18 怨霊の王 (改訂)
【怨霊の王】をお送りします。
宜しくお願いします。
帝立魔導学園は、ゴドラタン帝国が勃興したと同時に発足した機関である。初代ゴドラタン帝国皇帝であるナポレオン・ボナパルトが前回の災厄の渦発生により、アリストラス皇家によって現世より召喚され、他の召喚者と共に災厄の渦を止める事に成功、そのまま現世に戻らず帝国を築いた。彼のこの世界での能力は、騎士でありながら魔導を扱えた為、帝立魔導学園では魔法剣士の育成に力を入れている。完全実力主義の帝国では、個人の能力が貴族社会の爵位に直結していた。
ルバンスの体調はまだ完全に戻っていなかったが、魔導学園内の寄宿舎の防御結界は帝国でも最高レベルであるから、守護する為には移動せざるを得なかった。
「魔導学園の理事会より返答が来た。今回の案件に対して、学園は……感知しない?! …… どう言う事だ? 」
ジークフリードは理事会よりの手紙を読み進めながら、やはり政治的な圧力があると理解した。
「おそらく裏の勢力が動いているかと」
生徒会副委員長ヨシア・グローリアスは今年一四歳。弓の名手ブラウン・グローリアス伯爵の長男でジークと共に次期ナイトオブラウンズの一角を担う。
「彼奴等も皇帝陛下のご意志で動いている訳では無い。早まって動いているだけだろう。理事会に圧力をかけるなど、愚かな事を……摂政のゴライアスがさらに裏にいるのやも知れぬな……」
現皇帝であるグラウス・ラア・ボナパルト・ゴドラタンは齢七歳、その皇帝を補佐奉るため摂政となったのがゴライアス・ブリューゲンバッハ公爵である。
「皇帝陛下は齢七歳といえ、すでに魔導にも軍略にも稀に見る才覚をもったお方。良き名君となられるだろう。我らが早くナイトオブラウンズとなり、ゴライアスの様な俗物を排除しなければならん。そしてこの帝国で隣国の皇子を暗殺されたのでは、我らの矜持にもかかわる」
ジークフリードは珍しく熱弁を振るう。
「素直に、ルバンス殿の事を気に入ったから、むざむざ殺させはしないと言えばどうだ? 」
「貴様とて、あの方の人隣に感じ入る物があったからこそ、膝をついたのだろう? 」
ジークは顔を真っ赤にして捲し立てた。
「ああ、そうだな。不思議な御仁だ」
◆◇◆
ルバンスは微睡む時間がとても好きだった。この世とあの世を行き来する様な感覚。何処かで自分に破滅願望でも有るのかと疑う事もある。最近時々夢に現れる銀髪の男……いつも冷えた手に引かれて、何処かに向かって歩く。その瞳は何処までも深く吸い込まれる様だ。
扉を叩く音に起こされてしまった。気怠い気持ちを横に置いて声をかける。
「少しお待ち下さい。いま開けます。どなたでしょう? 」
「私ですドリスです」
扉を開けると泣き腫らした顔のドリスが目の前に立っていた。ルバンスがドリスを中に招きいれ、どうしたのかと問う。
「ドリス……私はもう大丈夫だよ」
「私……貴方に何かあったら……苦しいのです…….」
「君を巻き込んでしまった。もう私と関わらない方がいい」
両手をドリスの肩に乗せて、優しく伝える。
「いやです……その様な事を仰らないで下さい。私くしはルバンス様と共に歩みます」
そう言ってから自分の言葉に顔を赤らめてしまった。だがもう気持ちは止まらない。強引にドリスはルバンスの唇を奪う。一瞬、ルバンスの身体が硬直したが、すぐに優しくドリスを抱きしめた。
唇と唇とが糸を引く。
「こんな事をしたら、毎日パンツを取ってしまうよ」
「構いません」
そして今度はもう少し長くキスをした。
◆◇◆
アリストラス皇國とゴドラタン帝国との国境に近い丘に帝国の戦死者を祀る公営墓地がある。その墓の中より、凄じいうめき声が無数に聞こえ始める。その声は数十、数百、数千と増え続けてゆくのだ。
「そうか、そうか、貴様らの怨念は我が晴らしてやろう……共に我が王朝を築こうぞ!! 」
「この凄じい神霊力、流石でございます新皇陛下」
そうこうしていると、地面の中から、巨大な馬が現れる。正確には生前は馬であったろう巨大な骨の集合体だ。
「良い馬ではないか、伴天連の馬にしては良い体躯じゃ。我が馬に相応しい」
「では参りましょう、平将門公よ! 」
【怨霊の王】をお送りしました。
(映画 【シャイニング】を観ながら)