14 蛇頭騎士団 (改訂)
【蛇頭騎士団】をお送りします。
宜しくお願いします。
入り口付近を監視する為に、このテーブルについて、酒を開けた。約束の時刻はもうすぐだ。ガラールの街の宿屋は酒場と兼任している。男は宿屋に雇われた娼婦の誘いを断ってもう一杯酒を注文した。
「……あまり飲まれると、仕事に触りませんか? 」
男はいきなり声をかけられて、背筋に冷たい物を感じた。
(この男、いつから居たのだ?? )
「貴様……よい趣味と言えんな……」
蛇頭騎士団団長サルトリアスは、声の主にも酒をつぐ。
「失礼、どうも気配を消す癖があるようでして……」
フードをまぶかに被った男は美しい銀髪をしている。立ち振る舞いから剣士である事がわかる。東洋人で銀髪は珍しい。
「親子の消息は? 」
「タイランド領の東に入った事は確認出来た。だがそこからの消息は不明。親子と共にカイン・アルバインとその息子が共にいる」
「タイランドからの護衛は? 」
「確認されていない」
「上出来だ」
サルトリアスは皮の小袋をテーブルに置いて店から出て行った。蛇頭騎士を見送る銀髪の男の口元には薄ら笑いが浮かんでいた。
「……さて、餌は用意しました。喰らえば、彼も覚醒するでしょう。でなければ宝の持ち腐れですね。期待していますよクライン殿……あとは学園から戻って来て頂かないとですね……」
◆◇◆
暗い闇の底を歩いていく……
銀髪の男が俺の手を引いて行く……
俺は妹の手を引いて行く…………
「……お兄さま! 何処まで行くのですか? 」
「……母上を目覚めさせる為のすべが、この奥にあるんだそうだ……」
クラインは妹のエレクトラの手を引っ張って、闇の奥深くに進んで行く。
「……これ以上いけば、戻れなくなりますよ。駄目です。お兄さま!! 」
エレクトラが必死に足掻いてクラインを止めようとする。
「我が儘を言うな! 母上を助けたくないのか? 」
「……この深い闇の底に全ての希望があるのですよ。さあ行きましょう! 」
銀髪の男は振り向きもせずに、クラインとエレクトラに話しかける。頭の中が溶けて無くなるみたいだ。
朝の日差しが顔に降り注ぐ。何処かで鳥の鳴き声がする。
「……またあの夢か? 」
ジークフリード達に全てを話してから二日がたった。昨日教会から到着した手紙にはカインが怪我をして動けないとある。直ぐに荷物を纏めて今日の昼にはタイランドへ向けて出立するつもりだった。ジークフリードが護衛につくと言い出し、話しが大きくなったが諦めた。
ちょうど準備が終わる頃にドアがノックされた。
「ルバンス様……準備は如何でしょうか? 」
ドリスの声だ。彼女も同行するみたいだ。押し問答になるから、反対はしなかった。反対しても護衛として勝手について来るだろう。
「いま準備は出来たところだよ」
ドアを開けて、ドリスを招き入れようとするが、恐れ多いと言われて固辞された。なんだかやり難い……
ドリスと共に食堂に行くと、既にジークフリードとエルトリアが待っていた。エルザとフェルミナ、ヨシアは留守番だ。エルトリアは里帰りみたいなものなので、移動にはタイランド家の馬車に乗せて貰う事になった。公爵家だけあって、八頭立ての豪華な造りをしている。本当は自分で走って帰った方が早いんだけど……
一行はバルミナ山脈を越えて行く。八頭立てなら7日ほどの道のりだ。馬車の中から使い魔をカインに向かって放つ。明後日にはカインの手元につくだろう。
旅は順調に日数を消化してついに山脈の麓までたどりついた。
「あれがバルミナ山脈だ」
エルトリアが説明する。バルミラ山脈を越えたらそこはタイランド領だ。もう夏だというのに、標高が高いせいで、すこし肌寒い。ドリスは山脈越えなど初めてなので、すこしはしゃいでいる。そのたびにジークフリードがドリスを嗜める。こいつは本当に堅物だ。
「パーメラの村が見えてきた」
村の境界の目印になっている丘の大木を馬車が過ぎて行く。村の広場を通りすぎて、もう一つ丘を登った先にカインの家があった。
「凄いど田舎……いえ、落ち着いた所ね」
ドリスがエルトリアの手をかりて馬車から降りる。
するとすぐに家からカインが出てきた。
「?! 怪我をされたのではないんですか? 」
ルバンスはその瞬間、誘き出された事を理解する。辺りを警戒して、カインに走りよった。
「ルバンス。俺からの連絡は届かなかった様だな」
カインも警戒している。二人の雰囲気でジークフリードは察したのか、エルトリアと二人で、馬車から少し離れて警戒に入った。
「教会から父さんが怪我をしたと?! 嘘ですか……」
「アリストラスから刺客がタイランド領に入った。それが二日前だ。もう村に来ている可能性もある。周囲に結界は張ったが、敵は蛇頭騎士団だ。何処まで通用するか……」
「……暗部の連中まで……なりふり構わずか……」
【蛇頭騎士団】をお送りしました。
(映画 【マトリックス】を観ながら)
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