発想現象
「じゃあここには、死んだ生物はすべて集まっているということですか?」
死んでからの疑問はすべてこの、目の前にあるイシに尋ねれば良い。前の世界(生前に居た場所)を基準にして、すべての答えを教えてくれるらしい。
イシは答えた。-その通り。生物はすべてここに還る-
「昔の人も? 大昔の人も? 猿とか猫とかも?」
イシは答えた。-その通り-
「でも、そんなにたくさんの生物が集まったら先に死んだ僕の親も、これから来る大事な人も誰も見つけられない……」
-そんな事はない。君に関する全ての人はつながっている。いつでも会う事ができる-
僕は自分の死を自覚していた。目を覚ましたときに見た花畑、先に亡くなっていた家族との再開。お疲れ様と声をかけられ、再開を喜びつつも「まずはこっちに行くんだよ」と案内された先がこの場所の入り口だった。
また後でね、と消えていった家族は僕の焦燥感と混乱を他所に笑顔だったか。
それからこの場所に導かれ、このイシのある部屋に来たわけだが。
「ここから出たらどうやって会いに行けばいいんですか?」
-まずは勘違いを正そう。君はこの先に行く場所を、君の生きてきた場所のように考えているだろう-
「違うんですか?」
-君たちの文明はサーバーというものを発明した。その発想の出どころを教えよう-
「サーバー…? ネットとか、オンラインゲームの?」
-その通り。君たちの世界に生きる人間が"発想"したものが、地球での新しい技術の元となっている-
「それはまぁ…つまり…?」
-サーバーと呼ばれるものは、こちらでの生物のあり方とほぼ同一と考えていい。ここにいる者たちはすべて自分の世界を持っている。そこに入り込むための要素はただ願えばよいだけだ-
「じゃあお母さんに会いたいときはお母さんの世界に行きたいと願うだけ?」
-その通り。君がちょうど、生前に遊んでいたオンラインゲームのログインと同じ。世界は願い、願われた者同士で繋がる-
「少し心配していたんです、お母さんは人にあんまりなにか言える人じゃなかったから、もしも死んでからも嫌な人にいじめられたりしたらどうしようって……」
-その心配は一切無い。誰もが集まれるオープンな空間もあるが、交流は願うもの同士で行われる。お互いを大事に出来る者だけで交流する-
「そうだったんだ……よかった。本当にオンラインゲームのフレンド機能みたいっていうか……」
-その通り。先程の"発想"について補足しよう。君たちが思いついた技術やシステムなどは、基本的にこちらにあったものを"思い出し"、そして"模倣した"ものが多い。
そういったもの、意識は全てこちら側、"還る場所"の深部で繋がっているために得た「発想」だ-
「(僕はいわゆる阿頼耶識、というものを思い出した。もしかしたら阿頼耶識というものを思いついたのも、それを元々持っていたからなのかもしれない、と考えてしまうような説明を聞いている)」
-こちらの世界は最初、一つの空間だった。だが増えすぎた生物を分散させるために"世界"というシステムが編み出された。それをこちらの意識の深部から思い出して"発想"した。発想現象というもので、こちらとそちらは奥底で繋がっていることの証明でもある-
「発想……」
-発想や直感の一部は意志の深部で繋がるこちらから届いたこともあるだろう。自分の知らないものを具体的に考えたことがあっただろう。死後の世界や、宇宙の果てを。一人ひとりその思考の決着の付け方が違うのも、こちらでは発想したものが具現化するからだ。だから皆違う発想をするが、同じ題材を考えたりする。でもここへ還ってくれば全てに納得出来る-
「ああやって色々と変なことを考えたのは、ここに来れる事の証拠みたいなものだったのかな……」
-その通り。繋がっているからこそ、自分の世界以上のことを考えられるのだ。更に説明が必要なら、なんにでも答えよう-
「……今はいいかな。それよりも……」
小難しい説明は今はどうでも良かった。今はただ、大事な人がここにいて、こっちに来たことでいつでも会えることがわかっただけでいい。
-君は生前、人を大事にしていたようだ。会いたがっている人がたくさんいる。君の経験してきたことをゆっくり話すと良い。時間はたっぷりある。では、願うのだ-
僕はいつの間にか現れた扉のノブに手をかけ、あの人の顔を想いながらその戸を開いた。
書き溜め無しの発想勝負。こういうことを考えられるのは、本当にそうだから、と言っても確実に反論出来る人はいないので、可能性の一つにはなるのではないでしょうか。
だからまた会えるよね、という話でした。