20 妖弓使い (改訂)
【妖弓使い】をお送りします。
宜しくお願いします。
ヨシアは回り込んだ矢先に強い殺気を感じて、近くの大木の影に身を隠した。中庭にある森の奥から殺気に狙われている。自分と同種の感覚を感じた瞬間、ヨシアが右に身体を飛び退いた。その身体があった場所に矢が突き刺さる!
「弓使い?! 」
ヨシアは直ぐに前方の茂みに向かって走った。走りながら防御魔法の詠唱を行う。森の奥から更に矢が飛んで来たが、途中でカーブを描く様に矢が曲がりながらヨシアを追ってくる。辛うじて防御の魔法盾で矢の攻撃をかわし、茂みに飛び込む。
「矢が曲がった?! 妖弓使いか! 」
ヨシアも背中の矢を三本抜取り、2本を口に咥え、一本を弓につがえて虚空に狙いをつける。目を瞑り、敵の殺気を探る。
「捉えた!! 」
そう呟くと同時に矢を闇に向かって放つ!! 放たれた矢は迷う事なく高速で殺気の主に向かって飛んでゆく。だが捉えた筈の殺気が有効射程範囲から遠ざかっていく。
「かわされただと?! 」
ヨシアは闇の奥へと一気に走り込み、殺気の主の前に迷う事なく踊り出た。そこには自分と同じぐらいの歳の青年が弓を構えるでもなく待ち構えていた。長い髪を邪魔にならない様に後ろで束ねている。
「ヨシア・グローリアス……ナイトオブラウンズ右翼第二位、そしてグローリアス伯爵家の家督を継いだのだったな? 」
そこには長髪を後ろで束ね、切長の瞳をした美影が佇んでいた。
「……君は、アトワイト?! 」
「やれやれ、なぜ? と言いたげだな」
「当たり前だ! よりにもよってジークの従兄弟である君が何故敵対する?! 」
「何故だと? 皇帝陛下に叛逆しておいて何故だと? 」
「陛下に叛逆など? 左翼が動いているのか? 」
「貴様ら右翼を粛正する為に我らナイトオブラウンズ左翼が動く。当たり前だろ?! 貴様ら右翼はあくまでも国家の為に動く対外的な組織だ。だが我ら左翼はあくまでも皇帝陛下ただお一人の為の組織。他国の皇子に膝をつく貴様らと同じラウンズだなどと虫唾が走る! 」
問答無用とばかりに、アトワイトと呼ばれた男は左手に持った弓の弦をめいいっぱい引き絞る。弓につがえた矢の先が青白く輝きを増す。
「我が妖弓より逃れる事などできん! 」
一気に放たれた矢はあろう事か途中で三本にわかれてヨシア向かって飛ぶ! 三本の内、本物の矢は一本だけだ。残りは幻影。ヨシアは素早く林の間を縫う様に動き撹乱する。だが妖力が込められた矢は木々を交わしながらヨシアを追ってくる。それも実体の矢か、幻影の矢かの区別もつかない。走りながら矢をつがえ、連続して二本放つ。その二本は追ってくる前方の二本に命中した瞬間、幻影矢が消える。その後方から更に速度を増した矢がヨシアを捉えた!
「?! 確かに捉えた筈だ?! 」
四方を探るが、ヨシアの気配が全く無くなった。
「……まあ良い。どちらの陰形術の方が上か、はっきりさせてやる」
そういってアトワイトも周囲の影に溶け込んでいった。
◆◇◆
校舎の屋上から中庭を眺める人影がある。この学校の生徒だがナイトオブラウンズの裏を司る左翼のリーダーである。四角い眼鏡を左手の中指で上に押し上げながら、その鋭い眼光は中庭で繰り広げられる戦況を分析していた。
「……ジークにヨシアか……中々やるな。流石と言うべきか……アリストラスの小倅は諜報部が言う程では無いな」
確かに瞬間的な魔力は凄じいが、魔力量は並以下だ。そろそろ息が上がる筈だ。そのとき微かな殺気を感じて迫り上がった屋上の屋根の更に上を見た。
「君か……フェルミナ……」
「何故なのライラック? 私たちが敵対する理由が無いわ! 」
問われたライラック・バルバロッサは悲しげな表情をする。
「君たち右翼を倒して、我ら左翼が世に出るのさ」
遠く中庭を眺めながら、そんな事を言う。
「正気なの? 」
「我ら左翼はラウンズとは言え、この帝国の闇を取り仕切る家系だ。君らの様に日の光を浴びて過ごす家系にはわからないよ」
「それは貴方の考え? それとも貴方のお父上であるバルバロッサ公爵様の考え? 」
ライラックは、その問いをフェルミナから聞かされると、益々悲しげな表情になる。
【妖弓使い】をお送りしました。
現在並行して、次回作【アリストラス大戦】のプロットを作成中。【アリストラス戦記〜災厄の渦】の加筆修正も行ってまいります。
宜しくお願いします。