10 麻薬密売 (改訂-3)
【麻薬密売】をお送りします。
宜しくお願いします。
ゴッドラタン帝国……
成立したのは九百年以上前……
災厄の渦を終息させた十剣神の一人が、
流浪の旅の末に、この地の迫害された民を率いて、
帝国を興した。
「……エルトリア。君はタイランド公から俺の事を聞いてるんだよね? 」
ルバンスはいきなり核心部に触れる。学生食堂の隅にあるテーブルに二人で座り、一緒に蕎麦を食べている。
「……バレてたのかい? そうだ。僕はエルトリア・ラ・ボナパルト・タイランド。息子だよ。父上から君の事は聞いている。でもその事とは関係なく、僕自身が君に興味を持ったんだ」
「この学校は、立場を平等にする為にネームを伏せるからな、ドリスもなんだか勘違いしてるみたいだし……君は反生徒会なのか? 意外といけるね、この蕎麦」
蕎麦の器から、魚の揚げ物を箸で摘んで口に放り込む。
「そこまで、気づかれてたのか? まいったな……だが僕は君を生徒会との争いに巻き込むつもりは無いよ。目立つのは良くないだろ? 」
エルトリアは俺の本当の素性以外は、全てを理解している様だ。
「君にその気は無くても、勝手に事態が進行してるからな……面倒だから、さっさと終わらせて平穏を手にいれるよ……一つ聞きたいんだけど? 」
「なんだい? 」
「なんで……生徒会に……逆らうんだい? 」
蕎麦をすすりながら問いかける。幼い頃から逃亡生活を送っているからマナーは身についていない。
「生徒会長のジークフリード・ランドルフは人格者だよ。ナイト・オブ・ラウンズの筆頭家で、ランドルフ伯爵は、幼い皇帝を補佐する摂政家でもある。非の打ち所がない」
「なおさら何でさ? 」
「非の打ち所がないからさ。物事は白黒で割れるもんじゃない。僕らは自由でいたいのさ。書記のブラームス、奴がランドルフに取り入って裏で好き放題やってる。その尻尾を掴んで暴いてやるんだ。脅されて傷つけられた女の子が沢山いるって話しだ……ランドルフの目を覚まさせてやるんだよ」
「頭の硬いお坊ちゃんが、悪党の書記に良い様に利用されてるのか……」
「僕らがいま調査して、ブラームスの行いを全て表に出してやる」
「……奴らとの日時は三日後だよ、それまでに暴けるのか? そもそも、女の子達はなんで脅されてるの? 」
「どうも、麻薬を無理やりやらせて、それをネタに脅されてるみたいなんだ」
「……学生の範疇を超えてるな……マフィアと同じじゃないか……」
ルバンスは汁蕎麦の出汁を全て飲み干した。
「そりぁ〜見過ごせないな……」
◆◇◆
酒の匂いと、煙草の匂い、歓楽街の一角にある非合法の酒場。中では裏カジノと売春宿が併設され、怪しげな輩が出入りする。ブラームスはこんな闇の世界で産み落とされた。食うに困って、教団の施設で育ち、今の里親に拾われた。その肩書きはブラームス・レッドブランド子爵。貴族に相応しい教育を施されたが、どうしてもこの懐かしい場所に惹かれてしまう。モンスター専門の密猟者や、拐かし、暗殺を生業にする者もいれば、毒薬や麻薬を売り捌く売人もいる。
「どうだ? 一級品だろ? 」
片目を失った男が、乾燥させた植物をパイプに詰め込んで火をつけてみせる。
「誰に物を言っている……こんな安物……八十ギニーがいいところだ……もっといい物は無いのか? 俺のルートでこんな物は見向きもされんぞ」
ブラームスが相手にする顧客は貴族や騎士どもだ。変な物を提供すれば、自分の身が危うくなる。
「……ならこれはどうだ? 」
別の木箱から取り出した物は、見るからに先ほどの品とは違った。
「あるじゃないか? 幾らだ? 」
「これは、アリストラス皇國の四大貴族が扱う最上級品だ。五百ギニーだな」
「高すぎるだろ?! 」
「…….嫌ならいいんだぜ? 他をあたりな」
「……三百ギニーだ。それに貴族の女もつける」
「……よし。それなら商談は成立だ。三日後の明け渡しになる。それまでに用意しな! 女は傷つけるなよ! 」
片目の男は舌舐めずりする。
「ああ! 大事な商品だからな、もうあたりも付けている。明日には手に入るから、楽しみに待ってな! 」
ブラームスは人に見せられない邪悪な笑顔を浮かべた。
【麻薬密売】をお送りしました。
魔の手がルバンスの周辺にまで伸びてきます。
(映画 【アンタッチャブル】を観ながら)
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