15 心象結界 (改訂)
【心象結界】をお送りします。
宜しくお願いします。
ルバンスの朝は早い。
夏休みに帰って来たその次の朝から牛乳配達をさせるカインはどうかと思う。ましてや刺客が迫っているこんな時に。ジークフリードなどは皇太子に何をさせるのかと、カインに詰め寄ったぐらいだ。だがこう言う事に関してカインは一歩も引かない。決め事だから、やらねばならないの一点張りだ。ルバンスはもういつもの事だと、直ぐに支度にはいる。それに皆が付き合うと言い出したからややこしい……
「……無理に付き合う事はないよ……」
「何を言われる。騎士が主君の護衛をサボる訳には参りません」
「……だけど牛乳は持たない方がいいよ……」
ルバンスはひょいっと、軽々と牛乳が満載された木箱を背負って立ち上がる。ジークやエルトリアが同じ様に木箱の紐に腕を通して背負おうとするが、木箱はピクリとも動かない。
「ふぅんん!! 」
気合を入れるがびくともしない……
「……ななん、何キロスあるのですか?? 」
エルトリアが弱々しい声でルバンスに聞く。
「多分、九十キロスぐらいかな〜」
「九十?? 」
「こここれぐらい。どうと言うこと……は有りませんよ」
ジークは強引に背負って立ち上がる。がすぐによろけてルバンスが支える羽目になった。結局、木箱はルバンスだけが背負って、二人は前後を警戒しながら行く事になった。
「ナディア様にかけられた魔法は、意識を夢に止め置く術式ですね……あの様な特殊な術式は始めて見ました」
ジークフリードは一眼みてナディアに施された呪いを看破した。
「流石ですね。一眼でわかるなんて。そうあの術式は多重構造になっていて、同時に三つの呪いを解除しなければ、どれかの呪いが暴走する様になっている。この術式を施した奴は並大抵の奴じゃない……」
「その為に魔導学園に……一度、帝国の宮廷魔導士ナルザラス殿に引き合わせいたします。同時に三つを解除するなら、最低三人の魔導士が必要です」
ルバンスは駆け足で牛乳を配っていく。なにも背負っていない二人が、ルバンスについて行くのがやっとの状態だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、うぐぐ、……なんなんだあの人は……どんな体力してるんだか……」
エルトリアは既に参ってしまっている。これでは護衛どころではない。ルバンスが帝都まで走ってやって来たと言っていたが、最初は冗談だと思っていたが、本当だったとは……
急にルバンスの歩みが止まった。
「……知らない足音だ……体重移動が一定、歩幅も一定……暗殺者だね……ジーク、エルトリア! 一旦帰るよ」
ルバンスは千里耳で村人ではない足音を探知した。少しづつ範囲を狭めて来る。
「父さん! 敵が来る! 」
その言葉でカインは直ぐに剣を掴んで外にでる。ルバンスは部屋に入るなり、詠唱を始めた。家その物には常時結界が施されている。その結界を強化する魔法をかける。
「ルバンス!! 」
カインが敵と遭遇した。剣を交える音がする。
「エルトリア! ドリス! 母さんを頼む! 」
そう言ってルバンスとジークは外に出た。カインの背中に斬りかかろうとした男が、地面から噴き上がった強烈な炎で焼かれる。ルバンスが指を鳴らしたのだ。
「その子供だ! 始末しろ! 」
黒い革鎧をつけた男が二人、左右から斬りかかってくる。白刃を受け流し、ジークが男の足を斬りどばした! ルバンスはもう一人の男を殴りつけ、倒れた男の腕を折った! その瞬間、世界の色が変わる。空気の色まで変わった感覚に襲われ、ルバンスは身構える。
「心象結界?! 」
「なんだこれは? ルバンス殿! 」
ジークも同じ風景を観ているようだ。
「近くの術士をやる! ジークは援護してくれ! 」
そう言ってルバンスは足元に円を描く。小刀で親指を切って、血を足元の円の中心に一雫落とす。
「天の理り、地の理り 我が血肉を贄として、王の帰還を促せり ラウラ リアルス ヴァルアドス……」
結界内に人の影が起き上がり、ルバンスに襲いかかる! それをジークが必死に叩き斬る!! だが切っても切っても、次々と影が起き上がって来る。
「こいつら、切りがないぞ! 」
「……星の王よ、我は暗黒精霊の代行者! 烈空魔槍陣!!!! 」
地面から無数の黒い槍が天に向かって撃ち出される!! すると、空間に亀裂が入り、この異空間が崩壊し始めた! ぼろぼろと、引き裂かれた空間の破片が辺りに散っていく。
ルバンスが袖口から細長い針を取り出して投げた!
「うがっ!! 」
木の影から針が喉に突き刺さった男が倒れてくる。異空間を作った術士だ。
「ガーム?! おのれ、やはり貴様は危険だ! 俺が始末する」
そういって蛇頭騎士団団長サルトリアスは、腰の円月刀を抜いて構える。
【心象結界】をお送りしました。
(映画 【カンフーパンダ】を観ながら)