭のバルバロッサ公爵は言い淀んだ。
◆◇◆
巨大なクマとトラの縫い包みが遠巻きにルバンスを威嚇しながら、その円を狭めてゆく。縫い包みである筈が、その身体は鋼鉄の硬さを持っていた。
「さあ! 私の可愛い子達からは逃れられないわよ! 」
クマの縫い包みの巨体が立ち上がり、その丸太の様な腕を振り回す。その凶悪な爪がルバンスの頭上に振り下ろされた!
だがその爪はルバンスの頭上すれすれで止まる。ルバンスの纏った風獣の術が、その凄じい攻撃すら止めてしまった。
それを見たトラの縫い包みが今度はその凶悪な牙を向けてルバンスに飛びかかるが、それをルバンスは空気の上を走る如く、何も無い空間を駆け登り、虎の首筋に回し蹴りを食らわした。
「なんですって?! 」
ミランの傀儡を簡単に遇らう者が、皇帝陛下以外に存在する事が信じられなかった。
「もう人形遊びはやめよう! 」
「なななんですって! ギッタンギッタンにしてやる! 」
さらにポシェットに手を突っ込み、なかから何かの束を取り出して、ルバンスの前の地面に放る。すると見るみるその束が巨大化し、動き出した。全身炎を纏った大蛇が数匹踊りでて、その巨大なアギトから炎を噴き出す。サラマンドル・スネークと呼ばれる化け物だが、これも縫い包みとは!
「なんでも有りだな! 」
思わずルバンスは笑みをこぼす。
「わわ笑ったわね! 消し炭になれ! 」
ミランの叫び声に連動して、火炎大蛇が一斉に炎を吐く!
するとルバンスが右手と左手、両方で指パッチンをすると、一瞬で大蛇が氷ついた! 氷雪魔法のダブルがけだ。呆気に取られたミランの後に立ち、
「手品の出し物は終わりか? 」
そういいながら、鞘に収まったままの剣先をミランに突きつけた。その瞬間、ルバンスのバランス感覚がおかしくなり、上下逆さまになった様な気持ち悪さを感じた。並行感覚を失い、地面に転がってしまう。
「すまぬが、それでも我が可愛い部下なのだ。許してやってくれ」
目眩が襲った視界に、ゆっくりとその姿が入ってくる。ミランは片膝をついて、冷や汗をかきながら、首部をたれている。だんだんと、並行感覚が戻り、なんとか立ち上がって目の前の少年の瞳を見返した。
「……君は?! いや貴方は? 」
「余は、ゴドラタン帝国唯一にして、そこのミラン・グライアスの所属するナイトオブラウンズを束ねる者。名をグラウス・ラア・ボナパルト・ゴドラタン」
【帝国唯一】をお送りしました。
(映画 【永遠の零】を観ながら)




