第8話 出張
監視しに行くのに必要な荷物を揃え
リビングで本を読みながら
コーヒーを飲んでいると
玄関のチャイムが鳴る
ドアを開けるとオーナーがいた
もう監視へ出発ということだろう
基本、監視は1週間かけて行われる
その間、ギルドの仕事は休みになる
「行こうか、リクス」
「分かりました」
俺は荷物を持ち、家を出る
××××××××××
「では、担当の人の代わりにあなた達がいらっしゃったということですね。護衛、よろしくお願いします。ダリア・バウマンと申します」
「よろしくお願いします。僕はリクス・シュベルツと申します」
「私はユーリス・クライマーと申します」
ユーリス・クライマー、オーナーの名前である
俺達は今回は貿易運搬の
護衛をすることになっている
担当の人が1週間
有給休暇を取り
その代わりに俺達が来たという
理由付けにした
監視することは
ダリア本人にはもちろん伝えていない
「では、もう出発しましょうか。馬車に乗って下さい。危ないと思った時、言いますので、それまでは、品が倒れたりしないように、支えたりしておいて欲しいです」
「了解しました」
早速、俺とオーナーは馬車に乗り
ダリアは御者席に乗る
「では、出発します~。ハッ!」
パンッ!
掛け声と共に馬車が動き出す
パカラ、パカラ
馬の蹄が地面に当たる音が良い音だ
馬車の揺れ具合も丁度よく、心地いい
そんなこと感じている暇はないけどね
もし、ダリアが潜伏者であるのならば
味方との情報交換は
貿易相手国に着いた後
品の確認をしてもらう時にするか
運搬中に俺達が
品が倒れないように
注意している時か
どちらにせよ
ちょっとした行動も怪しいから
集中しないといけない
だが、今回はオーナーがいて
見逃し、聞き逃しはないと思うから
大丈夫な気がする
「にしても、最近、物騒ですよね~」
「はい?」
いきなり、喋りかけられたせいで
失礼な返事になってしまう
「あぁ、すいません。変な返事になってしまいました」
「ハハ、いいですよ、そのくらい。喋りかけられると思ってなかったでしょ?」
「そうですね」
なんかフレンドリーな人だ
「こういう運搬業している人って、1人でやっている人がほとんどで、喋り相手が護衛の人しかいなくてね。運転しかしないと思ったらそうではないんですよね」
ニコッとしながら言う
俺が思っていた感じと違っていて
もっと、静かなものだと思っていた
「まぁ、寂しいから、話しかけているだけって感じなので。相手になって下さると僕としては嬉しいです。もちろん、強制はしませんよ!」
思ったより、運搬業の人も
大変なんだなと思い
そのくらいならと
応援する気持ちも添えて
俺は話し相手になることを容認した
「では、さっきの続きなんですけど。物騒ですよね」
「そうなんですよね。怪事件とかがあって、あれまだ犯人捕まってないんですよ!」
「うわぁ、それは怖いですね。リクスさん達も気を付けてくださいね」
「大丈夫ですよ!僕たち強いんで!」
「フフッ、頼もしいですね」
笑顔が素敵な男性だな
この笑顔を女性に見せたら
絶対にコロッと落ちるだろうな
と、無駄なことを考えていると
オーナーに後ろから、頭を叩かれた
「おいっ、品の注意を怠るんじゃないよ」
「あ、すいません」
それを見てダリアはまた笑った
「そんな、真剣に品の注意をしなくていいですよ~、ユーリスさん。ある程度、紐で結んだりしているので。凹凸が酷い道に入った時とかに注意して下さればいいです~」
「あ、そうですか。分かりました」
オーナーが注意されている
絵面は新鮮だったので面白かった
「アハハ!オーナーが注意されてる!」
「少し真面目過ぎたね、私」
皆で笑ったりして
和やかな雰囲気で楽しかった
しかし、空気が変わった
「あぁ~。これ、まずいかもですね。すいません、護衛お願いします」
「任せてください!」
「了解です」
俺とオーナーは馬車を降りて
辺りを警戒する
「これは、囲まれているね。この感じ、この気配は魔人かな」
「魔人ですか、それはまた厄介な」
オーナーが言った、魔人とは
普通の人とは異なる種族
種族として、人よりも強い存在だ
そんな奴らが何故、ここに
「リクス、襲い掛かってきた順に殺す。分かったか」
「はい!」
前方に1人の魔人が現れる
背丈は俺を楽々見下ろせるほどある
しかも、筋肉がとても発達している
そいつが喋り出した
「さてと、お前らはどこの国の奴らだ?」
魔人が何故、人間国の名前を聞く?
遠い昔、魔人と人間は種としての
力が違うので、お互いに干渉せずに
生活するという決まりをお互い、約束した
だが、今、目の前にいる
魔人は人間国の名前を聞いて
どうするつもりなんだ?
もし干渉してくるようであれば
今ここで、気絶させて
領土に送り返さなければならない
でも、それを実行すれば
それを口実に攻めてくるかもしれない
ここは安全に話し合いだけで
済ませないといけない
「いや、それを言う前に、お前らに確認しなければいけないことがある。それを聞いてどうする?」
「それはお前らには関係ないな。俺も手を出したくないんだよ、弱い者いじめは嫌いだしな」
弱い者いじめか
確かに種という観点から見れば
俺達は弱い立場にある
しかし、侮辱された感じがして腹が立った
俺がイラっとしたのを
オーナーは察し、俺の前に出て
魔人と会話を始める
「もし、人間界に干渉するようなことがあれば、ただでは済まないぞ。それは分かっているのか?」
ハハハッ!
がたいの良い魔人が笑い声をあげる
何が面白いのか
「先に干渉してきたのは、人間界の方じゃないか!」
どういうことだ
少なくとも俺の国ではそんなことはない
他の国がそんなことをしたのであれば
重罪だぞ!?
全ての国から袋叩きにされることになる
それを分かって、やったのか?
どちらにせよ正気じゃない
それを聞いたオーナーは返答した
「そうか、私達の国はラミュー王国だ。これでいいか」
「ほう、ラミュー王国か。なら違うな。止めて、悪かったな。行っていいぞ」
そう魔人が言うと
囲んでいた気配が
次々と消えていき
道が開けた
何だ?
やけに素直だな
怪しいが何も起こらないに
越したことはない
行かせてもらうことにしよう
俺達はまた、馬車に乗って
貿易相手国へと進んだ