2 ルバンス・アルバイン (改訂-4)
【ルバンス・アルバイン】をお送りします。
宜しくお願いします。
「俺は……何処で踏み外したんだ……ただ、あの子にもう一度逢いたいだけなのに……」
この暗闇の中、己の罪と罰を踏み締めて、走り続けるその先に、何が有ると言うのか?
何も無い……
何も……
もう走りたく無い。
◆◇◆◇◆
この事件の発端は、【アリストラス戦記〜災厄の渦】から十三年前に遡る……
朝靄の中を、息を切らして走るのは、とても好きだった。
背中の木箱を揺らさない様に走り抜ける少年はこれが日常の始まりだった。いつからだろ? 物心ついた刻には既に日課は始まっていた。最初は五件から、そして今は二百件……
「は、は、あと、十二件で終わりだな。今日は五分遅れてしまった」
ルバンス・アルバインは毎朝牛乳配達をしている。背中に背負った木箱に牛乳のボトルを満載した状態で歩きだし、ある程度配ったら走りだす。牛乳は1本づつ固定されているので、簡単には割れないが、あまり激しく動くと割れてしまう。その辺は上手いもんで、ギリギリのところでバランスを取りながら動いていた。
一時間ほどで終わらせて、家に戻ったら弟達の朝食の支度、洗濯など家の事をそつなくこなす。
「ルバンス! もうそろそろだな。自分の支度は出来たのか? 」
「昨日のうちに済ませたよ。でも本当にいいのかな? 僕みたいな取り柄もない、魔力も弱いやつが、あの帝立魔導学園なんてところに入っても……」
取り柄といえば、人から見たら役にも立たない変な魔法ばかり開発している事か……幼馴染が履いているパンツを強制転送させたり、居酒屋女主人のブラを強制転送させたり、父さんが隠していたエロ本を千里眼で盗み見たりとかエトセトラ……
「神父様が推薦状を書いてくれたんだ。胸をはって行ってこい! 」
父さんは俺の背中を叩いて送り出してくれる。
最初は何の冗談かと思ったが、神父様曰く、帝都が毎年奨学金で入学出来る推薦を今年はルバンスに割り当てたそうだ。なにがどうなってそうなったかは、不明。父さんも何故かそこをぼかしてる。
「うん。ありがとう! 魔法の勉強をして、母さんを目覚めさせたいからね! 」
そう言って身支度を整えて、両親に暫しの別れを伝える。母はある事情でニ年間魔法の眠りに落ちたまま目覚めない。王都で魔法の研究をして、なんとか母を目覚めさせたかった。
「行ってきます!! 」
「おい! 忘れもんだ! 」
そう言われて父さんから超重量の木箱を渡された。村はずれの山村に牛乳を届けろとのお達しだ。
(どこまで、コキ使うんだか……)
ルバンスを父さんと弟が見送ってくれた。父さんは元は帝都の騎士だったが、これもある事情で退団して、このマルークの村に流れてきた。それからニ年ここで暮らしている。何度かよその騎士団から入団の誘いがあったが、全て断った。今は牛を六頭育てている。
「ルバンス! 今からか? 」
「ルバンス! 帝都に行っても、悪い女に捕まるなよ! 」
「ルバンス!! 帰ってくるまで、あんたの童貞はわたしんだからね! 」
などなどと、大した人気っぷりだ。
村はずれの峠まで来ると、村の目印になっている大木の側に、幼馴染のフィーレが立っていた。ショートヘアの似合う村一番の美少女だ。要するに、この子の履いていたホカホカのパンツを強制転送させた事が見つかって神父様にたっぷりお説教をくらった。
「……行っちゃうの……」
「……ああ、魔法を学んだら、必ず帰ってくるよ」
「感謝祭には帰ってきてね! 待ってるから……」
「ううん! 必ず! 」
(我ながらモテるよな〜。罪作りな僕! )
「必ず帰ってきて、私の50ギニーを返してね! 」
(金かよ!! )
足を少し滑らせたが、取り直して村を出る。遠くに見える、バルミラル山脈を超えた先に帝都はある。十五日間の行程だ。腰の剣を確かめてから、木箱の帯を締め直して、ルバンスは走り出す。腰の剣はとても軽くて邪魔にはならない。ほとんど重さを感じない程だ。この剣は長い間、開かずの間で、埃を被って眠っていた物を親父が居ない時に引っ張り出した物だ。ちょっとだけ他の剣と変わっているところがある……この剣を見つけた時に、剣が喋りかけて来た様な気がした……まあ、普通はありえないが……
「大体、こんな木箱で今時配達するのはうちの家ぐらいだよな〜。他所はみんな軽い籐で編んだ籠に、強化の魔法をかけた物を使うのにな〜」
文句たらたらでも、配達は小一時間で終わらせた。木箱は次の配達時に、親父が回収するだろう。自分の荷物を背負い直して、軽やかに走りだした。
パルミラル山脈を越えて、一日経った。降り坂だから大分楽だ。予定より二日早く帝都に到着出来そうだ。
「……すぐに靴が壊れるな……」
靴をつくろうのに、毎度二時間かかる。
それなのに、予定より早く旅が進んでいる。
靴を直したら眠気が襲ってきたので、このまま野宿を始めた。こんな感じで帝都を目指しているのだ。
朝方街道を南に向かって歩いていると、北から豪華な六頭立ての馬車が来る。側まで来ると御者が声をかけて来た。
「帝都への道はどっちかな? 」
「もう少し行くと、左に分かれ道があるので、左へ行けば帝都です」
「ありがとう。君は何処まで行くのだ? 」
「私も帝都へ。帝立魔導学園の入学式に出ます」
すると馬車の窓を開けて女の子が顔を出す。金髪の可愛らしい子だ。
(ちょっと好みかも……)
「……ここから馬車で帝都までは、まる一日中かかるのよ?
あんた馬鹿? 徒歩だと七日はかかるわ! 」
捨て台詞の様に言いたいことを言ったら、窓を閉めてしまった。
(なんなんだ……)
御者は会釈して馬車にムチを入れて、スピードを早めた。
「……さてっと! のんびり行くかな! 」
【ルバンス・アルバイン】をお送りしました。
新作開幕です!
(映画 【リング】を見ながら)
※ブックマークを宜しくお願いします!