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仮想現実シミュレーションゲーム


 最後は一言も喋れなかった。伝えたい言葉がたくさんあったけど、一つも発せずに私は息を引き取った。


 周りにいたみんなの声が遠ざかると同時に、体の痛みが消えていく。また会いたい、話したい、そういう強い感情も、体の痛みが消えていって、今までよりずっと楽になっていく事を捨ててまで絶対に果たそうと出来ないことを申し訳なく思う。


 そして光が広がっていく。包まれていくのか、吸い込まれているのかはわからないけど、次元の境界を分断する光を超えて、奥へ奥へとつながり、やがて


「!」


 私は目を覚ました。


 ぼんやりと状況を確認する。耳からは心地よい音楽が聞こえて来て、目を開けた先には本来白い光を放つ蛍光灯が自分を包む青いガラスを通じて鈍くなった青い光が差し込んできている。


 さっきまでいた場所とは全く違う。カプセル状のベッドで横になっている私は手元のスイッチを押し、上部のガラス窓を開き、ゆっくりと上半身を起こして周囲を見回した。


 そこには同じようなカプセルがいくつも置いてある。外側から開けられるスイッチは見えないし、開けるのはマナー違反だから開けないのだが。


 ちょうど私と同じくらいのタイミングでこちらに戻ってきた人がいたらしい。


「死んだ? どうだった?」


 朗らかにそんな事を言ってきた。優しい声音をしていた。


「看取られました。あったかかったなぁ」


 ここは天国? そうじゃない。私の思考は先程まで過ごしていた"人生"で感じていたものを確かに感じながらも、帰ってきた感覚に懐かしさと名残惜しさから自分が今まで頭を置いていた枕状になっている端末を撫でた。


 前に寝てから大体21時間ほど経過している。ここは旧世紀的に言えば「ゲームセンター」。


 私は仮想現実シミュレーションゲームの中で約60年を過ごして、この世界へ帰ってきた。壮大な夢のようでいて、はっきり覚えている。


 今まで過ごしていたのは全てこの機会がサーバーと繋がって見せてくれていた仮想現実で、私はそこでもう一つの人生を過ごしていた。


 挨拶を交わした人は優しく頷くと去っていき、私は隣のカプセルの中を覗いた。


 一緒に来ていたその人が安らかに眠っているように見えた。でも目の端からつーと涙が流れた跡が見えて、私は微かに笑ってしまった。


 それから数分後、隣のカプセルもビープ音がしてカバーが開いた。その人は起き上がるとこちらを見て、すごくホッとした表情で抱きついてきた。


 私もまた抱き返して愛を確かめた。


 ここは人間の技術革新がいわゆる「神の域」に達してからもう何千年と経った世界。


 世界の量子という量子からあらゆる情報を分析し、過去に生きてきた全ての人類が存在し、土地は無限の彼方まで広がり、寿命という概念も自由に出来る、全てがあって、同時に何も失くなってしまった世界の中で。


 人が愛を忘れかけたとき、この仮想世界に入って学ぶ。こうして人と抱き合う体温を思い出すために。

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、なるほど。それで、「だから死んでない」ですね。 祖父が亡くなった時、会いに行った帰りの電車が止まったんですよね。夕焼けに不思議な形の雲が見えたり。その時は、メッセージなのかなぁって思…
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